【天声人語】1946年7月27日 『悪虐の論功行賞』

【天声人語】1946年7月27日 『悪虐の論功行賞』

南京大虐殺事件は、当時世界中にかくれることもないことであった。ただ日本の民衆だけが、この事実から耳目をうばわれ、信ずる父や子や夫や同胞たちが、悪虐不倫をかさねつつあるのも知らず、勝ったら勝ったと内地では旗行列が行われていた。これを目撃した報道陣仲間では「これでこの戦争は日本が敗ける。日本人であることがつくづくいやになった。戦争をしない国に帰化したい」という絶望的な空気が支配した。しかし実際に紙面をうずめたのは勇ましい記事ばかりで、事実を報道した一行の記事もなかったことは、恥ずかしいことである。南京入城の軍司令官や当の部隊長も、この非人道に対して何の処罰もうけず、かえって論功行賞されたということは、いかに国家の良心がしびれていたかを物語るものだ。日本人の生活の根底に、人間としての信仰生活のとぼしいことが、民族的な...【天声人語】1946年7月27日『悪虐の論功行賞』