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ふと目が覚めて、肩に触れる温もりに視線を向ければ。眠っていると思っていたその人の瞳もこちらを見ていて、ぱちりと交わった視線にどちらからともなく小さく笑う。「ふふ、ハインも目が覚めちゃった?」「あぁ、アルもか。まだ暗いようだが…今何時だ?」「んー、まだ4時前だね」夜明け前か、と呟いて横になったまま前髪を無雑作に掻き上げるハインリヒにアルフレードは瞳を細めた。彼のこんな無防備な姿を見ることができるのは世...
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み33 BL小説 良太は少しばかり気が気ではない。 戻ると、工藤は年配の男と話していた。 「あら、藤田さん」 理香が声をかけると、フジタ自動車社長、藤田が振り返った。 「おや、理香さんじゃないか。広瀬くんも、久しぶり」 「お久しぶりです」 良太は皿を傍らのテーブルの上に置いて、
月夜の猫-BL小説です 真夏の危険地帯16 BL小説 「先日横浜ベイアリーナで行われた人気ロックグループ、GENKIのライブは大盛況だったことはもちろんなのですが、今、巷でネットで盛り上がっているのは、そのアンコールに登場した謎の超美形ギタリストのことなんです!」 ことさら大げさな身振りの女性リポーターの言葉に
こんどの待ち合わせには、清音のほうが先にきていた。姿を見るなり、彩葉の心臓が小走りになる。ぱたぱたとせわしない鼓動をなだめすかしながら、清音に手を振った。ざわざわと色が跳ねる駅の改札前で、ひとり背筋をしゃんと伸ばして、ひっそりと静謐をまとっている。いいな、となんの脈絡もなく思った。なにがどういいのかはわからない。「ごめんね、待たせたね」 清音は「だいじょうぶ」とすこし笑う。彩葉と話しているときの...
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み32 BL小説 「会社ってどこだっけ?」 「え、青山プロダクションです。一応プロデューサーです」 理香に聞かれて良太は、プロデューサー、を強調する。 「っていうと、ひょっとして工藤さんのとこ?」 俄然、理香の目が輝いた。 「そうですけど、昨夜も今夜も一緒に来てますよ」 胡乱気に
月夜の猫-BL小説です 真夏の危険地帯15 BL小説 元気は名刺を見ようともせずに、黙々と手を動かす。 「天木って言います。ファッション関係の雑誌なんですが、GENKIはちょくちょく取材させてもらっているんですよ。確かにコーヒーは美味いけど、やっぱ元気さんの天職じゃないよな」 無言で元気に拒否されているとわかっ
月夜の猫-BL小説です 霞に月の27 BL小説 「せやなあ」 千雪は肯定するように頷いた。 「それ、ほんまに近しいもんやないとわかれへんよなあ。工藤さんのご学友の小田先生や荒木検事とかも、工藤さんがこの世に未練がないみたいに生きてるんが歯がゆいて思うとるんやないか?」 やはり千雪も工藤のそういう面を感じ取ってい
彩葉があれこれと思い悩んでいるあいだにもせわしなく一週間はすぎ、清音と約束した日曜日がやってくる。 前日の土曜日、彩葉はショッピングモールまで出かけ、シャツとデニムを新調してしまった。ふたたび清音を部屋に招くと考えるとそわそわ落ち着かず、なにも手につかないので自分を落ち着けるために出かけてみたのだ。 帰宅し、紙袋から取り出した真新しい服を眺める。彩葉がいつも身につけているものより、大人びてしゃれ...
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み31 BL小説 門が開いたので、良太は車をゆっくりと進めた。 昨夜と同様車寄せでは藤原とスタッフが出迎えてくれて、良太はスタッフにキーを預けた。 その時、何かしら引っ掛かりがあるような気がして、一度振り返ったが小首を傾げつつ、藤原に案内されて工藤とともに中に入っていった。 ホー
月夜の猫-BL小説です 真夏の危険地帯14 BL小説 たまたまカップを下げてきた紀子にも聞こえたらしく、元気と豪の顔を交互に見た。 「コーヒーゼリーとアイスコーヒー追加ね」 紀子は豪の台詞には関知せず、ことのほか明るい声で元気にオーダーを告げた。 今度は元気が静かに怒ったのがすぐにわかったからだ。 普段は優しく
月夜の猫-BL小説です 霞に月の26 BL小説 「寒うはないけど、なんか、ええなあ、炬燵て」 千雪は炬燵に脚を突っ込んで和んでいた。 「はあ、結構この部屋にくると、みんな炬燵に根がはえるみたいで」 良太は苦笑した。 二月半ばには、この狭い部屋に何人もが押し掛けて酒盛り状態だった。 「へえ、妹さん、彼氏連れて来た
いかにも、というように瀬戸ふたばが重々しくうなずいた。「そうだよ、彩葉ちゃん!恋だよ。いいなぁ……」 どこか淡く言うと、彩葉に顔を近づけ、ぐっとひそめた声でふたばが訊ねる。「もしかして、初恋?」 彩葉がやや迷いながらもうなずくと、ふたばが軽やかに笑った。風を閉じ込めたような笑いかただった。「初々しくてかわいいわ、彩葉ちゃん」と言いながら、彩葉の髪をぐしゃぐしゃかきまぜる。 ふたばの名を呼ぶ声がした...
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み30 BL小説 「あ、ありがとうございます」 良太はさすがに大きなチョコレートプレートを食べた後は胸やけがしそうになって、紅茶をゴクゴク飲んだ。 「明日は何時頃こちらを発つ予定です?」 杉田は紅茶を良太のカップに注ぎながら尋ねた。 「十時くらいには出ます」 「あら、じゃあ、朝食召
月夜の猫-BL小説です 真夏の危険地帯13 BL小説 やれやれ、とそんな事情からご機嫌斜めな紀子には細心の注意を払わねばならない元気は嘆息し、それでも自意識過剰かもしれないがこの店が辺鄙な田舎町でよかったと思うのは、日がな一日こういう「客」に店を占領されなくて済むことだった。 確かに、東京にいた頃は元気の携帯には
「あのさ、彩葉ちゃーん……、それは恋だよ!」 彩葉の目のまえに座った瀬戸ふたばが、にやにやしながら実に楽しそうに言う。翌日のホームルームまえの教室で、いつものように話しかけにきたふたばに、自分の身に起きている不可解な心の動きについてざっくりと相談したところだった。 「恋」。彩葉にとっては、なぜか「天国」とか「奇跡」とかとおなじくらいに縁遠い、自分とはかけ離れた言葉だと思っていたのに。それなのに、まさ...
月夜の猫-BL小説です 霞に月の25 BL小説 「あ、まさか、締め切りが迫ってて、バックレようとか思ってます?」 「フン、残念ながらギリで間に合うたわ」 「そっすか? だって時々、携帯切って編集さんやり過ごそうとかやってるじゃないですか」 前科があるから千雪の言葉を鵜呑みにすると危ないこともある。 「シルビーの
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み29 BL小説 こういう時、昔ならつい煙草に手が行くのが常だったが、最近は自分だけでなく周りにも害があるなどと言われて、禁煙までは行かないが、ポケットに煙草を入れるのはやめている。 「さあさ、座って下さいな、ほら、ぼっちゃんも」 良太は吹き出しそうになるのを何とか堪える。 ダイ
月夜の猫-BL小説です 真夏の危険地帯12 BL小説 そんな毎日にすっかり同化していた元気だが、謎のギタリストなる、まるで見知らぬ自分が勝手に世の中に出て暴走しているのを見ているような気がする。 どっちにしても、ちょっとみっちゃんと話さなきゃな。 川べりの道を歩く元気の頭の中を、ネットの記事や動画がぐるぐると駆
月夜の猫-BL小説です 真夏の危険地帯11 BL小説 四年前、別れを告げてこの町に戻ってきた元気を忘れられず、豪はストーカーのように元気を思い続けて、最近注目のカメラマンのくせに、ついに元気の住む近くの町に引っ越してきてしまうほど元気一筋な男で、いつも元気の顔を見ると喜んで尻尾を振って駆けてくるリュウと次元が一
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み28 BL小説 「ただ今帰りました~」 別荘に着き、声をかけながら中に入ると、キッチンから音が聞こえた。 杉田はキッチンにいるらしい。 「杉田さん?」 「あら、良太ちゃん。お帰りなさい」 「ただ今戻りました。これ、どうぞ。クロワッサンがすごくうまくて」 良太がベーカリーの袋を
月夜の猫-BL小説です 霞に月の24 BL小説 「このシリーズの主人公である六条渉は、幼い頃に家族を強殺されるという凄惨な経験を持っているので、罪を犯した人間に対して極端な憎悪を抱いています。ともすると非情に被告人に対して厳罰を与えかねない自分と常に闘っているというような深い闇があります。また六条に限らず、刑事の
すごく好きで。 食い入るようにその文字列を眺める。すごく好きで。 その言葉を見ていると、さっきから身体じゅうを走り回っているちいさな生きものがなにかやわらかな歓声をあげるのが聞こえる気がした。なんと返信すればいいのか液晶の上を指がうろうろさまよっているうちに、軽い音とともにつぎのメッセージが届く。『おやすみ。日曜、楽しみにしているな』 なんとか頭と指を動かし、『僕も。おやすみ』と返信する。するり...
月夜の猫-BL小説です 真夏の危険地帯10 BL小説 「元気、昨日はどこ行ってたの?」 さくっと紀子は切り込んだ。 「昨日? だから将清たちと会うって言っただろ?」 優作が見せてくれた携帯の動画を思い出して、どうやら紀子が既に元気が何をしていたか知っているような気はしていた。 昔の元気を知っている連中なら、や
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み27 BL小説 「そうか。工藤さんそういう義理難いとこあるしな。けどまあ、昨日から夏休み珍しゅうとらはったんやろ?」 千雪は頷いた。 「はあ、何かドラマの若いタレントが風邪でスケジュールに穴をあけたとかで、怒ってましたけど、ちょうど休みになったからよかったっていうか、急に軽井沢行
月夜の猫-BL小説です 霞に月の23 BL小説 「クッソ、まんまと良太の姦計にはまってしもたわ」 食事を済ませてNTVへ向かう車の中で、後部座席の千雪はボソリと言った。 「何ですか、その言い方、人聞きの悪い」 「美味いもんでつられる俺も俺やけど。ちゃっかり着替えまで用意してきとるし」 千雪は大学での上下ジャージ
清音からメッセージが届いたのは、それから3日後の夜のことだった。まだ昼は暑いけれど、開け放った彩葉の部屋の小窓からはすずしい夜風が心地よく吹きこんでいた。 かろやかな着信の音に液晶を確認すると、清音の名が表示されている。おおきく、心臓が跳ねた。ロック解除ももどかしく、メッセージアプリをひらく。『借りていた本、そろそろ返さなくちゃな。今度の日曜日あたり、都合はどうだろう?』 ……これは、清音が僕に会...
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み26 BL小説 「俺、何か、中山組の先代が工藤さんのそのお嬢さんに一目ぼれして無理やりみたいなこと考えてましたけど」 「今、八十歳くらいか? 先代は十年くらい前に亡くなったけど、お嬢さんの方は今もバリバリの姐御や、いう話」 良太はしかし、少し眉を寄せた。 「でも、そんなみてきた
月夜の猫-BL小説です 真夏の危険地帯9 BL小説 「四年前は、それに豪の元彼の優花ちゃんまで絡んでたから、お前、身を引くつもりで、田舎にひきこもったんだろ? けど、今は一応、お前と豪がくっついて、優花ちゃんも容認して事務所で仕事してるわけで、ああ、今は確か優花ちゃん、マサとつき合ってるんだし、お前、もうバンド
意図しなかった彩葉の言葉に、清音がかすかに目を見開いた。迷うような声がつづく。「……俺、連絡しても迷惑じゃなかった?会って、本の感想を話したかったんだけど、どういうふうにメッセージを送ればいいのかわからなくて、ずっと迷ってしまって。結局、夏休みがあけてしまったな」 ごめんな、対人関係スキルが低すぎるよな。そう言って困ったように笑う顔を見た。 清音もおなじだったのか。彩葉とおなじく、会いたくて、でも...
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み25 BL小説 「旧軽のカフェでしたっけ?」 ハンドルを切りながら良太は千雪に聞いた。 「前に、通りかかっていっぺん入ってみよ思うとったんや」 ナビに案内されて辿り着いた店は、ちょっとした林に囲まれた古い木造の建物だった。 ランチメニューはパスタやカレーと自家製パンが最近ちょっ
月夜の猫-BL小説です 真夏の危険地帯8 BL小説 黒ずくめだがタンクトップに上着を着ているだけ、一平にしてはマシというところか。 「一平? 本人? びっくりした」 優作が言った。 「誰だ?」 元気の左隣に腰を降ろした一平が元気に尋ねた。 「同期の毛利と江川だろうが。それにお前、去年も会ってるだろ、ライブも来て
月夜の猫-BL小説です 真夏の危険地帯7 BL小説 「くっそ、こういうのってみっちゃん、わざとライブ撮影容認しているっぽいぞ」 「ああ、うまく利用しているな」 将清が頷いた。 「それよか、これどうすんだよ、こっそりじゃなくなってんじゃん」 全くこれでは、内緒でライブに出たつもりだったのに元気のことを知っている人
どうにかこうにか宿題を終えた夏休み明け初日、まだまだ暑さ厳しい朝の昇降口で清音と顔をあわせた。めずらしく、清音のほうから声をかけてくる。「菅原、おはよう。ひさしぶりだな」 彩葉も挨拶を返し、教室までの廊下で肩を並べる。夏期講習のあいだにずいぶんと清音のとなりにいるのも慣れた。 それでも「長期予報だと残暑が厳しいんだって、いやだなぁ」「でも毎年そうだから今年もテレビが言ってるなって思うだけだな」な...
月夜の猫-BL小説です 霞に月の(工藤×良太)21までアップしました BL小説 霞に月の(工藤×良太)21、鬼の夏休み(工藤×良太)23、真夏の危険地帯(豪×元気)6までアップしました。 大変お暑うございます。 時節柄、皆様どうぞご自愛くださいませ
月夜の猫-BL小説です 真夏の危険地帯6 BL小説 「何で一平が俺のホテル知ってんの? 一平には教えるなって浅野にも言ってあったはずだけど」 今回の上京は実のところプライベートでも極秘機密で目的も上京する事すら誰にも教えていない。 しかも一平って、冗談だろ、またぞろおかしな誤解を招くだろうが。 ただでさえ、豪の
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み23 BL小説 「京助さんと千雪さん、あれって、双方横暴でもどっちかっていうと、京助さんの方が弱いよな、惚れてる分」 一見して京助の傲慢さに千雪が振り回されているようで、その実、どちらかというと千雪の方が振り回しているようだ。 「まあ、しょうがないよな、惚れてるんだから」 良太
本のお礼に宿題のわからない箇所を教えてくれると言うので、ローテーブルに教科書と参考書、ノートをひろげて化学の応用問題の解きかたを教わる。化学はこてこての文系である彩葉の苦手科目だ。 彩葉の脳内でからまっている箇所を的確にほどきながらルーズリーフの上をすべるシャープペンシル。机の上から目をあげて、彩葉は清音の横顔に目をやった。そのままぼうっと眺める。伏せた目のまつげが長く、すっきりとした鼻筋やすこ...
ハニーストーンと呼ばれる優しい色合いの石灰石で造られた建物が並ぶ首都バレッタの街並み。この街は島の北東に位置する岩山に築かれたもので、街そのものが世界遺産に指定されている。高低差が激しく、それ故に複雑に建物が折り重なる光景は圧巻の一言だ。古代から戦いの要塞となり、多くの民族や文明、勢力がこの場所で衝突し、時に交わっては重なり、複雑に絡み合ってきた。そうして生まれた唯一無二の存在は、その背景にある歴...
月夜の猫-BL小説です 真夏の危険地帯5 BL小説 無論最初から何もかもうまくいくわけではなかったが、みっちゃんが虎視眈々と準備を重ね、その広い人脈やネットをフルに使う頭脳戦略は徐々に功を奏し、メンバーは皆同格、ギャラはしっかり頭割りとなって、それぞれ意欲的に活動しつつ、現在に至っている。 元気の肩書である嘱託社
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み22 BL小説 別荘に戻ると、ダイニングテーブルに、ワインクーラーに冷やした冷酒と杉田のメモが置いてあった。 「お酒を召し上がるのなら、いくつかおつまみが冷蔵庫にあります」 良太が冷蔵庫を開けると、ナスの煮びたし、里芋の含め煮、キュウリの梅肉和えなど、工藤の好きそうな小鉢がいく
月夜の猫-BL小説です 霞に月の21 BL小説 「四月は杉田さん、ほら、軽井沢でお世話になった年配の女性だけど」 「大丈夫です。ちゃんとわかります。いろいろ杉田さんとはお話もしたので」 「四月がバースデイなんだけど、大々的じゃなくてこじんまりとでいいので、平さんみたいにお祝いしたいんだ。それで、何かいい案がない
しばらくかけて、3冊の本を見つくろい振り向くと、清音は凪いだ瞳で彩葉を見ている。しずかに問われた。「どうして、こんなに読書が好きなんだ、菅原?」 彩葉は本を抱えたまま、足がすくむのを感じた。つまさきから、つめたい感覚が這い上ってくる。 ――……気持ち悪いんだよ! かつて、投げつけられた言葉が脳裏をよぎる。清音には、清音にだけはそんなふうに思われたくない。だけど、うそもつきたくない。どうしよう、どうす...