夢の記述みたいな超短編のフィクションを掲載しています。
非現実ですがどこか思い当たるフシがある世界を書きたいと思っています。シュール系とでも言いましょうか。なおイラストや写真はフリー素材を組み合わせて作ったものです。
泥だらけの海 泥だらけの海を行こう 泥だらけの海には 見渡す限り 小さな目が浮かんでる ぼくらの行く手には ほら 布に描かれた星空が これ見よがしに揺れているし 銀紙の三日月だって 光っているじゃないか & ...
束になって 束になってかかって来いと言ったら ほんとうに束になって来た 薄っぺらい紙状に 何枚も何枚も重なって 束になってかかってくるから 数えるのに大わらわだ 雑魚めと言ったら ほんとうに雑 ...
窓をたたく人 窓の中の人がガラスをたたく その口が何か言っている ボクには声が聞こえない 窓の中の人が何か訴えている 目が真剣だ きっと重要なことなのだ しきりに何か言っている ボクに知ってもらいたいことが ...
坂本君 友人の坂本君はある朝ネクタイを結んでいて 首がどこまでも締まるのに気がついた ネクタイを引けば引くほど首は細くなり しまいに 親指と人差指の先でつまめるほどになった 襟の周りは波打ち ネクタイは膝の ...
鋼鉄の巨人 鋼鉄の巨人が出来たと聞いたので 行ってみることにした そいつは巻き上げ式金属シャッターのある ガレージみたいな部屋に据えられていた テラテラと黒光りする体躯を 暗闇に横たえ 咳き込むような音をた ...
まどのないまち まどのないまちがある 人は目にコインをはめ てさぐりで歩いている まどのないまちだから。 まどのないまちなので 総ての物に匂いがない 花が咲きまた散っても 気づく人は誰もいない ...
あいつら あいつらは 上からまっすぐ引かれた棒や 時には丸く湾曲した線や 何度も折れ曲がってみたり 重なり合ってみたり 突き出たり出なかったり 下のほうで小粋に跳ねてみたり ぐねぐねと波打ったり ひょいと飛 ...
密航者 こんな夢を見た。 私は、船に続く細く長い渡し板の上を歩いていた。あたりはとても暗く、真夜中のようだった。 渡し板は不安定で、一歩踏み出すたびに大きく上下にしなった。周囲に人影は無く、船と岸壁の ...
♪ドッペルゲンガー♪ 【1番】 ドッペルゲンガー教えてよ ほんとうの私 ドッペルゲンガーどうしても 君の背中に届かない 君をそれほど好きじゃないはず 私は私よいつだって 君が誰 ...
♪みんな丸かったらいいのに♪ 【1番】 三角形も四角形も みんな丸かったらいいのに 自転車だってバスだって みんな丸かったらいいのに 私の心も丸ければ 私はどこへでも行ける 誰と ...
♪君へ♪ 校庭の土にまみれて 走り続けてる そんな君 私に 輝いてる今 悔しいことがあったときも 独り走ってた そんな君 みんなは 知らないんだ ああ 君が あの娘 ...
♪もしも地球が止まったら♪ 【1番】 もしも地球が止まったら 君の涙を止められる もしも地球が止まったら 山の向こうへ飛びたって 大きな雲をかき集め 君の帽子にするだろう &nb ...
踏み絵 踏み絵をやっていると聞いて 出掛けてみた 寺の境内らしき所に 大勢集まっている 羽子板を持つ人 破魔矢を持つ人 マフラーを巻く人 厚手のコートに中折れ帽の人 正月みたいだった みな高揚した顔だ 人ご ...
龍の日 龍の日のために 我々はもう一度乾杯した 我々が手にした足の高いグラスには 赤い色の砂糖水が満たされていた 「ところで」 と先生が口を開いた 「今年の龍の被害はどうだろうか?」 「四月ごろ、北で一件あ ...
♪おでんとカラス♪ 【1番】 あーガラス越しにおでんが冷めてゆく あーカラスが来ておでんを眺めてる あんなに熱かった私たち 湯気が出るほど沸いていた でもベランダのおでんと同じ ...
ラジオ ラジオを聞いていたら この世の終わりですというニュースが入った これ幸いと思っていると やっぱり誤報でしたと言っている 近頃のラジオはいいかげんだ すごく作り物っぽくなっている 昔はニュースがなけれ ...
影の街 影の街に行ったことがあるかい 行き交う人はみんな紙なんだ 厚みの無い黒い紙だ 「やあこんにちは」なんて 紙の帽子を上げて挨拶してくるから ぼくも「こんにちは」なんて言う 厚みがないから心も軽い 紙の ...
心が巨大な人 心が巨大な人は体も大きいから 自分を持て余していた 手足が大き過ぎるし 顔も大き過ぎる 声もいちいち大きいから みんなにうるさがられる 心が巨大な人は貝殻を耳にあて 潮の音を聞こ ...
A町作文集 今年、麻美ちゃんちの猫「しらたま」が子供を五匹生みました。しらたまは前足の先が茶色くて他は白いですが、生まれた子猫は三匹が白くて、あとの二匹は黒いブチと茶色の縞でした。子猫のお父さんは判らない ...
豆腐の祭り 大きな とても大きな 豆腐のようなものが道をやってくる 白くて四角くて 根もとのあたりは 木の台座に乗せられているようだ それを屈強な男たちが担いでいる みな裸に白いふんどしと赤い足袋だ 「おい ...
茎皇子さまの国 私のようなものが、こうしてみなさまの前でお話する大役を仰せつかりましたのは、たいへん勿体無いことでございます。このようなお話をするのにも、他にふさわしいお方があまたおられましょうが、どのよ ...
鯉 その鯉が泳ごうとすれば 顔に藻がからまる 目蓋の無い 空けっぱなしの目に 半開きの口に 藻がまとわりついて 容易に前へ進めない そのうえ水がヌルヌルだ 鯉は澄んだ水を泳ぎたいのだ もっとも 澄み過ぎてい ...
純情なカエル いやあれあの、オレあれだし。ただのカエルだし。オレ特に顔が良い方じゃないってのは分かってんだけど。そんなオレが言うのもなんだけど、君よくその葉っぱの上に乗ってるじゃん。そんなふうにさ。ちょっ ...
髪の毛が蛇の人 髪の毛が蛇の人はなかなかにしたたかだ 髪の毛が蛇の人は話がうまい 何の話でも 時々笑う要素を入れて人を振り向かせる 髪の毛が蛇の人は顔が脂ぎっているし 話す時に唾液を飛ばすことが多い &nb ...
夏のバス停 真夏のバス停に 一匹の生き物が立っている たった今しがた 晴れ渡った八月の空から 一条の光が射し その生き物は天から 光の中を下りてきたのだ 生き物の口は耳まで裂け 鋭い牙が剥き出 ...
鍋の煮える日 家じゅうで鍋が煮えくりかえっていた。こっちの蓋を開けると湯がぐつぐつと沸きかえり、あっちの蓋をとると中ですっぽんが煮えている。そんなぐあいだった。 家じゅうでぐつぐつゴトゴト ...
猫をスプーンですくう 猫をスプーンですくう トロリと落ちた 猫をスプーンですくったら プルプルしている 山羊のツノの尖ったところ 指紋の中心で刺してみた 傷口に蟻が湧く 口の中が蟻だらけ &n ...
暑い日 誰でもこんな経験があると思う。 たとえば夏の暑い日に、どうしても寝られなくて、何度も何度も寝返りを打ち、頭の角度を変え、足を引き寄せ、また戻す。もういちど反対に寝返りを打つ。 布団が汗で湿って ...
彼の半面 彼の半面はとても善良だ べつの半面は語りたくないが 彼の半面は家族を愛し仕事を愛し 世界を愛し常識を愛し 動物を愛し植物を愛し 同僚や他人をも まったく愛さないわけではない &nbs ...
風船に乗って その国の人々は大きな風船に乗り 全員で旅立った その国には鉄道もあり ビルや道路もあったのに 家や車を捨て 公園も捨てて その国の人々は旅立った 高い空の上からは 自分たちの国が見えた 町並み ...
サーカス もう誰も来なくなった空き地に 穴だらけのテントがある テントの中では 夜な夜なサーカスだ 高い天幕の近くで 体の透けた少女がロープを渡り 円形広場の真ん中では 腐った象に乗った 骨だらけのピエロが ...
砲弾の落ちる街 そのころ いたる所に砲弾が落ちる街に住んでいた 橋の上にもマンホールの上にも 学校にも病院にも砲弾は降ってきた 砲弾は落ちた場所で爆発し そこここで大きな土煙を上げていた 爆発 ...
機械じかけの鮫 機械じかけの鮫が出たというので、浜辺に行ってみた。 なるほど、確かに大きな機械仕掛けの鮫が、浜辺でバタバタしている。その体はハリボテのようで、でも、ところどころ金属っぽくもあった。 「な ...
壁抜け 今でも どうしてあんな話題になったのか ぼくは覚えていない アレは突然君が切り出したのだ 「ねえ、壁を抜けられるのよ」 笑いながら あるいは少し自嘲ぎみに 君は言い放った ぼくはその時 ビスケットを ...
生き物 その動物を ぼくは見ました 奴はちょうど 駅の階段の手すりにへばりつき ずるずると 滑り下りていくところでした 背中にはいくつもの突起があり 甲羅の上が なんか 粉を吹いたようになっていました &n ...
ニゴリ町 ニゴリ町からカタブキ町に行くならバスを使うといいよ。なにしろあのあたりは鉄道が通ってないんだ。途中にザクロ川があるだろ。あの川は毎日形を変えるからね。バスならハレツ橋を渡って向こうに行ける。楽し ...
父のこと 私の父は船乗りで 七つの海を渡り歩き 雲つくような巨人と戦った事もあると 生前語っていた 父は編物が趣味だった 父の編んだ インディアンの少女のテーブル掛けは 今も茶の間に飾られている   ...
山高帽 山高帽をかぶって 街を歩こう 誰もが私に訊くだろう その帽子に 何が入ってるのって 山高帽をかぶって 街を歩こう 帽子の中は猛毒のサソリだ バッグに蛇を忍ばせた学生や ふ ...
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