『三四郎』/夏目漱石
小川三四郎という青年が熊本の田舎から東京にやって来て、粗忽者の友人や風変わりな先生、謎の女性らと出会う、そのとりとめもない日常を描いた作品だ。扱われるエピソードはどれもごくささやかなもので、まったく派手さはない。三四郎がふらふらとあちこちを歩いて、人と会って話をする、まあそれだけの小説だと言っていいだろう。漱石の後期の作品にあるような厭世観とか自我の苦しみとかいったものとはまったく無縁だし、いわゆるビルドゥングス・ロマン的な成長物語というのとも、ちょっと違う。 とにかく全体的にナチュラルでさりげなく、なんというか大人の余裕を感じさせる作風だ。
2019/03/30 11:16