後醍醐の昆布 その9
堀口の報告を聞いて、義貞は弟と息子と共に三千騎の兵を引き連れて天皇を取り囲み、覚悟を決めて会見に臨んだ。天皇がどうしても自分を捨てて叡山を降りるのなら、刺し違えて死するつもりの義貞であった。誰の目にも、他に道は無いと思われた。義貞は後醍醐への恐怖も忘れ、ただ怒りに沸き立つ腹を堪えて、後醍醐を睨みつけた。その手は何の迷いもなく、刀に伸びようとしている。義貞の憤慨を目の当たりにして、後醍醐は内心、笑いが込み上げた。それを何とか涙に変えて、さも悩み煩うような演技をした。「貞満が我を恨み訴えたのはもっともな事だと思うぞ。しかし我の話も聞いてくれ。このままではどうしようも無いから、我は尊氏の懐に入る振りをしようと思うのじゃ。そして、機を待って軍勢を建て直すのじゃ。そのために我は、尊氏の還幸の誘いに乗る事にした。お前たちは...後醍醐の昆布その9
2021/01/31 15:37