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夏海 漁の書斎 https://ryonoshosai.jugem.jp/

夏海 漁の書斎です。 短編、長篇小説など載せてます。

ヤバイ世の中になった、と杉田はいつも思う。世間の憤懣は、そろそろ沸点に達しているのではないか

夏海 漁
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西区
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新温泉町
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2007/11/28

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  • その男(23)

    「公私共に恩のあるいうのは?」「色々、入社時からな」「計画的かも知れへんな、それ」「あの頃はそうは思えへんかった。何しろワシたちの仲人やしな。・・・と、いうよりや、ワシに対して、まさかそんなことせーへんやろと信じとったんや」 志村が大阪相互

  • その男(22)

    志村の話しは続いた。断片的な喋り方で、杉田は話しをつなぎ合わせるのに苦労したが、およそそのようなことであった。 照明機器の制作リーダーを任されて五年間の業績は、右肩上がりであったが、徐々に侵攻していたバブル崩壊後の影響で、二〇〇〇年にプロ

  • その男(21)

    大手印刷会社・大阪相互紙業株式会社 営業二課係長・志村敬二。これがこの男の三年前までの肩書きである。 入社十八年目にして、ようやく課長の座を手に入れる筈であった志村は、横領事件に巻き込まれ、昇進のみならず退職に追い込まれてしまったのである

  • その男(20)

    「まあそういうこっちゃ。さっき、にいちゃんには要領事件の容疑が晴れた言うたけど、あの時点で、まだ証拠が不十分でな、拘束できへんかったみたいや。・・・そりゃそうやろ。何もしてへんさかいにな。そやのに会社や家じゃ容疑者扱いしよるし、ほんまは任意

  • その男(19)

    「二度目にパクられたんは、弾みというものの、ワシが悪かったんや。やけど、横領の方はハメられたんや」「たぶんそやろ。アンタのその性格ならな。・・・その横領の方はややこしそうやさかい後で訊くとしてや、それより、その会社を何で辞めなあかんかったん

  • その男(18)

    「仕事は? 何してたんや?」「仕事? たぶんにいちゃんの仕事と似たようなもんやで」「えっ、・・・デザインとか?」「いや、印刷屋や。ワシはそこの営業で、プロダクションも代理店も出入りしとったんや」「へえー。これまた奇遇やな」「やろ。そやから、

  • その男(17)

    「アンタはどやの?」「今どうしとるか分からんな、ヨメはんも子どもも。たぶん実家にでも帰ってんやろ。・・・どうでもいいやんか」 男は、フィルターぎりぎりまで吸ったタバコを足下で揉み消した。そしてそのまま暫く目を落としていた。「さっきの深刻な話

  • その男(16)

    「深刻と言えば深刻やったな。その深刻な問題がや、ほとほと嫌気がさして言うか、なんもかも全部が鬱陶しなって逃げたんや。ほんで忘れよう思ったんやけど、やっぱり簡単やなかった」「時間が解決してくれる言うの、あれは嘘やと思う。あんな芸当のできるヤツ

  • その男(15)

    「そや、恐かったでー。最初、にいちゃんがここに来た時、ヤクザか思ってワシ逃げよう思ったんや。懐にドスでも持っっとんちゃうか、思ってな」「シャレなれへんな」「にいちゃんの目ーは、何ちゅうか・・・、死ぬことなんかひとっつーも恐わないいうか、抜き

  • その男(14)

    杉田は、二、三本抜き取ると、残りを男に渡した。「人と話すのは久し振りやな。こんな暮らししとると、会話すること事体、殆どあれへんからな。一日中話さへんことだってある。そやけど、たまにはええもんやな、ほんま」「仲間はいーへんのんか?」「いーへ

  • その男(13)

    「何か難しそうやな。にいちゃんは」 杉田は、この話しになると、沙希の不機嫌な顔を思い浮かべて、胃がキリキリ痛むのだった。「さっきから、にいちゃんと言ってるけど、実はアンタより、俺、年上なんや」「えっ、そうなんか。で、なんぼ?」「四十九歳」「

  • その男(12)

    「これでも四十三や」「四十三?」 長い間身体も洗っていないのだろう。真っ黒な垢が、長袖の下の手首のところで層になっている。年中、外に居るのだから、日焼けもしているだろう。気を遣って五十半ばと言ったつもりだったが、深い皺と、垢と日焼け、おまけ

  • その男(11)

    「こういう時の人間って恐いで。景気のいい時は、えべっさんみたいな顏しとっても、金の話しになると、人間、変わるさかいな」「仕事でトラブったって、そのことかいな?」「そうや。あの時、俺の人生が壊れた。いや、俺のことはどうでもいいんや」「金のトラ

  • その男(10)

    (何となく・・・) と、そう聞こえた。「何となく? 何となくって?」「別に話すようなことやあらへん」「そんなこと分かってんねん。聞かんでも済むことや言うこともな。俺もアンタのような人に話しかけたんも、何となくやからな」 そう言いながら杉田は

  • その男(9)

    (身勝手に会社を辞めて、広島で裏切られ、また勝手に大阪に舞い戻り、事務所開いたと思ったら、また騙されて、挙げ句の果てに「もう嫌だ」と言って、今度はフリーのライターなの? それでご飯食べられると言うの? 毎日ブラブラしてて)と罵られ、冷たく突

  • その男(8)

    「ところでおっさん、いつからここに居るんや?」 その男は、怪訝そうな目で杉田の横顔を覗いた。そして、「にいちゃんには関係ないやろ。放っといてくれ」「ああ関係ないかも知れへん、アンタがどないしようとな。・・・ただ、俺は、アンタと今、話したくな

  • その男(7)

    景気のいい時は太っ腹を装って歯牙にもかけなかったことでも、一旦景気が後退すると、とたんに本性を現わす。杉田やその男がいた業界に限らず、どの世界でも弱者を喰らう強者の醜悪、傲慢という毒が、ところ構わず撒き散らされるのだった。 杉田がかつてい

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