桜の下にて、面影を(17)
☆☆☆――いよいよ、幕が上がる時が来たようですね。何度目になるのかさえ、すでに分からなくなるくらいに通い慣れた京都。住友苗雅は、ロマンティック街道まっしぐらな後輩寂念の説に乗ったような振りをして、桜の季節の古都にいた。旅の初日は、決まって昼の食事を済ませることからスタートする慣わしの彼は、初めて訪れた喫茶店の扉を、いつもの静かな腕で引いた。――『BorntoSmile』ですね。お気に入りの曲に耳を奪われ、それだけで心地の良い店という折り紙を付けた。「いらっしゃいませ。ただいま満席でして、少しだけお待ちいただけますか?」「どうぞ、お構いなく」慌ただしく動く、丁寧な店員の言葉に苗雅は丁重に答え、店内をゆっくりと見渡そうとした。とその時、その暇もないほどに鮮烈な視線を受け止めた。入り口を背にして立っていた彼の正面奥の...桜の下にて、面影を(17)
2019/08/31 19:41