口にしたことのない食べ物でしか味わえない味【『鍋に弾丸を受けながら』感想】

口にしたことのない食べ物でしか味わえない味【『鍋に弾丸を受けながら』感想】

食べたことのない食べ物からでしか得られない「味」は、確かにある。 「想像していた味とちがった」経験は誰しもあるのではないか。 レストランでメニューを見て、想像したあの味。口の中には何も入っていないのに、甘い、塩辛い、酸っぱい、苦い、複雑に舌が感じ取る感覚。食べたことのないものを味わっているこの瞬間が料理の最高潮ですらある。 悲しいかな、空想の味というのは実態を持つ本物の食材を食べてしまうと、二度と味わえない。物体を口に運んだ瞬間から、想像していた味というのはどこかへ吹き飛んでしまう。 幼いころ読んだ絵本には、よくクルミが登場した。 かわいらしい動物の食事シーンで景色にそっと書き込まれているクル…