140字小説

140字小説

通りかかった城の中庭のベンチで彼を見かけた。彼はそよ風に髪をゆらし、うつらうつらしている。声をかけようとして、やめた。疲れているのだ、寝かせておいてあげたい。黙って通り過ぎる。が、数歩戻って周りをちらと確認すると、その唇にそっとくちづけた。とたん、かっと頬が熱くなった。私はなにも見ていない。あれはただ、この目に映っているだけの光景だ。けれどもそれが、こんなにも私の心を激しく揺さぶり、絶望が胸にひろ...