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  • エンドロール

    すべての真相が暴かれたあとに「終章」が用意されていた時点で、読み手である僕にはこれから語られる本当の真実が予想できた。もっとも、物語のなかでさえ、いまとなってはそれが真実なのかどうかすらわからない、というある種の含みをもったニュアンスのベールを纏っているのだが。それぞれの登場人物が、違う意図をもって、違う視点をもって場に臨んでいる。そうした中で、彼女が「語り部」の役割を果たすのは、違和感があった。自分が知っていると思うことが、周りが知っていると思うこととは違うということが、しっかりと認識できている人間だったから。だから、その彼女が語った「真相」のあとに、「もう一つの真実」が用意されていることは、なんだか腑に落ちた。ひとは時として傍観者にしかなれない。傍観者にも、その場にいることで、事の顛末を見届けることで役割を...エンドロール

  • そんな言葉を待ってたんじゃない

    「ああ、今井さん。待っていましたよ。ささ、忘れないうちに。こちらがお望みの品です。」今井紀子はK駅のロータリー前で、いま呼びかけられた男から「それ」を受け取った。事前に頼み込んで用意してもらっていたのだった。「ありがとうございます。これだけあれば当面は安心ですね。」中身を確認して驚いた。すべての広報ビラが三つ折りにされたうえに、一枚一枚に地元選挙管理委員会から配布を許されたことを示す証紙スタンプが貼ってあったからだ。用心深い芳川市議が長年信頼する男なだけあり、仕事が丁寧で抜かりがない。「いまあの方を支えてあげられるひとは貴女ぐらいですからね。なんといってもここの陣営は人数が少ない。」「気にかけてくださる方はほかにもたくさんいます。あなたのように。」今井は髪を掻き上げながら微笑みつつ応じたが、その笑顔がどことなく...そんな言葉を待ってたんじゃない

  • 茶店ドール

    空になったカップを置き、窓の外に目をやる。いつしか暮れてきた街の明かりは綺麗だが、その実、僕の意識は店のBGMの音形の輪郭を探ることに集中していた。音楽に心得があるというほどではないが、このピアノの演奏がクラシックではなくジャズと呼ばれるジャンルに分類されるものらしいことはなんとなく理解できた。この店の前を通りかかることは数えきれないほどあったが、入ったのは初めてだった。病院に行った帰りはいつもどこかのコーヒーショップや喫茶店に入ってしまう。きょうも、そんな通院の帰りがけだった。といっても、大したことのない、かかりつけの皮膚科に皮膚炎の薬をもらうだけなのだが、そうは言っても久しぶりの病院というところは変に気を張ってしまい、出てきたあとにどっと疲れが出る。そういうとき、なかば逃げ込むように、なかば楽しむように喫茶...茶店ドール

  • 選択肢をひとつつぶした

    日曜日、ランチ。地元で気になっていたイタリアンのお店に入ってみた。これが大失敗。外観はオシャレで小ぎれいで悪くない印象のお店。メニュー点数も豊富で、バリエーションが豊富。店のネガキャンが目的と思われるのは嫌なので詳しい場所は書かないが、レビューもあまり良くなかったのでお店のひとが悪い評判に気付いて改善してほしいと望む。同伴者は牛肉のボロネーゼのスパゲッティを、私はサーモンクリームフェットチーネを注文。「あんまりうまくない」とひとくちもらったボロネーゼは、「なんでこんなにダサい味なんだろう」と首をかしげたくなる味。食べたひとは「ヘタをするとコンビニのパスタのほうがうまいかもしれない」と。同意見だった。味は濃いめ。私の頼んだフェットチーネは、「切り落とし特売品」みたいなサーモンがゴロゴロと入り、それがアボカドとクリ...選択肢をひとつつぶした

  • ライオンハート(恩田陸作品についてその2)

    前回のブログ記事で恩田陸作品について少し語ったのだが、(「恩田陸作品について」)むかし読んでいたはずの恩田陸作品をまた読んでみよう、ということで新たに購入したのが『夏の名残りの薔薇』であった。ところが、その『夏の名残りの薔薇』の巻末解説文に紹介された作品のなかに、持っているはずなのに内容に覚えのないものが含まれていた。それが『ライオンハート』であった。新潮文庫の本はしおりひもがついている。買ったときはページのあいだにふんわりと丸まって挟まっている。それが、本の中盤の箇所に下までピッと引かれていた。買ったきり本棚に入ったままのいわゆる「積読」ではなく、明らかに読みかけの本であった。ところが、読み始めてもいっこうにそのストーリーに読み覚えがない。『ライオンハート』は、どう説明すべきなのか、何度も輪廻転生を繰り返して...ライオンハート(恩田陸作品についてその2)

  • 恩田陸作品について

    何年ぶりかにブログをはじめてみる。受験の頃からだろうか。「小説」というものをめっきり読まなくなった。それまでもどちらかというと図書館の雰囲気を味わうのが好きであったり、知らない本と新しく出会うことや、棚に勢揃いした本の背表紙を眺めることが好きであったりしたわけで、実際の読書量はそこまで多かったわけではない。だが、大学受験に追われるようになってから、ゲームなどより娯楽性が高く勉強と結びつかない悦楽に逃避するようになったため、小説を読む時間はめっきり減ってしまった。大学に入ってからも、ゼミや授業での教科書、課題図書が多く、自分の楽しみで読む本に関しても、知的関心に基づく選び方をしていた。だから、読む本は圧倒的に新書や学術的な成果を一般向けに紹介する書物、ルポルタージュなどが多かった。これはたぶん、私の大学の図書館に...恩田陸作品について

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