『私の命はあなたの命より軽い』(近藤史恵)読書レビュー
『私の命はあなたの命より軽い』の導入シナリオとしては、主人公の遼子を出産を控えたタイミングで急に夫の克哉がドバイに単身赴任することになる。そのため遼子は、里帰り出産をすることになるが、実家の家族から歓迎されていないような雰囲気に違和感を覚える。家族だけでなく、旧友の態度もおかしい。妙だな。『私の命はあなたの命より軽い』の魅力は、作中に漂う不安を感じさせる謎に少しずつヒントが与えられていく。ミステリ小説に分類されるようだが、まさに水平思考ゲームのような読み方ができる。真相が気になり、文体も読みやすいので、一気に読んでしまった。問題の真相は、主人公の遼子と直接的に関係しないことでありながら、しっかりと遼子の設定にリンクしている。このあたりは作者のセンスが光る。物語の結末は書かないが、余韻を残す気持ちの悪い終わり方は個人的に大好物である。絶対的な悪が存在するわけでもないのに不幸が振りまかれる。幸福を勝ち取ったはずの遼子は、被害者であり続けたように感じる。この作品は世界の不条理を描いている。
2023/06/10 18:00