ニーサンとの別れ(1)
僕には少し年の離れた兄がいる。いや、「兄がいた」という方が実情としては正しいのかもしれない。 昔々、僕がまだ小さい頃、兄は僕に何度も「魔法」を見せてくれた。 僕らの家は決して貧しいわけでは無かったが、両親は共働きだっが。家の中に常におやつがあるわけでもなく、母親が帰ってくるまで、腹を空かせて夕暮れ時を兄弟で留守番することもしょっちゅうだった。 「おなかが空いたね。のりくん、いくらか小銭があったら、ニーサンにちょっと貸してくれないか?おやつ買ってきてあげるよ。お金はあとでちゃんと返すから」 兄はそう言うと、微笑みながら僕に向かって右手を差し出した。 僕はまだ、日暮れに差し掛かる時間帯に交通量の多…
2019/06/24 19:45