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「水曜だったかな、三枝のなんだかややこしそうな話を聞いていたけど、だいじょうぶか?」 いたわるような清音の声に、彩葉は顔をあげた。じわっと心の奥底にやわらかい水がわく。 三枝光莉が相談ごとを持ちかけてきたのは、たしかに水曜の放課後のことだ。年の離れた光莉の弟が、どうしても小学校に行きたがらないらしい。だれがどれだけ理由を尋ねても、頑としてなにも言わないのだそうだ。困ったよねぇ、と言う光莉の声がよみ...
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み43 BL小説 どうせ極道などとまともに取引なんかできるか、とでも考えていたのだろうとは容易に推察できる。 いつもそっちで勝手に決めればいい、というスタンスでいるのだが、これが藤田や美聖堂の斎藤には何故か気にいられて、これまで長い付き合いになったりしているのだから不思議だ。 紫
月夜の猫-BL小説です 真夏の危険地帯26 BL小説 そしたら、もしかしたら、父親はまだ生きていてあの店を続けていたのだろうか。 時間が戻せるとしたら、自分はどういう選択をしたのだろう。 元気はフン、と自嘲する。 もしとかたらとか、考えても詮無いことだ。 時は戻ることはないのだ。 にしても、今日は昔のことばか
月夜の猫-BL小説です 霞に月の34 BL小説 良太は猫たちにご飯をやり、着替えると、軽くサンドイッチで夕食にして、車で高輪へと向かった。 工藤に言われてから、空いた時間に高輪のジムへ週一、二回通っている。 お陰で身体の調子が前よりいい感じだ。 「でも、あれか。もし、そのイベントで、工藤に誰かが見つかったら、ジ
清音をふたたび自室へ招いたのは、10月のはじめのよく晴れた土曜日だった。こんどは彩葉から思い切って連絡し、会う約束を取りつけた。清音に読んでほしい本がある、というのはなかば(というか完全に)口実だ。清音に会いたかった。学校ではなく、その外で清音の姿やまなざしを独占したかった。 いずれにしろ、ふしぎと学校で本の貸し借りをする気持ちには互いになれないようで、清音も彩葉の貸した本を教室に持ってくることは...
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み42 BL小説 浜村と渡良瀬が立ち去ると、紫紀が言った。 「お疲れ様です。工藤さんも良太ちゃんも、肩凝ったでしょう? ちょっと奥で一服されてはどうですか?」 工藤はすぐにも帰りたそうな気配だったが、「ありがとうございます」と先に良太が答えたので、眉を顰めながら工藤も良太の後に続
月夜の猫-BL小説です 真夏の危険地帯25 bl小説 しかしな、とみっちゃんは続けた。 「たまに一平が元気にありつけるとなれば、一平のパワーは倍増するんだけどさ、ほら、ネコを遊ばせるときみたいに、たまにキャッチさせてやらないと興味をなくすだろ? つまり全然、報われないってことになると、一平は仕事だろうが放りだし
月夜の猫-BL小説です 霞に月の(工藤×良太)33までアップしました BL小説 霞に月の(工藤×良太)33、真夏の危険地帯(豪×元気)24、鬼の夏休み(工藤×良太昨年夏)41までアップしました
月夜の猫-BL小説です 霞に月の33 BL小説 「それはまあ、わからんでもないけど。せや、最近法医学研究室にアメリカから来はった准教授が、工藤さんにちょうどええかもて」 「おや、そうなの?」 「それと、桐島の友人のバイオリニストが美人で陽気なんですわ」 「へえ、なるほど、異業種交流会だ」 「工藤さんと良太にそれ
雨音のリズムにあわせるように会話しているうちに、雨脚が弱くなる。互いの話し声がくっきりと輪郭を持つ。霧雨のなかに踏み出すと、雲の切れ間から光が差した。「菅原、虹が出てる」 清音の指さすほうを見る。濃い灰色の雲を背景に、見事なアーチを描いてくっきりと虹がかかっていた。けれど。「僕、虹ってあんまり好きじゃなくて。なんだか、見てるときれいなのに掴めなくて、気持ちがひんやりするから」 彩葉の言葉に、清音...
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み41 BL小説 京浜ホールディングスのブレインはこの人か。 良太は心の中で頷いた。 広報にも詳しいらしい。 「そうですか。彼の仕事は素晴らしいですね。実は一ファンなのですよ。お会いしたことはありませんが、これまでの業績は聞き及んでいます」 「ええ、とても、常人にはない発想と技量
月夜の猫-BL小説です 霞に月の32 BL小説 「うーん、それって、表向きはってことだよね?」 すると千雪は少し眉を寄せる。 「まあ、二人とも頑なやし、特に工藤さん。出自があれやからってのはわからないでもないけど、いくら何でもって思うし、この辺で何か起爆剤になるようなことがあれば、や、この際、二人とも別の誰かと
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み40 BL小説 「キャストは有名どころが出演されるんでしょうか?」 渡良瀬は聞いた。 「まだ正式には決まっていないようですが、先生が推しておられる俳優さんはどなたでもご存じの方になるのではと思いますが」 「なるほど」 にっこりと渡良瀬は笑った。 「あら、良太ちゃん、探したのよ~
月夜の猫-BL小説です 真夏の危険地帯23 BL小説 悪いのはちゃんとはっきりさせなかった自分だ、元気を勝手に好きになったのは自分だからと豪は言うが、自分に非がないわけがないと元気はわかっている。 起きるべくして起きてしまった結末に、そしていろんな感情のせめぎ合いから、あの時、元気はこの街に逃げ帰ったのだ。
木曜の朝はよく晴れていたのに、夕方から雲行きが怪しくなってきた。鈍い灰色の雲が息苦しいほど重く垂れこめ、いまにも降り出しそうだ。図書当番のカウンターに立ちながら彩葉と三枝光莉は「彩葉ちゃん、折り畳み傘持ってきた?」「持ってない、降るかな?」と小声でささやきあう。 五時に図書室の入り口を施錠し、職員室に鍵を返しに行くころには、本降りの雨になった。 光莉はバレー部の友人から折り畳み傘を借りたらしく「...
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み39 BL小説 良太を見つけた工藤は険しい顔をしたが、すぐに表情を戻して、話に戻った。 「ああ、いいところにきたね。浜村さん、青山プロダクションの広瀬くんです」 紫紀が良太を認めるとすぐに二人の男に紹介した。 浜村と呼ばれた男は五十代くらいだろうか、穏やかな顔つきのスマートな男
月夜の猫-BL小説です 真夏の危険地帯22 BL小説 詩も歌詞も元気の中では同じ引き出しに属し、今も市内の同人誌にこっそり参加しているのだが、昔から書き綴ったノートはかなりの冊数になる。 「この詩なんか、宮沢賢治とか三好達治とか元気の好きな作家のニオイでいっぱい」 「そう…すか?」 言い当てられたことがきっかけ
興味津々といった様子のふたばに、どうして女子ってこうも恋の話が好きなのかなぁと思う。それらしき『進展』についてぼんやり回想していた彩葉は「抱きしめてみたけど、みたいな……?」とうっかり事実を話してしまう。目を見開いたふたばは、わざとらしく甲高い悲鳴をあげた。「ほんと!?やるじゃん、彩葉ちゃん。それでそれで?お返事は?」「いや、告白したとかじゃぜんぜんなくって、たまたま抱きしめちゃっただけで……」 尻...
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み38 BL小説 「いや、俺はお客ってほどでも。ひょっとして警察行ったんですか? 知り合いが捕まえたって?」 良太は聞いた。 「ああ、ダチとその仲間、まあ、ちょっとバイクのテクがある連中四、五人で車追って、のっとった男二人、引き摺りだして、捕まえたて」 「バイクだけじゃなくて腕っぷ
月夜の猫-BL小説です 真夏の危険地帯21 BL小説 「今日は秋に出す『久遠』の編集会議です」 少し頬を赤らめながら少女は答えた。 「へえ、だって君ら三年だろ? 夏期講習とか忙しいんじゃないの?」 「でも『久遠』は今年で百号の記念号だから気合入ってて、私らも顔出してきたんです。すごいですよね、ほぼ年一回か二回発
月夜の猫-BL小説です 霞に月の30 BL小説 「異業種交流会、ですか?」 翌日、出社してきた森村に、良太は昨夜千雪に提案された話をすると、森村は怪訝な顔で聞き返した。 「まあ、合コンとはちょっと違うけど、もっと広い意味でというか」 良太としても今一つピンとこないのだが、千雪の言うには、年齢や職業、性別問わず
瀬戸ふたばが彩葉の前の席にいそいそと「彩葉ちゃーん」と陣取ったのは、それからしばらく経った水曜日の朝だった。 古い椅子に脚を組んで腰かけ、うきうきとしたオレンジ色の感情を帯びたふたばは、「彩葉ちゃんのアドバイスにしたがって、彼氏とよりを戻しましたー!」と両手をあげて報告してくる。そういえば、そんなこともあったっけ。自分の身に起きたはじめてのおぼつかない色恋沙汰で手いっぱいの彩葉はぼんやりと思い出...
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み37 BL小説 「お金に決まってるじゃない! いい服着ていいもの食べて、いい暮らししてるあんたたちなんかにわかんないわよ!」 ちょっと見可愛いと思われるだろう顔がゆがんだ。 良太までをも小谷は睨み付ける。 「いや、俺の服はただこのパーティのために社長に買わせられただけなんだけど
月夜の猫-BL小説です 真夏の危険地帯20 BL小説 豪はオーストラリアに発ったはずだ。 朝、車の音で元気が目を覚ました時には既にいなかった。 「どっかいい店連れてけよ」 客が入ってきたのと入れ替わるように、じゃ、あとで、とみっちゃんは店を出て行った。 何だよ、重要な問題って。 またしても頭を悩ませそうな何かに
月夜の猫-BL小説です 霞に月の(工藤×良太)29までアップしました BL小説 霞に月の(工藤×良太)29、真夏の危険地帯(豪×元気)19、鬼の夏休み(工藤×良太)36 までアップしました。
月夜の猫-BL小説です 霞に月の29 BL小説 それでも、ワインをゴクゴク飲んだ良太はそのうち酔いがまわってくると、泣いていたのが「モリーのやつがね、しきりと彼女が欲しいって俺に訴えてきて」とへらっと笑うようになり、「だけど、さすがに俺にも、はい、彼女、とかってプレゼントするわけにもいかないじゃないですか」など
清音にまた本を貸し、駅まで送っていった。別れ際、彩葉の目を真剣に見て、清音が紡いだ言葉が胸のうちをあざやかにめぐっている。「図書館司書の話、真面目に考えてみろよ。すごくいいと思う」 帰り路をひとりでほたほた歩きながら、図書館のカウンターに座っている未来の自分を彩葉は想像してみる。読みたい本や資料を探している人にアドバイスをする、図書資料を選んで発注をかける。悪くない、やってみたい。どうやって資格...
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み36 BL小説 目を眇めるようにして良太と小谷を睨み付けていた工藤は、自然と怖い顔になっていた。 「工藤さん、どうかなさったの?」 そんな工藤を見て、理香が尋ねた。 「あ、いや、知った顔があった気がしたが違ったようだ」 あの野郎、いったいどこに行くつもりだ。 イラつきながら工藤
「……菅原」 清音が彩葉の肩に額を乗せたまましゃべるので、音と振動でその声を聞いた。やわらかで、優しくて、ひりひりするような切なさのにじむ声だった。「俺、そんなふうに言ってもらったの、はじめてだ」「うん」 彩葉はしずかにこたえる。なにか聞きたがっている清音の問いに、ひびを入れないように。 迷い迷いといったふうに、清音が言う。「そんなふうに言ってもらって、俺、どうすればいい?」 彩葉は迷いなく答えた。...
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み35 BL小説 「手分けして探してどこか、談話室、空いとるよな? あそこに連れてこよか」 聞いてきた京助に千雪が提案した。 「談話室か」 緊張しながら良太は呟いた。 「誠が窃盗犯二人、自分の車で連れてくる、言うてた。諏訪の森公園あたりで追いついたらしい。車はダチに丁重に運転させ
月夜の猫-BL小説です 真夏の危険地帯18 BL小説 雛子との関係は昔から変わらず仲は良い方だろう。 多分、恋人が男だと告げたとしても、雛子はさほど驚かないに違いない。 のんびりとしているようで、実は元気などよりよほどどんと構えた性格なのだ。 ともあれ、さっき雛子が二日酔いかと聞いたのには、何も言わないで朝帰り
話ははずんだ。小説のことに関する小箱のような引き出しなら彩葉のお手のものだ。貸した本の執筆の裏話的エピソード、ちいさいころに読んで印象的だったSF小説の衝撃的なオチ、そんなあれやこれやを清音に話した。清音はちいさく笑ったり、すこしうなずいたりしながら、ときに的確な質問を繰りだしてくる。「清音、ちいさいころに読んで好きだった本ってある?」 だから、そんな会話の応酬のなかで生まれた彩葉の問いは、ごくな...
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み34 BL小説 「ほんで、学生を使ってこそこそ窃盗やパパ活なんかやらせているのが、さっきのもう一人のオッサンや」 「……何か、段々、その通りだって気がしてきました。ってことは、駐車場、気を付けてた方がいいってこと?」 「せやな。帰りは各々好きな時に帰ってもらうことになっとるし
月夜の猫-BL小説です 真夏の危険地帯17 BL小説 すっかり実業家然とした涼子が、Gコーポレーションの自社ビルの前でたくさんのマイクに囲まれている。 「ですが、飛び入り参加してくれたギタリストはあくまでも純粋に音楽が好きなだけなんです。これ以上詮索されると、二度と彼がステージに立つことはないと思われます」 き
「清音、待って」 清音に並ぶため、彩葉は足を踏み出す。さっきまではっきりと感じていた靴底の感覚があいまいになっている。雲の上を歩いているみたいに頼りない。いつもの家路をたどっているだけなのに、妙にふわふわしている。 頭のなかにもかすみがかかっているようで、清音になにを言えばいいのかわからず、「ありがとう」と声にできたのは自宅の門扉のまえで足を止めたときだった。清音が少し首をかしげたので、補足した。...