月は見えているか

短編 ｢羽音を奏でる者達の行方」 その17

  夜の海。 二人は飛んだ。 浜辺から遠く離れた沖合の夜の海に。 凪いだ海の潮の香りの中で、二人は白木の箱から真澄の骨を、焼かれて、驚くほどに軽くなってしまっ…

2021/09/30 21:20

短編 ｢羽音を奏でる者達の行方」 その16

   その後、由衣子のもとを訪れた武次は、あの手記の中での行為に及んだ。 武次は新しい種を手に入れる必要があった。 そのためには、由衣子と会わなければならない…

2021/09/27 18:52

短編 ｢羽音を奏でる者達の行方」 その15

   第4章 種は求める 武次は私を守るために真純を死に追いやった。 唾棄すべき卑劣漢である私などのために。 しかし、私はその記憶に触れ武次に対して激しい…

2021/09/24 19:51

短編 ｢羽音を奏でる者達の行方」 その14

   真澄の力場は大きく裂けて消滅し、ため込んでいた空気を喪失させる。 一瞬、真澄は激しく硬直し、希薄な大気の中で木の葉のように舞いながら地上への落下を始めた…

2021/09/21 01:52

短編 ｢羽音を奏でる者達の行方」 その13

   それは羽を得て間もない武次の稚拙さにより生じた僥倖だった。 武次は加減することも忘れて持てる最大出力で羽を放ったのだ。 しかも、精緻な照準もなく放たれた…

2021/09/17 23:37

短編 ｢羽音を奏でる者達の行方」 その12

  あの日の夜。 真純が無惨な死を遂げた夜。 ああ・・・ 夜風を感じる。 玄関のドアは開け放たれている。 湿気を含んだ冷気が身体を包む。 武次は居間の長椅子で…

2021/09/14 22:22

短編 ｢羽音を奏でる者達の行方」 その11

  第3部 死闘の記憶  私はすでに成人していた。 あの、武次の語る手記の中での凄惨を深く心の奥底に葬り、私は普通の人としての暮らしを営むことに努力していた。…

2021/09/11 21:40

短編 ｢羽音を奏でる者達の行方」 その10

  これが私のもとに届けられた、吉村武次による手記の全文だ。 この手記が収められた分厚い包みを武次は私の母に手渡し、学校から帰宅した私の手もとに届いた。 私は…

2021/09/09 19:36

短編 ｢羽音を奏でる者達の行方」 その9

   香椎。 そもそもの起こりは、二人が双子で生まれたことなんだよ。 由衣子さんと真純は・・・双子で生まれたために、この地へ呼び込まれた。 俺達のせいで・・・…

2021/09/05 16:01

短編 ｢羽音を奏でる者達の行方」 その8

  俺が家へ着いた時、真純は惚けたようにベンチに腰を下ろし、陽が傾き始めた空を見上げていた。 少し強みのある風のそよぎが、真純の長い髪をゆらゆらとなびかせてい…

2021/09/03 02:29

短編 ｢羽音を奏でる者達の行方」 その7

   真純が帰って来たのは、それから二時間ほどたった時だった。 赤く泣きはらした目で、開け放たれた窓を見つめていた俺の視界に、白い影のようなものが見え始めた。…

2021/09/01 01:33