夏至-3「ノウゼンカズラ1」(by水無月)

夏至-3「ノウゼンカズラ1」(by水無月)

キシキシと階段の音が聞こえると、それは"晩酌"の合図だ。「あ~涼しい~」と顔を上気させながら、皐月が部屋に入ってくる。「熱い人が来るから冷やしといたよ」「……何。嫌な言い方」ぽんとコップが置かれる。氷の浮いたスプライトだ。「もしかして絵描いてた?」「うん」「うんって…テスト勉強は?」「だいたいしたよ。今は息抜き」「のんきなのね」そう言って皐月はごくごくと喉を鳴らす。風呂あがりの皐月は、強烈な香りを身にまとっている。この頃は入浴剤に凝っているのだ。ぼくは風呂の順番が一番遅いので、嫌でもその"恩恵"を受けることになる。鼻をひくつかせるまでも無く、今日の入浴剤はどうやらハニーレモンだ。でもどんな香りで包んでも、それが皐月なら、目隠しをしてでも見つけだす自信がある。先のちびた2B鉛筆を置く。『息抜き』のはずがかえって疲...夏至-3「ノウゼンカズラ1」(by水無月)