浮遊感５７メートル

絵

  下宿の外廊下に急いた足音が響く。俺の部屋の戸が開き、向島が姿を現した。ここもちゃうか、と彼は頭を抱え膝をつく。俺がどうしたのか尋ねると、彼は口喧嘩の末、妻…

2018/09/08 14:15

筆

  真木は、今でこそ無趣味で自堕落な生活を送る学生だが、かつては美術部に所属し、放課後になると美術教室の隅で、鬼気迫る表情して何枚もの絵を描くような奴だった。…

2018/09/08 14:10

没

 真木くん、と誰かが俺の名を呼んだ。俺はその日、商店街の抽選会場を訪れていた。一等は国内旅行、二等は一万円の商品券、三等は老舗のお菓子詰め合わせ、と懸賞の目録…

2018/09/08 13:11

骨

  ピンク映画が観たくなった俺は奴を誘うため電話をかけた。奴の妻が出たので、はきはきと快活な口調で映画の題名をつげ、奴がいるか尋ねた。しばしの沈黙のあと、彼女…

2018/09/08 13:03

料理

  俺は寺の境内に立っていた。うっすらと積もる雪の上に、はらはらと紅葉が落ちる。視線をあげると鮮やかな紅葉の木立に囲まれている。それを見て、ああ、これは夢だ、…

2018/09/08 12:58

写真機の中

  旭から真木が禁煙しているようだから様子を見てきて、と頼まれた僕は彼の下宿を訪れた。猫の額ほどの庭を掃除する大家に挨拶をし、彼の部屋に足を踏み入れる。鍵は相…

2018/09/08 12:34

トンネル

  夜来さんはしばしば夜のドライブをすることがあった。俺も時折誘われて夜の海や朽ちた家屋をのぞきに行くことがあった。その日は、旧道のトンネルを訪れた。車はトン…

2018/09/08 12:26

親愛なる

  真木ちゃーん！ と旭が下宿の戸を勢いよく開けた。壁にもたれて団扇をあおぎ暑さをしのいでいた俺は驚いて彼女を見る。サンダルを脱ぎ、旭は花柄のワンピースの裾を…

2018/09/08 12:22

青春

朝、コーヒーの匂いで目が覚める。僕はまだ眠っていたいなと思い寝返りを打つ。戸の開く音がして、もう朝よ、おはよう、と妻の旭が声をかけてくれる。笑いを含んだ声に…

2018/09/08 12:15