❖一花遭遇 其の壱❖
「貴方(あなた)は誰?此処(ここ)でいったい何をしてるの?」幼い一花(いちか)が目を凝らす先で、著大(ちょだい)な違客(いきゃく)が応接間を占拠していた。誰とは問うたが人では無い。人も通わぬ獣道の果てに、寄り添う様に建つ萱葺(かやぶき)家屋(かおく)の内のひとつ。築百年は優に越す。渋(しぶ)墨(すみ)が塗られた梁と煤(すす)けで黝(くろず)んだ漆喰壁の奥座敷は、障子戸から漏れる薄明りだけを頼りだ。「其処(そこ)に居るのは、よっちゃんのパパとママでしょ?」返事は無く、何かを吸い出す音だけが不気味に響く。都会の狭小住宅からは想像が付かない部屋数を誇るが、進む過疎化に人の出入りは無くなり、応接と銘打ちながらも倉庫宜しく塵(ちり)が山と積もっていた。知ったる勝手を良い事に幼馴染(おさななじみ)を捜して障子を開け放ち廻っ...❖一花遭遇其の壱❖
2020/10/31 21:49