『燃ゆる女の肖像』

『燃ゆる女の肖像』

フランスの人文科学に親しんでいる者にとって、ギリシャ神話のオルフェウスとエウリディケの挿話はそれこそ耳タコで、『エッセ・クリティック』のバルトや『文学空間』のブランショが好んで論じていたものだ。文学の修士号をもつセリーヌ・シアマ監督はおそらくそうしたトピックに精通している。 本作が素晴らしいのは、この神話を、ジェンダーやら視線の相互性やらの見地から徹底的に問い直して、ストーリーに落とし込んでいるところ。それでいて18世紀の無名の女性画家たちの生きざまに思いを馳せた時代物でもあるのだ。題名で「燃ゆる」と訳された”en feu”は、「愛の炎」と同時に、女を苛む男社会の「地獄の業火」と..