届かない手紙と、夢と現実と、狂おしいくらい黒いジャムのような闇の日記。
前略。 略すこともないのだけれど、前置きにするような言葉も見当たらないから。 そして、きみがこの手紙を読むことはおそらくないと思うから。 東京できみに「さようなら」と言ってから、たぶんもう10年くらい経つんじゃなかったっけ。もちろんぼくは色んな思いがありすぎて、あの日、ほんとうはきちんと「さようなら」なんて言えなかった。 誰かとの日々は、特別な誰かとの親密な日々は、それが終わってしまった日を境に、なにか途方もなく遥か彼方を目的地にして走りだした獣のように、それまでの色や匂いや感触や、そういうものを連れて、すごい速さで走り去ってゆく。 その獣が背中にのせられるものは、身に纏えるものは、そんなにた…
2021/09/04 00:46