もろびとこぞりて (その6)
一同は母屋を出て、まず水を汲みに行った。幅広いなだらかな石段を下りて、大きな鳥居をひとつくぐる。「夕方、北の石段から上がって来たんだろう?あっちは裏門、こっちが表門だ。参拝者はだいたいこの西の大鳥居の方から来る」きさが紀野に説明した。「英一、桂清水はわかるか?」「はいっ。べんてんさまのおみず、ですよね」「よく知ってるな。この水が湧き出している真っ黒な切り株は、雷で焦げてこうなってしまった。昔は大きな桂の木で綺麗だったんだぞ。春には赤い花が咲いて、新緑も黄葉も鮮やかでな。参道沿いの人はみな、その頃からこの水を汲みに来たものだった。今でもこの水で珈琲を淹れる喫茶店が、商店街にある。昔から有名な、美味しい水なんだ」焦げた切り株は、直径5メートルはありそうな立派なものだった。ガラス化して夜目にもツヤツヤと輝いてい...もろびとこぞりて(その6)
2024/12/27 14:59