小田実『円いひっぴい』
円いひっぴいを読み終えた。読み終えるのに時間がかかった。小さな文字でびっしり500ページ超。万年係長の安井敏雄氏の語りによって当時の日本の庶民、世間が生々しく描かれている。当時の日本(1971発表)は、戦前から戦中の体験をした多くの大人たちがいて、言い分がある中で、負けた屈辱を抱えつつ、少なくもアジアの中では一番に這い上がったプライドで支えられつつ生きていた。その状況がまざまざと感じられる小説だった。少なくも現代の様ではなかった。(戦争を悪とし、民主主義や自由を当然のこととして受け入れる優等生的な態度ではなかった。)ポリティカリーコレクトもコンプライアンスもまだ出現していない、人間むき出しの生がそこにはあった。熱くムンムンして湿っていて、それでいて優しく厚みのある社会だった。『円いひっぴい』『冷えもの』『...小田実『円いひっぴい』
2025/04/28 18:08