ブログみるアプリ
日本中の好きなブログをすばやく見られます
無料ダウンロード
ブログ村とはIDが異なります
メインカテゴリーを選択しなおす
フォロー
鮎返しの滝 その11
少年の肩に木漏れ陽が降り注ぐ。 川べりの雑木は眩い新芽の輝きを柔らかな風に包んでいる。 ここは何もかもが清らかにできているのかもしれない。 ボクはいつしか遠い故郷と自分の幼き日を思い起こしていた。 車の音がする。近づいたのは鮎釣りの車だった。「どう
2021/12/26 13:17
鮎返しの滝 その10
真一は焼きそばを忙しくかき込むと、ペットボトルのお茶をゴクゴクと飲んでボクらの方に目を合わせた。「上北のじっちゃんに教えてもろうたんや」「ほー、その人は上手なんやな」 とハセポンが返す。「うん、上北のじっちゃんは年寄りやけど前に五十匹も釣ったこともあっ
2021/12/25 10:38
鮎返しの滝 その9
「いやぁこのボクが大きな鮎を釣っていたので見せてもらってただけですよ」 と、にやけてハセポンが立ち上がる。「あらほんと」 覗き込んだ紀美代の白い頬がかすかに揺れた。「息子さんなかなか素質がありまんがな」 ワーポンの言葉に紀美代は少しはにかんだ。「真一、こ
2021/12/24 12:12
2021/12/24 10:23
鮎返しの滝 その8
少年の竿が手元から弧を描いてギイギイとしなる。 掛かり鮎がおとり鮎を引きずって右往左往しながら下っていく。 少年は何度も転びそうになりながらふんばって体勢を整える。 ようやく流れの緩いところに掛かり鮎を落ち着かせると腰に差したタモ網を抜いて頭上に構えた
2021/12/21 20:39
鮎返しの滝 その7
「紀美代ちゃんやってるかー」 小柄な年配者と背の高い若者が入ってきた。「あらいらっしゃい。珍しいわ。中田組合長さんとコジムチさん」 女は愛らしい目を細めた。「今日は和歌山内水面で小峠さんと打ち合わせがあってな、車で今から七川まで帰らんならんのでラーメンだ
2021/12/20 21:19
鮎返しの滝 その6
「おお、阪神がまた勝ちよんがな」 野球中継が映るとワーポンの声が店内に響く。「阪神今年は調子が良いですね」 女は笑顔をつくってビールをワーポンに注いだ。 とそこに入り口の扉が開いて二人組の男が入ってくる。「あら、みっつん今日は早いのね。クォーターさんもご
2021/12/16 19:49
鮎返しの滝 その5
「ええ、ハビって十匹ほどが絡み合ってまん丸なボールみたいになるんですよ。私も子供の頃に一度だけ見たことがありますけど、ハビの色が柿色やから丁度小学校なんかにあるドッチボールと見た感じがほとんど一緒なんです」「いやー、そんな話は始めて聞きましたわ」 ボクは
2021/12/15 20:19
鮎返しの滝 その4
「急がなくてもいいでっせ。私たちゃどうせ今日はここいらの駐車場で寝るんやから」 そう言ってワーポンはコップの水を一気に空けた。 ボクらの釣りはよく車中泊をする。 ハセポンがおしぼりで顔を拭きながらボクに注文を促した。 店はラーメンだけでなく居酒屋風のメニ
2021/12/14 19:13
鮎返しの滝 その3
「でも川の色は石が磨かれてピカピカでんがな」 ワーポンが偏光グラスを両手で覆って前屈みに覗き込む。「あー、おるおる。三子ちゃん真下の岩盤の頭んとこ見てみい」 ハセポンが指をさす方に型の良い鮎が何匹も腹を返していた。「とりあえずここに降りましょうや。掛かる
2021/12/13 21:20
鮎返しの滝 その2
「三子ちゃんは確か今日は仕事やとかいうてたのに休みになったんかな」 ハセポンが熱いコーヒーをズズズとすする。 ボクらは釣りキチ三子を待って一緒に釣りに行くことにした。 柴崎オトリ店の庭でアユ釣り談義をしていると見覚えのある白のワンボックスが停まる。 鮎世
2021/12/12 17:20
鮎返しの滝 その1
つづら折りの峠を越えると青々としたミカン畑が広がった。 有田川は高野山の麓より紀伊水道に向かって流れ込んでいる。 この上流域にボクは鮎釣りの時期になると毎週のように通っていた。 一昨日やっとまとまった雨が降り、渇水気味だった川に勢いがある。 ただ、増水
2021/12/11 17:56
安田川 その63
「ま、まさか、慎也っておまんながかよ」 万作爺さんの高ぶった声が響く。 留美子は目を剥いて慎也を見た。 たった一匹の地虫の鳴き声が、体の中に染み入ってくる程の静粛に包まれた。「高瀬さん、その竿は確かにあんたにお渡ししましたきに」 事情を察した万作爺さん
2021/12/09 07:47
安田川 その62
「そうそう舞(まい)と雅(みやび)じゃ。まっこと粋な名前をつけおったもんながよ」 万作爺さんが手を打って相好を崩す。 慎也の膝の上にのせた手が微かに震えたのを隆人は見逃さなかった。 その震えは徐々に大きくなっているようにも思えた。「慎也っ」 隆人が思わず
2021/12/08 20:31
安田川 その61
純太と慎也は病院に運ばれたが、幸い二人とも手足に軽い打ち身があるだけだった。 純太は翌日にはいつもどおり山仕事に出かけていった。 慎也と隆人は万作爺さんが家に招きたいと願い出たこともあって、久米ら一行を先に帰して馬路にもう一泊することになった。 万作爺
2021/12/08 06:10
安田川 その60
荒瀬に入る手前の浅瀬で飛び降りるしかない。 純太を乗せた老木はゆっくりと浅瀬に差し掛かった。「今じゃあ」 万作爺さんの声とともに純太が身を翻す。 だが、純太の体は老木から離れない。 タイツの紐が枝に絡まっている。 もがく純太と老木は一機に白濁轟音の荒瀬
2021/12/06 19:17
安田川 その59
「見てん。今度は純太に鮎が掛かったがよ。安田川のツバメが純太に味方したがぞ」 純太の長竿は水面に浸るほど曲がってブルブルと激震した。 これを上げると七匹対六匹で純太の勝利だ。残り時間は少ない。 舞は人混みをかき分けて純太を見下ろせる橋の上に立った。「純太
2021/12/06 09:05
安田川 その58
ツツツツー、バタタッ! 鳥だ。 見ると燕が空中で羽目を広げて体を捩っている。「見てん、えらいことになったぞ、そっきから飛びよった燕が高瀬名人の金属糸に引っかかったがよ。絶対切れるぞこりゃ」 これが切れると慎也の持ち鮎は掛かり鮎と囮鮎の二匹が失われ六匹に
2021/12/04 21:15
安田川 その57
掛かり鮎は着水すると激流に乗って下手に急降下だ。 慎也は俊敏に竿を反対側に返すと両腕を突き上げた。 竿が満月に弧を描き慎也の体が徐々に引きずられていく。 耐えきれない慎也はもう一つ下手の岩まで流される。 そこで仰向けのまま沈み岩に両足を突っ張った。 体
2021/12/03 10:14
2021/12/02 19:00
安田川 その56
試合の残り時間が一時間を切った。 慎也は竿を担いだまま増水した瀬にもたれかかると体を浮かせた。「止めちょけちや! そんなことしよったらなんぼ名人でも流されるぞぉ」 見物人の一人が叫ぶが早いか慎也の体は瞬く間に押し流され、怖気立つ大岩の裏側にまで達した。
2021/12/01 21:11
2021年12月 (1件〜100件)
「ブログリーダー」を活用して、おぶーさんをフォローしませんか?