雲の言葉
僕は毎日この海岸で腰を下ろして蒼い海を眺めていた。釣りをするでもなく泳ぐわけでもない。丸いサングラスをかけて古い麦わら帽子を被って、ただ蒼い海を見ていた。西に浮かんでいる水平線は曖昧でぼんやりと見える。その曖昧な水平線から離れて積乱雲が湧き上がっている。それは高校生の時に見た積乱雲とは違っていた。あの頃見た積乱雲は暴力的で、やたら青い空と一線を画すみたいに存在を主張していた。「ねえ、いつもそこで何をしているの?」隣で腰を下ろしている少女が不思議そうに訊く。「海と空と雲を見ている」「そしてビールを飲んでいる」「うん」「ビールを毎日飲んでいるけど美味しいの?」「美味しいときもあれば、そうでないときもある」「ふーん、あなたは我慢強い人だね。私は美味しくないものは食べないし飲まないよ」「それがマトモな人だ」「じゃ...雲の言葉
2025/02/09 09:19