その30 猫になる

その30 猫になる

「猫になる」中村君は、本を探している。昔読んだ本を、久しぶりにまた読もうと思って、いつもの図書館をずっと探している。この図書館にあったはずだが探している本は見つからない。その本は、自分にとってとても大切な本で、繰り返し何度も読んでいる本だ。しかし、本のタイトルも表紙や内容も、なぜかあやふやで思い出せない。その本がどの本棚にあったかも、覚えていない。本棚の本を取り出しては内容を確認して、元に戻す。そういう事を、ずっと繰り返している。おぼろげな記憶をたどると、探している本は猫に関する手書きの本で、一点物の珍しい本だった。なぜそのような手作りの本がこの図書館にあったのだろうと思う。分からない。もしかしたら、自分の中にある記憶は、過去のものではなく、未来の記憶かもしれない。ふとそう思った。中村君の中では、時々、時...その30猫になる