Snap Short Story

記憶の中の電話番号

明け方に目が覚めた。 ここのところ、毎晩のように目が覚める。 まるで、嫌な夢でも見た後のように、どうしようもない嫌悪感だけが頭の中に漂っている。 ...

2012/04/08 18:42

19のままさ

「もう少し、要領良く生きたら？」 そう言ったのは、予備校で一緒になった彼女だ。 小さなころから、要領良く生きていくことが苦手だった。 初めて会っ...

2012/04/01 22:06

ランナー、今も

ノイズの向こう側で、あいつの声がした。 「離婚したんだってな」 僕が言うと、あいつは、へへっと笑って、「まあね」と言った。 相変わらず軽いヤツだ...

2012/03/30 00:14

いちごミルクの春だった

ヤツのストレートが腹に食い込んで、僕はその場にうずくまった。 続けざまにヤツのキックが顔を狙ってくる。 その足を待って両腕でつかんでから、僕はヤツ...

2012/03/26 21:37

あいつ

女の子にもてるというのに、彼女がいなかったあいつ。 あいつのために、僕らは一芝居打って、新しい女の子を紹介してやろうと思った。 みんなで高原の湖ま...

2012/03/24 12:00

オリンパスペンの時代

旅好きだった祖母は、鞄の中にいつでも小さなカメラを持ち歩いていた。 それは、父の持っていたレンズの大きなカメラとは違って、 手のひらですっぽりと隠...

2012/03/24 11:44

いつかのチーム

月曜午後のJR、向かい側の座席に座った若いカップルがキスを繰り返している。 その女の子の方の顔に、どこか見覚えがあるような気がして、僕はずっと考えて...

2012/03/24 07:33

弥生物語（3月のこと）

カフェは丘の上にあった。 街の夜景が見えるので、若い恋人たちに人気の店だ。 3月、土曜日の夜、僕はカウンターの端の席で、ブレンドコーヒーを飲んでい...

2012/03/22 19:51

レゲエソング

彼女は、僕が初めて就職した会社の先輩だった。 どこから見ても、僕がこれまでに過ごしてきた世界とは 別の世界からやって来たのだろうというオーラを、全...

2012/03/21 21:11

20歳の迷子

彼女が恋人と別れたということを、僕は彼女の友人から聞いた。 男は大学の先輩だった。 卒業して東京へ就職、あっという間に始まった遠距離恋愛。 彼女...

2012/03/20 11:01

消えゆくものたちへ

例えば、近所の古い銭湯が、とうとう店を閉めたとする。 戦前から続いた老舗の風呂屋、大正時代に建てられた歴史的な銭湯建築、家庭では味わえない贅沢な湯。...

2012/03/19 23:06

4番目のテーブル

1番目のテーブルに、10代の僕が座っていた。 開店したばかりのモダンなカフェは、たくさんの若者たちで賑わっている。 初めて、女の子と待ち合わせをし...

2012/03/18 22:12

新しいゲーム

「内示があったんだってね」と、先輩が肩を叩きながら言った。 「念願の営業部だってね。おめでとう」 僕は少し浮かない顔で、「はあ」と言った。 「彼...

2012/03/17 22:51

透明な壁

いつも行っている理容院に新しい女の子が入った。 今はまだ髭剃りくらいしか任されていないらしいが、ちょうど客が立て込んでいて、バタバタと動き回っていた...

2012/03/16 22:18

サムシング・グレイト

とある「ブックオフ」、文庫本の100円均一棚の前だ。 僕は「あ」行から順番に、100円の文庫本の背表紙を目で追いかけていく。 買うべき本なんてほと...

2012/03/14 23:50