一筋の道
梅雨の晴れ間の落ち着いた陽の光が足元にあり志津は歩を緩めた。 郊外電車を降りてどの位歩いたのだろう。 すぐ目の下に鈍い水色のゆったりした海が見える。歩いている県道の右側は丘で幾種類もの 灌木が茂っている。 時々通る車ものんびりと走っていて志津はこの田舎加減が気にいっている。 二十分に一回位来る三両編成の朱い郊外電車も、ここから見下ろすと、結構下の方を走っているのが 分かる。 志津は少し笑って「はいやって来ましたよ。祐さんの好きな散歩道」この胸にいる人に話しかける。 ずっと昔、初めて二人で歩いた道。 海は今よりもっと大きくて広々とゆったりしていた。あの日、祐に誘われるまま 志津はなんとなくついて来た。 四月短大を出て志津が入った銀行で、新入女子行員の指導係の助手のようなニ、三人の 先輩の中に祐がいた。 希望に目を輝かせ、新しい..
2020/07/20 14:59