吉田健一とプルースト
吉田健一にはプルーストと共通する点が多くある。両者とも教養に富む恵まれた環境の中で少年・青年時代を過ごしたし、フランスの作曲家セザール・フランクを好み、ベートヴェンの晩年の室内楽にも惹かれている。また、絵画の黄金期のひとつである17世紀オランダ絵画にも深い造詣を見せている。ふたりの著作はともに近代が終焉を迎え、新たに革新的な表現が模索された19世紀末から20世紀初頭という時代の大きな端境期にその主軸が据えられている。たとえば、登場人物といえば、19世紀小説というジャンルにおいてはそのアイデンティティを確立させることが常道でもあったが、吉田の場合、主人公は時に自分のことを「こちら」と言いだす。主…
2025/06/23 09:53