その32 神隠し

その32 神隠し

「神隠し」堤君は、ある未解決事件を追っている。それは、約六十年前、堤君が住む町から「人が消えた」事件だ。その時、何人もの人間が泡のように次々と町から消えてしまった。堤君は、この事件で五十七名もの人間が町からいなくなっている事を確認している。事件は解決せぬまま、宙ぶらりんになっている。消えてしまった人間が今もどこかで生きているのか、亡くなっているのか、何も分からない。消えた人々は、それぞれ、直前まで、皆、普通に生活しており、書き置き等もない。それはいわゆる「神隠し」であり、もしかしたら本人達は自分が消えたことに気づいていないのかもしれない。そして、この事件が奇妙なのは、人が消えただけではなく、なぜか、この事件は人々の記憶に残らない。次々と人が消えた大事件なのに、人々の記憶からすぐに消えてしまう。それはまるで...その32神隠し