神国編 第二章
それは黒い湿り気を帯びた風だった。夜の空気を溶かした陽炎だ。その中に人の目のようなものが二つ、並んで光っている。獣の匂い。それは一人の男らしかった。一閃。その剣戟はリアのものだった。躊躇のない一撃に、陽炎が揺らぐ。「面白いことを言う人だ」リアは冷徹な仮面をしっかりと装備し、その均整の取れた笑みを崩そうとしていなかった。柄にもなく怒っていたのだ。自分の歩みを阻まれたことが、なによりアリスを人質に取られたことが。彼には許せなかった。「人が、我らに対して意見を述べて良い場所は限られている。そして、それはここではない。退くがいい」「ユーキュリア様の命にてございます」黒い鎧の男が出した名前を聞いた途端、リアの笑みは崩れた。薄い月の光に青白い顔が浮かび上がる。「母様が?」「アリス様を連れ戻してこい、との仰せです」「そうか…...神国編第二章
2012/10/04 19:40