月の夜(2)
大阪にいた頃に、康平は知り合いのテーラーから、何枚も購入していて、ついでにと、沙希用のSサイズのものまで5、6着手に入れてくれていたのだ。初めは少し違和感があった。シャツの左下に入り口があって、そこからケイタイを入れる。取り出し口はポケットの下にあって、親指を押し出すようにすると、スルッと出てきた。どんなに動いても落ちない構造になっていて、畑仕事をしていても、田んぼの中に落ちてしまうことはないし、便利この上ない。康平がこの姿を見ていたら、きっと笑うだろう。<ええやん!カッコええやん!そやから、ええ言うたやろ?>と。---でも康平は、私のケイタイ番号を知らない。知らずにアッチへ行ってしまった、のだろうか?沙希は、電話の横のメモ用紙を引きちぎって、ケイタイ番号とアドレスを書き入れた。何枚も。そして、それを部屋のあち...月の夜(2)
2009/01/17 17:03