甦るパノラマ 二十八話
酒に十の徳ありと言うが今の二人には幾つの効果が齎されたであろう。気分的には愉快である事は言うまでもないのだが、別に悩みが一掃された訳でもない。無論そこまで高望みする訳でもないのだが、愉快に微笑みながら談笑する表情の中にも何処か翳を感じてしまうのは思慮深い二人に共通した欠点でもあった。 それを察してか料理を運んでくれたおかみさんは明るい面持ながらも少し意味深な事を口にする。 「はい出来ましたよ、貴方達、今日ぐらいは硬い話は止めて大いに寛いで行って下さいましね、お酒はいくらでもありますから」 今日ぐらいとはどういう意味なのだろうか。英昭は初めて来た店なのに恰もその性格を見透かしたような言い方には蟠…
2021/07/31 19:07