影法師の倫理 ― 『必殺仕掛人』が描く善悪の境界
昭和47年、日本のテレビドラマ史に新たな一頁が加えられた。それが「必殺仕掛人」である。時代劇という枠組みの中で、殺し屋を主人公に据えるという大胆な試みは、当時の視聴者に衝撃を与えた。しかし、その衝撃は単なる物珍しさではない。そこには人間の生きざまを深く掘り下げる視線が存在していたのである。 物語は、江戸の町で人足口入屋を営む音羽屋半右衛門を軸に展開していく。表向きは真面目な商売人である半右衛門だが、その実、裏では「仕掛人」と呼ばれる殺し屋たちの元締めを務めていた。その下には、腕利きの鍼医者・藤枝梅安、密偵の岬の千蔵、使い走りの櫓の万吉らが働いている。 ある日、藩を追われ
2024/11/29 23:18