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小説・夏の繭 https://blog.goo.ne.jp/natsuryo_2007/

地球の終わり。ある日大きな嵐に襲われ、男は47年の時を経て生き返った。(続編執筆中)

47年の時空を超えて彷徨う康平。自然も生き物も全て消滅した死の世界で、僅かに生き残った人たちと暮らし始めた。彼は、妻・沙希に長い手紙を書いた。「沙希は読んでくれるだろうか」。やがて再び終わりの時がやってきた。一方、沙希と残された家族は・・・

夏海 漁
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住所
大阪府
出身
新温泉町
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2008/12/25

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  • 月の夜(2)

    大阪にいた頃に、康平は知り合いのテーラーから、何枚も購入していて、ついでにと、沙希用のSサイズのものまで5、6着手に入れてくれていたのだ。初めは少し違和感があった。シャツの左下に入り口があって、そこからケイタイを入れる。取り出し口はポケットの下にあって、親指を押し出すようにすると、スルッと出てきた。どんなに動いても落ちない構造になっていて、畑仕事をしていても、田んぼの中に落ちてしまうことはないし、便利この上ない。康平がこの姿を見ていたら、きっと笑うだろう。<ええやん!カッコええやん!そやから、ええ言うたやろ?>と。---でも康平は、私のケイタイ番号を知らない。知らずにアッチへ行ってしまった、のだろうか?沙希は、電話の横のメモ用紙を引きちぎって、ケイタイ番号とアドレスを書き入れた。何枚も。そして、それを部屋のあち...月の夜(2)

  • 月の夜(1)

    今日が一体、何曜日なのか分からなくなることがある。それというもの、メグが夏休みだからだろう。役場から帰ってみると、メグはダイニングで夏休みの宿題を広げたまま、うたた寝をしていた。毎日、沙希と一緒に起きて畑の世話をし、迫田の手伝いと、沙希の留守の間に田んぼの世話をして、勉強もしなければならない。---文句ひとつ言わずに、さぞ疲れているだろう。その上、温泉を造ることになってしまって、余計な仕事が増えてしまった。村長や迫田や村の人たちは、家族と思って面倒をみると言ってくれたが、そこまで甘えていいものだろうかと思う。スースーと細い寝息をたてて眠るメグの横で、そっと添え寝をしてみる。ベランダから爽やかな風が通り抜けて、ヒラヒラとカーテンがウエーブする。『彼岸へ行けずにいとる人たちの霊が、まだこの辺に彷徨っとる』と丸岡が言...月の夜(1)

  • 壁の向こう(36)

    丸岡たちに一足遅れて帰路についた沙希は、夏の太陽に眩しく光るフェンスの前で立ち止まり、映画館の建築現場を眺めていた。基礎工事は既に終わって、無数の鉄筋が打ち込まれていた。ジュラルミンの足場とその中に、ジャングルのように林立する鉄筋。太いチューブのアームが伸びて、ザッザッザッザッという音とともに、美味しそうにビールを飲む男の喉のように動き、モルタルを送り込む。無人の大型のミキサー車が3台、大きなドラムをゆっくり回しながら待機していた。警備員とドライバーたちが、ヒマそうに出入り口でタバコをふかして、立ち話をしていた。(ザッザッザッザッ・・・・・)耳障りな音がドライバーたちの声を消し、動いている口元を見るだけでも不気味に映る。(ザッザッザッザッ・・・・・)ドライバーが3人とも、お揃いのようなタオルを首にかけていた。く...壁の向こう(36)

  • 壁の向こう(35)

    「それにしても課長、あの壊れたトイレ、あのまま放っといていいんですかね?」下水道施設係の増田幸三が言った。今日、初めてこのバラックの仮庁舎で名刺交換、というより名刺は一方的に受け取っただけなのだが、その時に丸岡はこう言った。「役所っていうもんはややこしいとこやの、つくづく思うわ。水道施設係も下水道施設係も一緒にしたらええのに」と。しかし、徳一はロクに名刺を見ないで言った丸岡に対して「一緒ですよ。上下水道課と頭にあるでしょう。ですから、増田くんとは同じグループなんです。寺西くんは建設課ですから別ですが」と言ったものだ。徳一はまた考え込んでいた。彼は、今どき珍しく根っから生真面目であった。しかも、いつも生成りな空気をまとっていた。人の質問に対しても、ボカシや誤魔化しを入れずにキチッと応えてくれる、役所の人間とも思え...壁の向こう(35)

  • 壁の向こう(34)

    「それじゃあ、課長だけやのうて他に何人もいたんじゃな?」と丸岡。「ええ、10人ほどいました」「そんだけいたんなら、課長だけがおかしなったわけやないじゃろ?それで、空き地でもかいな?」徳一は、たった今、恐ろしいホラー映画でも観たかのような顔をしていた。「それで元の位置に建てることを諦めて、前の空き地が長いこと放ったらかしになっているんで、翌日そこを調査したんです。そしたら・・・、遺体を収容した時には気づかなかったのに、枯れた雑草の中に大きな繭のようなものが・・・」と、徳一が言った時であった。今まで晴れ渡っていた空が、一瞬にして曇り、割れるような雷鳴が響き渡った。あまりに突然の雷鳴に、居合わせた6人とも頭を抱えて縮こまってしまった。雷鳴は二度三度と鳴り響き、大粒の雨がバラックのトタン屋根を叩いた。沙希の脳裏に、一年...壁の向こう(34)

  • 壁の向こう(33)

    「その妙なこと・・・、どう言ったらいいんでしょう。たとえて言うなら、強烈な磁場とでも・・・」「磁場?」と、迫田と丸岡が同時に言った。「ええ、今もそのまま残してあるんです。みんな、あれに触れるのを嫌がりましてね。それで、いっそのことと思って前の空き地に新設することになったわけです。ところがです・・・」「空き地でもまだあったんかいな?」と、丸岡は身を乗り出した。(空き地で何が?)空き地でも、多くの遺体が上がったと聞いていたし、実際そこで収容された遺体を沙希も確認していたのだ。(妙なことが起こったというのが、トイレだけではなかった?徳一がトイレで体験した妙なことは、沙希が経験したそれと同じだったのだろう。でも、あの空き地で何が?)沙希は混乱していた。「すみません、急に変なことばかり言って」と、徳一は言ったが、どう説明...壁の向こう(33)

  • 壁の向こう(32)

    沙希も嵐の数日後に経験していた。警察が映画館を捜査している隙に、康平がいなくなったと思われるトイレに、こそっと行ってみたのだ。康平がそこで見つかるなどとは思わなかったが、どうしても自分の目で確かめたかったのだった。原形のとどめない映画館の正面玄関に規制線を張って、何十人もの警察が、崩れた瓦礫の隙間から中を覗いていた。トイレに行くには、その前を通るしかなかったのだが、ビルが崩壊したことで、裏側から侵入できるほどの隙間ができ上がっていた。沙希はその隙間が侵入して、トイレの西側を回り込み、警察の死角から入ろうとした。しかし、トイレのノブに手を触れた瞬間、電流が走り稲光がしたのだった。強烈な静電気だろうと思ったのは、その後、何も起こらなかったからだった。それに、コンクリートの上に、チューリップ型の便器が並んでいるだけで...壁の向こう(32)

  • 壁の向こう(31)

    徳一は計画書をもう一度広げて、修復工事の範囲に赤印を入れた。修復工事にかかるのは2日後だという。ということは、掘削用の機材は明日中に搬入しなければならなくなった。一旦工事にかかってしまえば、終わるまで大型車が村に入れなくなってしまうのだ。迫田は、その場で業者に連絡を入れた。道路の修復工事と同時に排水管の埋設をする。その間に村の中の排水管の埋設を進めて、村の出口で接続する。平行して掘削現場では、櫓を組んでドローワークス、泥水ポンプ、噴出防止装置を設置して、排水管埋設後の掘削準備をしておけば、合理的にことが運ぶのである。丸岡は、二日後の道路修復工事に際しての打ち合わせを簡単に終え、根元まで吸ったタバコをもみ消し、「じゃあ課長、二日後にまた」と言って立ち上がろうとした。「あの、沙希さん、ちょっといいですか?」沙希は怪...壁の向こう(31)

  • 壁の向こう(30)

    お役所という所は、何かと融通が利かない印象が強いものだが、予想外な誤算というか、嬉しい誤算とも言えた。沙希と徳一の個人的な奇遇が、そうしたわけではないのだろうが、温泉掘削の許可申請も融資の件も、思いのほかスムーズに進んだ。融資は、徳一の照会によって農協から受けることが、既に決まっていた。「ご覧の通り、嵐で庁舎がこの有様ですから、本来なら融資などしている場合ではありませんが、久保田さんたちのお陰で無駄な開発をせずに済むわけですし、すべて税金とはいえ、あの時の予算がそのまま残っていて、町の復興のために役立つのですから、誰も文句はないでしょう」徳一は、いかにも太鼓判を押すといった表情で言った。「それに湯上や明神の復興には、湯瀬の方たちに随分助けられましたし、この件も復興予算内で十分可能ですから、農協でなくても・・・ど...壁の向こう(30)

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