この渋谷の街の片隅で
生まれてはじめて渋谷という街に来たのは、17歳のクリスマスイブだった。ハチ公口の改札口のその先、交差点前には人が溢れかえっていた。爆音で流れるクリスマスソングが空で合唱している。夏の田んぼでよくみるカエルの合唱のようだった。イルミネーションがともり始め、青や緑、黄色の看板が光り出す。叫び声に近い笑い声は、夏祭りのどんちゃん騒ぎのようだった。さすがにこれだけ混みあっていると会話もままならない。「すごいね」「ね、ほんとすごいね」私が彼の左手を強く握り、彼もまた握り返す。どちらかがこの手を離したら私たちはすぐにはぐれてしまうだろう。17歳、危うさの上に私たちは立っていた。北関東の片田舎で、学校と自宅の往復を繰り返していた日々。学校からの帰り道、彼の自転車の後ろに乗って走る。公園で夕日を眺めながら長いキスをして、たまに...この渋谷の街の片隅で
2021/03/20 14:22