苦痛の箱

心配{＃41}

公園でヒカルたちと合流して、 しばらく今日の成果等を聞いたりそれぞれがまわったルートなどを確認して、 仕事の話が少し落ち着いた頃、 すっと目の前にグミが差し出される。 「なんか元気なさそうだね〜まあこれでも食べて元気だしなよ、たっくん！」 こういうときは本当にヒカルのような子がいると楽だと思うことがある。 破天荒というか無邪気というか怖いもの知らずというか、 とにかくそういう人種？は存…

2010/05/13 07:43

雨のち晴れ{＃40}

「あんまりずっと話してたら電話代もかかるし、 今日帰りにでもまた話そう」 エミちゃんはアオキさんとの会話の内容が僕にされたのと同じだということ、 会社は私達2人以外を辞めさせるために今営業に行かせていること、 この2つを確認したらそう言って電話を切った。 まだ会社に戻るのは早い。 でも僕は、もう今日これから知らない人の家を一件ずつまわり、 自分のことと会社の説明、何故来たのかといっ…

2010/05/11 19:29

物忘れ｛＃39｝

契約書類をまとめて今後の打ち合わせだけ済ませたら、 僕はいつもなら相手の都合にも合わせて、 少し雑談をしたり僕自身の話だったりお客さんの愚痴を聞いたり、 ゆっくりとお客さんとの関係を深めるようにしている。 誰だってそうだと思うが、売りつけるだけ売りつけて、 契約さえまとまればハイさようなら、なんて人間はあまり気持ちよくない。 この会社の場合特にそういった印象は大切で、 僕のような営業の人…

2010/05/06 14:26

感情｛＃38｝

「以上で契約書類の方は全てになりますね」 エミちゃんにはあとでまた連絡すると言ってとりあえず中途社員のいる家へ行った。 家の人はもともとうちの会社を知っていて、 自分からは頼まないけど来たらお願いしたいな…くらいに思っていたらしく、 契約は驚くほどスムーズに終わった。 「じゃあ僕はこれで失礼するのであとお願いしますね」 そう言って契約後の流れなどは中途社員に任せて僕はエミちゃんに電話した…

2010/05/03 16:52

真意｛＃37｝

「私、もうやだよ…」 多分電話の向こうでエミちゃんは泣いている。 今時の携帯の電波はかなりいいんだろう。 相手の雰囲気まで伝えてくれるほどに、言葉が…来る。 重い…想い。 今の会社の現状を知っているのは上の人間だけ。 僕達は詳しい事を知らされないままただ毎日飛び込み営業をさせられている。 電話でアポを取ることしかやってなかった人間が、 たった何日間だけの研修で外に出されてもがいている。…

2007/06/18 23:05

￥0｛＃36｝

いつもならもっとゆっくり時間をかけてご飯を食べている。 たった1時間ほどの昼休みなのにもったいない、 と思っている人も、もしかしたら同僚の中にいるかもしれない。 でも僕はそうは思わない。 いつもみんな集まってからお店に入って食べたいものを注文する。 料理が運ばれてきて食べ終わる。 一応会社からは昼休憩は1時間と言われているから、 フルに休むとほとんどの場合は時間があまるのだ。 少し前なら…

2007/06/16 17:34

物思い｛＃35｝

僕の料理が運ばれるのとほぼ同時にエミちゃんからメールが来た。 とりあえず、なんて返事が来たのかも気になるし、 ご飯を食べるより先にメールを見てみる。 「だって、サトルくんご飯食べてるかもしれないし…、 食べてたら迷惑でしょ？だから先にメールしてみたの」 この最初の何行かだけを見て、 本当にエミちゃんはこういう時にでも気を遣える子だなと思った。 自分で「用事がある時は電話する」と言っておき…

2007/05/18 22:49

ランチ｛＃34｝

「サトルくん、アオキさんから電話来た？」 短い内容のメールだ。 エミちゃんは女の子のわりに何となく淡白なメールが多い。 そういえば前に1度、「なんかエミちゃんのメールってあっさりしてるよね」 と言った事があって、その時まずい言い方だったかなとハッとした事があった。 でもエミちゃんは意外なくらい淡々と、 「私あんまりメール得意じゃないんだよね。 用事あったらすぐ電話しちゃう。その方が早いし…

2007/05/16 23:24

的中｛＃33｝

「田村は正直今日入ってきた中途のやつらどう思う？」 短い沈黙の後アオキさんが言った。 僕は社会人としてはまだ人に意見するなんて早すぎるだろうけど、 そんな僕でもこれはちょっとなと思うことがたった何時間であった事は事実だ。 僕が一緒にまわってた人はいっこ上だったし、 1人を除いたらほとんどが僕たちと同世代だったせいもあって、 移動時間だけでみんな打ち解けていた。 電車で移動していたが、その…

2007/05/14 09:08

予感｛＃32｝

次の日の朝、出勤して気がついた事がある。 見た事のない社員が何人か、4〜5人いる。 パッと見た感じでは僕よりも年上で、1人は40歳くらいに見える。 急にぞわっとするような嫌な感覚に包まれた。 なんとなく嫌な予感がする時が誰にでもあると思うがまさにそんな感じだ。 とりあえず挨拶だけして僕は支店の掃除を始めた。 その後、いつもどうり朝礼を済ませ営業に出る準備をしていると、 奥の方で支店長の…

2007/05/13 14:27

叫び｛＃31｝

1週間後、僕たち叩き部隊は7人になった。 営業に出ては誰か1人と一緒にまわり、 休憩中に「なんでできない？」「そうじゃないだろ」 といった言葉をぶつけ、精神的に追い込む。 ただでさえ自分でも結果が出ていないことは分かっているのに、 同期の人間にこれでもかと言うくらい叱られる。 殺人鬼に監禁され死を目の前にして「自分で死ぬか？」 と銃を差し出され言われているようなやり方で、 これからの自分…

2007/04/08 12:18

役職｛＃30｝

1日中室内で電話をかけて時間が来れば帰れる。 すでに会社を辞めた人の言葉。 そこにどっぷりとはまってしまったのか、 同期のほとんどにやる気はない。 今朝の朝礼後、現地に向かう途中に誰かがこんな話をしていた。 「今日もどうせ駄目だしどっか漫画喫茶でもいくか〜？」 「あぁそれいいね〜適当にまわった後どっかで時間潰すかな」 「こんなんじゃどうせ取れないし何もしてなくても日給1万だぜ？」 とトー…

2007/04/07 17:34

見切り｛＃29｝

「赤字だよ。ここまで大きくマイナスなのは設立後初めてって話だ」 続けて支店長が話す。 「今年は知っての通り業務拡大に向けて新卒、 中途共に大幅に採用数を増やした、 っというのは知っているな？」 僕とエミちゃんは顔を合わせてから、 「はい、知ってます」 と同時に答えた。 「それに見合うだけの数字が取れてないと言うことだよ早い話が」 それからの話は僕とエミちゃんにとってありえないくらいきつ…

2007/04/07 13:48

会議室｛＃28｝

叩き部隊発足から2週間、 僕達は全員で2件しか契約が取れてなかった。 その契約は僕の2件。 アオキさんは本社からの電話で詰められてばかりで営業どころではないし、 他の新卒、僕の同期は休憩時間を過ぎても公園で寝ているやつや、 喫茶店でコーヒー飲んで友達と電話してたよと、楽しそうに話すやつ、 「俺はだめなやつなんだ、どこにいっても相手にされない」 と落ち込むだけ落ち込んで、見てるこっちがつら…

2007/04/06 16:47

初日｛＃27｝

2日間の研修のあと全員で営業に出る。 アオキさんと僕たち新卒で14人。 さすがにこの人数で住宅街を歩くのは迷惑なので、 僕とエミちゃん、アオキさんの3人をリーダーにして3組に分けた。 僕とアオキさんで4人、エミちゃんが3人。 僕の所にはユウキがいた。 昼食の時にアオキさんに携帯で結果の報告をする。 もちろん1件も取れてない。 「まあ、焦らないでやれよ、焦ってもいいことないからな〜」 と…

2007/03/14 11:47