メインカテゴリーを選択しなおす
月夜の猫-BL小説です 花びらながれ5 BL小説 「はじめてお目にかかります、私、青山プロダクションの……」 パソコンの前にこちらに背を向けて座っている女性が一人いたので、良太は名刺入れから名刺を取り出しながら声をかけた。 「ああ、君が良太ちゃん? なるほどねぇ」 自己紹介し終わらないうちに振り返って立ち上が
月夜の猫-BL小説です 花びらの囁き7 BL小説 それでもその時その時、臨機応変に完璧に仕事を遂行していく二人には圧倒されることもしばしばだ。 ただ、きっちりとスケジュールを組んで動く性格の三浦としては、ちょっと待てよ、と思うことも少なくないわけだ。 まあ、何が起きても驚かないというスタンスの浩輔にはまだ及ばない
「ごめんな」という生絹のその言葉を潮に、碧生の目から涙があふれた。感情の波に揺られたというよりは、謝らせたことが情けなかった。 滲んだ視界のなかで、涙がほとほととソファーに落ちていく。迷うように握ったり開いたりしていた生絹の手のふるえる指が碧生の頬に触れる。すっと涙をぬぐわれると、悲しいのにうれしかった。 ごちゃ混ぜになった気持ちのまま、生絹の肩に顔をうずめた。碧生の涙が生絹のシャツをすこしずつ...
月夜の猫-BL小説です 花びらながれ4 BL小説 MBCテレビで制作中のドキュメンタリー番組『レッドデータアニマルズ‐自然からの警告』の音楽は人気ミュージシャンに依頼している。 良太もいくつか好きな曲がある『ドラゴンテイル』は、ボーカル担当の水野あきらがほとんどの曲を作っているのだが、この独身美女と噂の水野は
月夜の猫-BL小説です 花びらの囁き6 BL小説 「これは何の冗談だ? 義行!」 コーヒーをすすりながらデスクを見た河崎が、数枚の書類を手に言った。 CF撮影のために翌日の日曜も返上で労働を終えたプラグインの面々は、夕方オフィスに戻ってきて一息ついていたところだ。 「見りゃわかるだろ? 企画書兼出張届け」
「……これ、なんで『E.T.』?」「俺、この映画好きなんだよ。小5のとき、父親と最後に観た映画だからかな」 言いながら、生絹は画面から碧生のほうに視線を移した。「碧生とは、はじめて一緒に観る映画だな。いつか、俺んちで碧生と映画を観てみたかった、ずっと。夢がかなったよ。わがままにつきあってくれてありがとう」 ひと言ひと言刻むような言いかたに、碧生ははっと身じろぎした。 夢をかなえること。わがままを言うこと...
月夜の猫-BL小説です 花びらながれ3 BL小説 竹野紗英は最近急速に伸びていると評判の人気女優ではあるが、業界では超わがままでスタッフ泣かせという評判の方が先に立っている。 元来人気女優やアイドルといえば、どちらかというと周りがちやほやしつくして、おだてて女王様に仕立て上げるので、それが自分の事務所の人間だけ
月夜の猫-BL小説です 花びらの囁き5 BL小説 「いや、実際留学したければした方がいいんだ。そのくらいできるだけのものはほんとはあるのにな」 無論、悠が留学なんかしてしまったら、きっとあの部屋は火が消えたようになるだろうな。 藤堂にもその寂しさは想像がつかない。 「悠、まだ受け取らないんですか? 絵の代金」 浩輔は
月夜の猫-BL小説です 花びらながれ2 BL小説 これまで何だかだと沢村のトラブルに巻き込まれてきた良太としては、できればこのくそ忙しい時に何もあってほしくはないと頭の中から沢村のことをシャットアウトする。 「良太ちゃん、坂口様からお電話です」 社長の工藤がドラマの撮影でギリシア辺りをうろついている間に、やら
月夜の猫-BL小説です 花びらの囁き4 BL小説 「ま、なあ、ロダンのヒヒジジイの作ったお約束なシロモノより数段マシ、かな」 「悠にかかっちゃ、ロダンもかたなしだな」 藤堂はくっくっと笑う。 「俺にとっちゃ無用のもんってことだ。ロダンを崇拝するヤツに喧嘩売る気はないさ」 「なるほど。しかし過密スケジュールだな」
生絹に告げるべき言葉を探して碧生が考え込んでいると、ふいに生絹が口を開いた。「なぁ、碧生。いまから俺んち来るか?」「えっ!?」 素っ頓狂な碧生の声に、生絹が肩をふるわせて笑った。ひどい、と碧生は冗談半分、もう残りの半分は本気で抗議する。生絹はしばらく笑ったあと、一転してひどくまじめな顔で碧生を見て、口をひらいた。ふたりのあいだを、すこし強い春の夜風が抜けていった。「俺は、がんばって碧生に触れられ...
月夜の猫-BL小説です 花びらながれ1 BL小説 近年の日本のスポーツ界といえば、レベルの高い闘いが続くフィギュア、テニスの上坂の世界ランキングの動向が気になるところだ。 サッカー界では海外で活躍する選手の移籍問題が注目されている。 MLBでは大宮選手の活躍で持ち切りだが、プロ野球はと言えば三月も半ばを過ぎる
月夜の猫-BL小説です 花びらながれ(工藤×良太) BL小説 やらなくてはならないことが山積みな良太のところに、脚本家の坂口から電話が入り、ドラマのキャスティングで問題があったと言ってきた。結局良太がその穴埋めをすることになった。しかもそんな良太に悪友の沢村から相談事が舞い込んだり。そろそろお花見かななんて思
月夜の猫-BL小説です 花びらの囁き3 BL小説 「高津はしゃべれるのか? フランス語とかイタリア語とか」 「しゃべれるかよ、んなもん」 悠は、と藤堂が聞かないところが悠は癪に障るのだが。 「特訓するにも三日しかないしな。ちなみに英語は?」 「だから、しゃべれるわきゃねーって」 悠はしれっと断言する。
月夜の猫-BL小説です 花びらの囁き2 BL小説 「そう、お金、あるのか? 念のために多めに持っていった方がいい。今度こそ絵の代金、ちゃんと使いなさい」 そうである。 藤堂が買った、はずの今このリビングのひとつの壁一面を飾っている絵は悠が個展に出品したものだ。 だが、その代金を悠はどうしても受け取ってくれないの
月夜の猫-BL小説です 花さそう(工藤×良太)72までアップしました BL小説 花さそう(工藤×良太)72までアップしました。 時節柄、花にちなんだエピソードをアップしております。 花の宴(工藤×良太)9(ラスト) 故あって桜を敬遠している工藤を、良太らが会社の裏庭で始まった夜桜の宴に引っ張り出します。
東京で5度目に生絹と会ったのは、桜のつぼみがやわらかくほころびだすころの土曜日のことだった。 夕方から少し早い花見をふたりで楽しんだあと、碧生が予約した桜並木を望む居酒屋でのんびり飲んだ。 居酒屋を出て生絹がちいさく歌う鼻歌が、ご機嫌に酔ったときの癖なのだと碧生はもう知っている。なんという歌なのかは教えてもらえなかったけれど、碧生ももうおなじメロディーをなぞることができる。 あてどなく並んで歩き...
月夜の猫-BL小説です 花びらの囁き1 BL小説 「ヨーロッパに旅行? いつ? 誰と?」 声がひっくり返りそうになるのを、藤堂はすんでのところで堪えた。 「高津と。今度の月曜日から次の週の火曜、って二十二日? パリからローマ経由してフィレンツェ回るんだ」 夜の十時。 三月に入ったばかりの金曜日である。 昼のうち
それからも生絹は碧生にちょこちょこと連絡をよこした。他愛もないやりとりがうれしくて仕事の合間にスマートフォンを確認するのが癖になった。 きょう昼ご飯を食べた蕎麦屋がめちゃくちゃおいしかったから今度いっしょに行こうな。あしたは雪が降るんだって、楽しみなような、嫌なような複雑な気持ちだな。けさ、ひさしぶりに野良猫を見たんだけど、猫さま効果かな、仕事を定時であがれたんだ。 日々のなんということもない文...
月夜の猫-BL小説です 花の宴9 BL小説 「何が?」 アスカはパイを頬張ったまま振り返った。 「あの二人、工藤さんと山内ひとみ」 「どうにも。昔からの悪友みたいよ」 「良太とのことは?」 「知ってるわよ、彼女、良太を可愛がってるし」 「そうか……」 千雪はなるほどとうなずいた。 「それより、工藤さんじゃない?
透明にきらきらと光る水面でしずかに波は寄せて返している。後悔が繰り返し胸のなかで行きつ戻りつするように。いつか潮が引いたとき、その向こうへとわたることはできるだろうか。その先にはなにがあるんだろう。「腹が減ったな」 物思いに耽りながらぼんやり海を眺めていると、ふいに生絹が言った。時計を見るとお昼どきを過ぎている。急に空腹を覚えた。 昼めし食いに行くか、という生絹にうなずいて立ちあがり、護岸ブロッ...
月夜の猫-BL小説です 花の宴8 BL小説 「はあ、ガキの頃から女みたいや言うて、からかわれよりまして、じゃまくそうて、大学デビューで変身したったんです」 千雪はしれっと言った。 「はああ、いろいろ苦労があったわけやね」 「いや、これがまた周囲の反応がおもろいのなんの、ちょっとやそっとではやめられへん」 千雪は
「きれいだな」 ふっと洩れたような生絹の言葉に碧生はうなずいた。「大人になっても、きれいなものをきれいと言える人でいたかったんだ」 かすかに肩を揺らした生絹がぽつんと言葉を落とす。碧生から視線を外して、海を見遣った。俺、さんざん汚いことしたけどな、と言って軽く笑う。 碧生はちらりと海を映すその目を見た。すこし苦しそうな灰色がかった瞳がきれいだと思う。 まっすぐ海を見たままの生絹に碧生は問うた。「……...
月夜の猫-BL小説です 花の宴7 BL小説 「あ、俺やります、千雪さん」 「良太、お皿並べてんか」 「でも、テーブル乗っかりませんよ」 「じゃ、あたしみんなに配る」 皿を持つアスカを見かねて、今度は京助が切り分けたパイを二つずつのせた皿を取り上げて、配って歩く。 そのようすをしげしげと眺めていたひとみが、
優介の手からペットボトルを攫う。「え?」飲みきるが、ほとんど残ってなかった。少ないが、それでもなんとか治まった。「ちょ、ちょっと悟さん。俺の」「ご馳走様」「俺の-」「お、耳、治った」「耳?」徹がこんなことを言ってくる。「治ったって何が?」ユウマが声を掛けてくる。「サトル、なにやってるんだ」「ユウマ、一緒にやるか?」「どうしたの、サトル君。水分補給したかったのか? 余裕だねえ」「あいつらのヌルくてな...
月夜の猫-BL小説です 花さそう72 BL小説 「ったく、心臓が止まるかと思ったぞ。俺の人生設計が狂うかと思ったじゃねぇか」 「なあにが、設計のせの字も知らないくせに」 「フン、自慢じゃないが、俺なんか胃も腸もポリープ取りまくって、医者に一体どういう食生活してるんだってど叱られてるぞ」 それこそ自慢げに言うと、下
車を発進させた生絹に「どこへ行くの?」と訊ねると「海にでも行くか」と返ってきた。 あぶなげなく車を走らせながら、生絹は楽しそうに話している。アスファルトが白っぽく光を跳ね返して、その先へと生絹は車を進めていく。「碧生とこんなふうに出かけられるなんてな」「そうだね」「返信読んだとき、うれしかったよ」 碧生が首をかしげると「『会えるよ』じゃなくって『会いたいな』って送ってくれたろ。俺のこと、好きでい...
月夜の猫-BL小説です 花さそう71 BL小説 二四六から一つ入った通りの地下に、古いショットバーがある。 MBC時代からADや下請けスタッフのたまり場になっていたこの店は、工藤もまた金のない仲間らとよく訪れていた頃から全く変わっていない。 ドアも壁もカウンターもスツールも年季が入っている。 ポップスだかジャズ
薄手の白いニットと細身のジーンズ、黒いスニーカーのうえにコートを着て、つぎの日の昼前に自宅の最寄り駅で生絹を待っていた。よく晴れた日で、頬に冬の風が痛いくらいだった。 駅前では、たくさんの人待ち顔のコートやジャケットがそれぞれの相手を探している。 生絹は約束の10時半ぴったりに、黒いヴィッツを慣れた様子で碧生のまえに停めた。助手席側のドアを開けて「碧生、待ったか?」と言う。「ちょっとだけ。僕がはや...
月夜の猫-BL小説です 花の宴5 BL小説 「だって、谷川ちゃんってば、絶対飲まないのよ、運転するからって」 「それが当り前なんだ」 秋山がアスカをたしなめる。 「あの人、堅いよなー、あんま笑わねーし」 次、日本酒行こう、と俊一と競い合っている小笠原が言った。 「あ、やっぱここだ、来たぞ~良太」 良太が顔を上げ
生絹からLINEのメッセージが届いたのは、東京に帰って二週間後の土曜日の朝のことだった。一日の仕事にとりかかろうと背もたれに寄りかかって背伸びをしていたところで、スマホがふるえた。 『あした会えないかな?碧生の都合がついたらでいいんだけど』という文面に素直に心が躍った。すこし考え、シンプルに『会いたいな』と返信して、急いで頭のなかで仕事の予定を組みなおす。きょうを詰めてがんばれば、あしたは一日ゆっく...
月夜の猫-BL小説です 花の宴4 BL小説 昨年末の、良太が沢村の会社に引き抜かれる云々のすったもんだは、会社関係者みんなが知るところだ。 「まあ、いいじゃない、もう済んだことだし、良太の友達なんだから」 秋山は笑う。 その時、ドアが開いた。 もう来たのか、と良太が振り返ると下柳がよう、と手を挙げた。 「何だ
ふるさとを発つ電車に乗ったのは、翌日の朝早くのことだった。生まれたばかりの朝の光がプラットホームに降り注いでいる。 コートの裾をつめたい風に煽られながら碧生はちいさくため息をついた。 後ろ髪を引かれる。もっとこの地で生絹と話をしてみたかった。おなじ東京住まいだと聞いたから会えないわけではないだろう。むしろ、連絡をくれると言っていた。 けれど、生絹が、碧生が、それぞれ傷を負ったこの土地で話すことに...
月夜の猫-BL小説です 花の宴3 BL小説 「……でさ、これ誰が後片づけすんだよ」 ふと嫌な予感がした良太が、一人呟く。 パーティ用のグラスや皿も、リラクゼーションルームから持ち出したものだ。 「そりゃもちろん、準備しなかったヤツ、な」 ぽん、と俊一が良太の肩を叩く。 「んだとぉ、紙皿とか紙コップとかにすれば
月夜の猫-BL小説です 花の宴2 BL小説 「あ、じゃあ、もう予定入ってないってことでしょ。今夜の花見、行きましょうよ。八時前か、今頃始まってるな」 そう言ったかと思うと、良太は会社へと車を走らせる。 「良太、遅くなってもいいから、工藤さんも連れてきてよね」 というのがアスカからのお達しなのだ。 「おい、良太
月夜の猫-BL小説です 花の宴1 BL小説 「前線の影響で、関東全域では明日は朝から雨、一日中断続的に降り続き、桜にとってはどうやら「花散らしの雨」となりそうです」 FM局のキャスターが告げる予報に、MBCテレビから外堀通りへと車を走らせる良太は、あ~あ、と口にする。 「どうした?」 良太のいかにも残念そうな
月夜の猫-BL小説です 花の宴(工藤×良太) BL小説 そろそろ桜も終わりに近づいた頃、アスカがお花見をやろうと言い出した。それも会社の裏庭でだ。というのも、会社のビルが建った頃から平造が丹精した桜の木が育って、なかなかの花を咲かせているのだ。良太もこれなら人混みの中に出かけなくても充分花を堪能できると思いつつ
月夜の猫-BL小説です #post_titleBL小説 花-桜にちなんだエピソードをアップします。■花の宴(工藤×良太) ■花びらの囁き(藤堂×悠) ■花びらながれ(工藤×良太)
生絹の告白が耳に心地いい。けれど。手紙を手にしたまま、ぎゅっと握った碧生のこぶしがひざの上でさらにきつく握りこまれた。単純に喜びに身をゆだねるのはまだ早い。重ねて訊ねる。それなら、と切り出した声がみっともなく掠れた。「いまなら、僕への気持ちを恋って呼べる?和夏さんとのこと、すこしは薄れた?」「正直に答えていい?」 うなずくと、生絹は考え考え、まるで散らばった細かいビーズに糸を通していくように、き...
月夜の猫-BL小説です 花さそう(工藤×良太)69までアップしました BL小説 花さそう(工藤×良太)69までアップしました。かぜをいたみ(京助×千雪)18までアップしました。またメインではありませんが名前が途中から変わってしまってる人がいたため、修正中です