短編日記小説 #1 無風景
烈しい工事の機械音。車両の走行音。行人がスマホから上げられる会話や音楽。隣人が立てる、生活音を超える騒音。それら様々な、醜いだけの雑音、騒音が常態化した街、という空間に美を見出すのは至難の業であると思える。強いて挙げるならば、人に対しては癒しの効果しか齎さないであろう、可愛い雀の鳴き声ぐらいか。それは大仰に言えば、妖精の囁きにすら感じられなくもない。 冴えない面と陰に籠る内心を隠しながらする職場での挨拶は、無為な細風となって虚しく自然的に飛散したが、コンクリートの床に刻む尖った靴音と、比較的長身な体躯だけは、辛うじてその者の存在を顕示し得る。 人という生物が人ではない機械、或いはロボットとして…
2024/06/21 14:46