富貴天に在り ~新選組美男五人衆~ 73
第五章疾風~山野八十八~明治二十九年(1896年)三月下京区。尊王攘夷や天誅騒ぎが嘘のように、壬生村は静まり返っていた。そして時代は、目まぐるしく変わり、二本差しが町を闊歩していた頃などなかったかのようであった。老齢に差し掛かった男は、武士の時代の終焉と共に、時代の推移を肌で感じていた。なぜ郷里の加賀ではなく、京に舞い戻ったかと言えば、己の人生で一番良い時期を過ごしたこの町を忘れ難かったためであったが、再びの京は、決して男に優しくはなかった。戻って直ぐに足を向けたやまと屋も既になく、お栄の消息を探る術は途絶え、ただ、元新選組という不名誉な過去を斯くしてありつけた職は、菊浜小学校での用務員であった。小間使いをしながら、夏には汗を流し、冬は鼻を啜り。それだけで月日が老いを男にもたらすのみ。それでも生き残れたことは良...富貴天に在り~新選組美男五人衆~73
2015/08/28 01:48