杜鵑草の花一輪

杜鵑草の花一輪

逸る気持ちを抑えながら、三条のお邸の東の対へと続く渡殿を足早に歩いていたぼくは、ふと足を止め、その場に立ち止まった。視線の少し先、東の対の立派な建物をぐるりと取り囲む簀子縁の辺りに、青々と生い茂る前栽の木々の隙間から、チラチラと鮮やかな色が踊っている。――――もしかして。ハッと思いついて、ここ最近、いつも決して怠ることのなかった大人ぶった所作も忘れ、ぼくはその場を弾かれたように駆け出した。やっぱり。思...