メインカテゴリーを選択しなおす
沖合にある島を目指していた。大しけだった。海はうねりをあげて荒れ狂っている。 小舟は怒涛により何度も転覆の危機を迎えた。1つの怒涛を超えても息つく間もなく次の荒れ狂った大波が押し寄せてくる。小船は急流に飲み込まれる木の葉のように翻弄され続けた。 穂先を波に対して真っすぐに。大波を被りながらも、ただそれだけを愚直に延々と繰り返す。 大しけの日は監視が緩む。決行するにはこの日しかなかっ...
にほんブログ村 にほんブログ村 シヴァ神は、初めて「純粋な悪意」の攻撃を受け、下位の低級な存在が集まっている、言わば、悪魔の住む世界に閉じ込めらたのだ。 「悪意」はシヴァがこれで手も足も出せない
「伝えたときは事実でありました」 「なんら落ち度はなかった、そうおっしゃりたい?」 「いいえ、初めて飛行船協会を訪れた際に飛田の正体を見破れるでしょうか?」 「尋ねたのは私です」 不穏な空気を察して鈴木がフォロー。「正直、事件の翌日に飛行船協会の所在が浮かび上がったのはサイト上に蔓延した目撃情報が元です。現場周辺の聞き込みが禁じられて、僕らの打つ手が、停電と飛行船ぐらいだった。停電は電力会社をS市警察が調べるでしょうから、死亡時刻前後の屋上を望める位置は、周辺のビルか、上空しかなかった」 「なるほど、かろうじて理由は成り立ちますかね」 「店長さんの納得はこの際取っ払って、あの、我々の質問に明確…
「私が吸います」店主が言った。種田を見つめる、この程度の譲歩は受け入れて欲しい、そう目に意思を込めた。 ブラインドが下げられる。ウエイトレスが気を利かせたらしいが、僕はすぐに体をねじって、外が見える程度にブラインドの羽を調節してもらう。 体に縞模様が浮かんだ。 煙草を吸うつもりはなかった。立場の優位性を嫌ったのだ、ここは喫茶店で、相手は刑事、とはいえ僕の店ではない。よって、対等に接するための足場を作った、といえるか。自らの行動を振り返り、言葉に意味をつける店主。 僕が吸い、鈴木が後を追う。種田はコーヒーを口に運んだ、カップの接触面積、その滞在時間は極端に少ない。猫舌だろうか、店主は何の気なしに…
にほんブログ村 にほんブログ村 時空はそこに記録されたものの全てを含む。流れ去るのではなく、そこにあり続けるのだ。 時空が流れ去ると感じているのは我々だけなのだ、実は流れているのではなく、我々
40の手習いに自転車に乗り始めた。子供の頃以来の自転車は、なかなか真っ直ぐに進まず、あっちによれよれ、こっちによれよれしながらペダルを回していた。高校生の自転車に追い抜かれたり、電動自転車に追い抜かれたりしながら、それでも体にあたる風がすがすがしくてとてもいい気持ちだった。そんな気分最高のおれの行く手に長い登り坂が見えてきた。すっかり子供の気分に戻っていたおれは、この坂を登る決断をした。坂の始まり...
第170回芥川賞に決まった九段理恵さんが、作品に生成AIを使ったと発言した。その量は、全体の5%くらいなのだそうだ。 創作に生成AIを使う。こんなこと、遅かれ…
早く目が覚めた。午前4時半。 遠くに新聞配達のバイクの音が静かに聞こえている。 僕と新聞配達員しか存在していないと思わせるような静かな時間帯。 すこし寒い感じがする。ハロゲンヒーターをつけようとしたが手が届かない。 パソコンに向かおうとしたけどめんどくさくてやっぱりやめた。 しばらくの間、ベッドから部屋を眺めている。 外はまだ暗い。カーテン越しに外の暗さが解る。 机があって...
にほんブログ村 にほんブログ村 「さあ、薬の後には蜜糖を召し上がれ。なんだか元気な顔になって良かった」 男が親切そうに蜜糖を勧めてくれるのを、有難く舐めながら、海野はとうとう可笑しさをこらえきれ
「店長さんが、その、なんといいますか」挨拶以後、種田との会話を見守る鈴木が言った。「集団卒倒の原因と、S市警察が疑いをかけてまして……」 「もう、屋上の死体の身元、犯人は捕まったのでしょうか?」店主は話題を変える、鈴木たちの質問に答える価値を見出せない、正面切った否定は種田という女性刑事の神経を逆なでするし、やんわりとした拒否は鈴木の余計な気遣いが始まる、聞いてはいるが返答を避ける、そのポーズで汲み取ってもらおう、僕は目を細めて視線を外に流した。 「私は集団卒倒の事情聴取に窺った、その点をお忘れなく」凄みを利かせた種田の目線だった。一度合わせて離す。 「ええ」 並べられたコーヒーを三人が各自の…
幸い、開店間もない時間が功を奏したのかどうかは、正しい状況説明とはいえないけれど、ウエイトレスの特段に興味を湛えた視線、彼女の一人分の関心が留まったのだから、上出来だろう。正午過ぎのかきいれどきだったならば、目も当てられない、それこそこの端末の使用をやめるよう指摘を受けたかもしれないのだ。 一分も経っていない。店のドアが開く。窓際の奥の席、ドアを入って、左側に僕が見えただろう。他のお客の出入りに気分が損なわれない、そのために入り口に背を向けて座っている。 「失礼します」 「どうも、朝から押しかけてしまって」二人の刑事は特徴的な表情をそれぞれ浮かべ、席に着いた。鈴木が手を上げて、コーヒーを注文し…
見計らったと勘ぐるほどに席に着くと端末が震えた。慣れていないと飛び起きそう、心の準備が必要なぐらいだった、……通話後に設定を変えなくては。 「はい」電話の応答とウエイトレスの注文が重なる、メニューを指差して、一人にさせてもらった。僕は腕輪に呼びかる。 「おはようございます」 「ご用件は?」予定の時刻はそろそろであった。ただ、搬入口に面した店主が見下ろすとおりにトラックの姿は未確認。 「実は、厨房機器のメーカーが別の注文先に間違って配送したらしくて、二十分から三十分、そうですねえ、予定が遅れるかもわかりません」電話の相手は商業ビル改装のサンダーストーム代表の宇木林である。無駄にジェントルな声だ。…
ウル第三王朝の牛飼いの少年が丘の上で寝そべって小鳥を戯れているとき、牛たちは思い思いの場所で草を食んでいた。およそ2キロ先をエラムの大群が土煙をあげて馬を走らせる。 牛たちは騒ぎだし、少年の指先で戯れていた小鳥は辺りをキョロキョロと見まわすと飛んで行ってしまった。 少年が地面から聞こえる蹄の音で身を起こしたとき、エラムの兵士が放った槍が牛飼いの少年を貫いた。 少年は言葉も発せないまま高く掲げ...
にほんブログ村 にほんブログ村 川島海将率いる小規模な艦隊は、今補給ポイントに定められた海域へと急行していた。横須賀から海上へ退避している、空母『信濃』を旗艦とする、海自としては最も大きな艦隊に
ChatGPT歌詞「出汁を取らないで」(発注者による出汁のないライナーノーツ付き)
【※以下の歌詞は、題名以外すべてChatGPTに依頼して書いてもらったものである。】(Verse 1) 雨降る夜 古びた扉が開く ラーメン屋の奥 暖かな灯り 注文は不思議 出汁を抜いてくれ 甘くて苦い 未知なるフレーバー(Pre-Chorus) 出汁のないラーメン 新たな冒険 舌を奮わせて 運命の一杯(Chorus) 出汁を取らないで 味覚の扉を開けて 不思議な旅へと連れてって 香り高いスープ 心に溶け込んで 出汁のないラーメン 愛の味わい(Verse 2) 客たちが見上げる 古びた店内 不思議な雰囲気 漂うエッセンス 誰もが驚き 口元緩む 出汁なしのラーメン 心を掴む(Pre-Chorus)…
僕の店を通り過ぎる。深夜から作業が行われ、日中は音の出る作業を控えて取り掛かるらしい、近隣店舗の兼ね合いがこうした密集区域では至上命題とも言えるし、これを怠ればギスギスした関係性が生まれ、大事に発展しかねない、とまあ、後半は最悪の事態、考えすぎたきらいはあるけれど、現実に起こった場面は過去に見てきた店主である、なので、リスクは事前に回避可能ならば、手を打つべきだろうと、桂木に話しあい、事前に左右、正面、斜向かいに手土産を持って挨拶を繰り出したのが、先週での土曜だった。出店の挨拶を省いたときとは事情が異なるのだから、その辺は僕も大人になったといえるだろうか。かなり遅い大人への第一歩である。 コー…
にほんブログ村 にほんブログ村 「あの蟹に、この車から、ミサイルを撃ってみましょうか?」とプラットが言った。 内藤はまだ、車の窓から顔だけ出して、蟹を怒鳴り付けていた。 「レーザー兵器も備えられて
「ええ、今日からです。うるさいでしょうけれど、大目に見てください」 「いいえ、僕は後からやってきた新入りですので、意見なんて言えた立場ではありませんから、はい」樽前は気後れしたようで、数秒虚空を見つめるように、僕を視線を合わせた。背後で音声が鳴る。前のお客のコーヒーが出来上がったようだ、提供に応じた彼なりの選別方法があるようだ、天板のメニュー表にコーヒーの量と飲み干す大よその時間区分で勧めるコーヒーの種類が異なるらしい、店主はふんふんと首を縦に動かす。 「うちは量によって焙煎の種類を予め選んであります」興味深げに僕の動作が見えたらしい、前のお客にカップを手渡すと、樽前は説明を始めた。「特殊な豆…
どうもー(ヽ´ω`)ふがふが 現在、順調に新曲『こもれび』のYou Tube再生回数が伸びており、ウキウキしております♪ 有名人なわけではないのに聞いて頂けることがとても嬉しいのです(*^_^*)ありがとうございます さて、今回はそんな『こ
どうもー(ヽ´ω`)ふがふが お待たせしました新曲『こもれび』の動画配信が完了しましたm(_ _)m こちらうっす~いですが桜のイラストを加工したものとなっておりまして もしこの画像に見覚えがある方はかなりの古参のファンの方、ではないでしょ
どうもー(ヽ´ω`)ふがふが 新曲『こもれび』が予定通り完成致しました\(^o^)/ You Tubeの準備と配信準備をしておりますのでまた紹介させて頂きますm(_ _)m さて、今回作曲して思ったのですがパソコン上でWAVESみたいなソフ
どうもー(ヽ´ω`)ふがふが 更新が遅くなりまして申し訳ありませんでしたm(_ _)m 実は新曲を作っておりまして、初めに手掛けていたものがうまくいかなかったので 急いで新しいBGMを作成しておりました(ヽ´ω`)はぁはぁ 初めて公開した『
にほんブログ村 にほんブログ村 人類の愚かさが招いたこの「般若」や「悪意」の実体化は、今やその全体の業(カルマ)となって北半球の大方を襲っている。 反省をしない人類の、この過ぎた自己正当化の故
店の斜向かい、テイクアウトの行列に店主は並んだ。前を通りかかったときは、ちょうど店のオーナー、樽前は背を向けていたので、こちらの存在には気がついていなかった。列は十人、いいや九人が並ぶ。朝方の六時過ぎ。こんな時間から働く人はいるものだ、そういう自分も早朝労働者の一員ではあるが、今日は気楽な身分、移転先のビルの完成具合を確かめに早々と家を出た。いつもの癖で目が覚めた、これが理由だった。とにかく、することがなかったのだ。料理を思いつくにも、提供の場があって、観測と翌日の課題・展開が生まれる。空想で作っても仕方がない。だったら自宅で作れば、そういった意見には、自宅は休息の場であり、仕事は仕事場で完遂…
特製サラダには生のラディッシュも添えた。 ラディッシュはつい今しがた庭の一角の菜園から採ってきたものだ。色とりどりの一皿にテーブルがいっきに華やいだ。町を訪れた客人たちが息を呑むのがわかった。 ラディッシュを摘んできた菜園は庭の東側にあり陽の光をより長く浴びた作物はよく育った。 土作りにはこだわりがあった。季節季節に有機肥料や石灰をまぶして土をよく混ぜる。リン、チッソ、カリウムがバ...
にほんブログ村 にほんブログ村 虚空と言う概念がある。 日本の場合、この概念は、仏典を通じて知られるようになったものだ。然しこれは、古代インドの akasa が漢訳されたものである。 ところで
しかし、地上に上がったはいいものの、店に入れるわけではないのだ。 昨日の日曜から耐震工事がとうとう、というか移転が決まるや否や、移転先の内装が決まったのが先々週の始め、路上で倒れた通行人の介抱に当った二日後で、その翌日には今日の日程が組まれたスケジュールを不動産屋の桂木が無理を承知で頼み込んだのだ。しかも、工事を請け負う業者にはスケジュールの日程を既に伝えてあるというのだから、これまた従業員、特にホール係兼経理担当の国見蘭の霹靂が落ちたことは記憶に新しい。ただ、そこは桂木の思惑に流され、僕は営業停止期間の売り上げ分は移転先の諸経費に回すことを提案した。その場での回答は見送られたが、後日数日後に…
にほんブログ村 にほんブログ村 「くそっ!今度はなんだ!蟹かあれは?」と内藤は、日本亡命政府仮庁舎の前に立って叫んだ。 マニラまでこうなったか!なんとしつこいんだ!と内藤が臍を噛んでいるうちにも
S市の中央区仲通りで起きた集団卒倒は、通信端末ブルー・ウィステリアの新製品が要因と特定された。体調不良を訴える患者は全国で八百万人を超え、発症予備軍は更に三百万人との推定が経済省の調べで発覚した。現行は製品の使用中止を訴え、先週までに耳鳴り、めまい、気絶等の発症者数は減少傾向にあり、今後も注意を呼びかけていく、とブルー・ウィステリア会長は会見で語った。<現地時間午後八時十二分> 画面が切り替わった、台風の被害報告と再上陸の情報は見る価値もない。必要であればこちらから積極的に取得するのだ、店主は地下鉄の改札脇から足を踏み出した。数分ほど、いつもより滞在時間が長い。天気予報を見るつもりが、拡大鏡を…
ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-7
「はい」 「無事だったようね」数時間ぶりの再会?会ってないのだから、再会話とでも言おう。 「ええ、手荒なまねを受けました。あなたが出してくれたのですね」 「そういうことにしておいて。あまり電話では喋れないの」盗聴を警戒した発言、彼女の敵とは何者だろうか、僕は当てもなくアンテナを四方に向けた。 「飛行船場で何が起きたのかをこれから確かめます」 「お勧めはしない。いずれ知れることですし、あなたが足を運ぶ訪問先にあなたを見つけるや否や拘束に駆り立てる機能がインプットされた連中がひしめいてるわ。悪いことは言わない、自宅で静かに暮らしていて」 「あの家はいつまで借りられます?」 「気に入った?」 「地下…
ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-6
何のことだろう、従業員といえば、舞先しかいない。しかし、彼女は雇われた身分、要するに電話口で別れを告げた女性が派遣したこちらの内情を知る人物。いわれのない罪が降りかかろうとしている、けれど妙に達観した観測は続くらしい。だって、彼女の忠告と彼らの訪問した理由は違うのだから。笑いが増幅。 「なにがおかしい?」捜査員は言う。 「根拠、あるいはそれなりの証拠があって、拘束とプライバシーの侵害に踏み切ったのでしょうね、刑事さん」 「証拠は作り上げる。するとお前は罪を償い、拘束と侵害は合法の元に引き波に返され、大海原に飲み込まれる」 「詩人ですね」 「弁護士を雇っても状況は覆らない。決定的な証拠がここから…
にほんブログ村 にほんブログ村 「仏教徒と称する者どもが言うたわい。panyaだpra-jna、だのと、のう」シヴァが言った。 「ああ!わかった!いつか海野先生が!ほら、あの時ですよ!ね!先生!」と、これを聞
ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-5
「じゃあ、ホットドックを用意してください。安っぽくて、妙に固く、しかし食べ応えと飽きのこない味のやつを」 「研究者って味覚の鋭敏さを嫌う人が多いのね、どうしてかしら、おいしさは思考過程で除外されるんだろうか……」彼女は電話口で考え込む、悠長に唸っている芝居が、たまらなく可笑しい。この非常時に僕は笑いをこらえる、そのことも笑みを増幅させるのだからしかたないではないか。 息を整えて、通告。「約束ですから、守ってくださいよ、ギブアンドテイクです」 「エネルギー保存の法則ね。覚えておくわ」 がちゃりと通話が切れる。僕は口元を緩めた、にやけるおかしな奴、という認識で見られるだろう。他人の視線を気にする、…
さて一日も終わるし、サプリメントでも飲もうか。 ミカはサプリメントを数粒取り出して、マグを手元に引き寄せ、 珈琲を入れようとして席から立ち上がった。 席から立ち上がった拍子にサプリメントの1粒が床に転がってしまった。 もぉというため息を漏らしながら、床に屈んで探す。 ワークデスクの下の暗がりに見つけた。拾って口に入れる。 マグに珈琲を入れてそれで飲み込む。 飼い猫の軍曹が寄...
ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-4
「洗いざらい僕の身辺は洗ったんじゃないのですか?」 「そのつもりだけど」ポーンとエレベーターの着地音が受話器の彼女の背後に聞こえた、ビジョンが鮮明に浮かび上がる。やはりホテルにいるらしい。 「逃げるべきですかね」 ドアがノック。二回、叩かれた。この位置からドアは死角になる、ベッドの足元に移って短い廊下の先がドアだ。 「来ました」 「あれ、もう?思ったより早かったわね」 「アドバイスがあれが聞いておきますよ」 「なあに、危険を感じて肝が据わったの。ふうん、案外度胸は備わってるんだ」 「忠告でもこの際構いませんよ」落ち着いてる自分を一歩引いて僕は更に客観的に見つめる。緊張のピークに訪れる、稀有な現…
ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-3
「はい」 「あら、ごめんなさい。いい気分で眠っていた?」女性の声だ、低音で声に香水が含まれてるみたいに、艶やかだった。 「眠ってはいない。まだ、午前中ですよ」 「そうね。それにしても、チェックインの時間早々に部屋に篭ったっきり出てこないつもり?あなた、自分が置かれた状況がわかっているのかしら、……緩慢ね」棘のある言い方、節回し。だが、私には危険を伝える、という警告のみが内部に届く。表面的な言葉の使い方、その違いや正当性さえ、多くの人物が使用してまとめ上げた規定の元に成り立っているのは、つまり何者かが言葉の選択を担い、広めて、現在の使用を牛耳ってこれまで生きてきた。だったら、相手がいかにも低俗な…
鉛筆で横に線をひいた。画用紙は線によって上と下に分断された。さらに横線を引いた。上と下と真ん中が出来た。 子供の頃、真ん中に属していると思っていた。長い間、自分はごく普通の家庭の子供だと思っていた。ごく普通の家庭で裕福でもないが貧乏でもない、そんな家庭に属していると思っていた。 在るとき、何かのタイミングで、あの子と遊ぶな、と言われているらしいことを知った。同級生の親に言わせると僕は乱暴者...
ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-2
選択肢はあまるほどに、手に持ちきれないほど、こぼれんばかりに、否、残されたものたちは私の無意識の選択によって予備予選なるものを通過してるんだ。仕方ない、無意識の仕業、これまでの私を形作る、いわば戦友だ。無下に扱っては罰が当る。そうだろうか?問い返す、男はベッドに寝転んだ。禁煙室を選んだが、かすかな煙草の残り香が鼻をつく。安さが売りの人気のホテル。 これまでの私をしかし、捨て去るべきが肝要だろうな。要、肝、似た言葉を並べた造り言葉。こうして言葉を強める。誰かが言い始めたんだろうな、私は薄ぼんやり、目を半眼に、天井のクロス、植物の模様、蔓を目で追い、左手でなぞった。そうだ、使い始めは世の中で自分の…
ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-1
もう駄目かもしれない、私の開発人生は幕を閉じようとしてる、今後の生活?ここが最到達点だ、これより下に下りたい、と誰が心底願えるのか、興味深い研究対象ではある。だが、私はせまり来る魔の手に抗う術を見出さなければ。 ホテルの一室、最上階のスイートに泊まる資金は潤沢に、余りあるが、寝室は適度に手狭な方に軍配がいつも上がる。しかも、老朽化が目立つホテルにいたっては古いという印象を越えたのちの新鮮さは何物にも変えがたく、それはデザインは不変である、これを如実に示している、といえよう。とにかく、小ぢんまり、収まりがいい室内が快適である、男は手荷物を隣に乗せたまま、ベッドでかれこれ二十分を過ごす。何をするで…
昨年はずっと具合が悪くてメンタルも最悪でマンガどころではありませんでした。他のできる創作は細々やりましたが、マンガとなると精神状態がモロに現れるので、描けたもんじゃないんです。完全に立ち直ったワケではありませんが、なんとか続きを描いたので更新しました。もう1年以上もサイトを扱ってなくて、しくみがさっぱりわからなくなっていました。長い時間でいじくりまわして、やっと更新できました。修正したい記事もあっ...
ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって8-8
まだ店は営業を続ける、装着は閉店まで控える、通話は証明されたし、これ以上の機能が必要に思えない、必要かもしれないし、便利で生活を豊かに、一日の時間に余裕が姿を見せるのかも、ただ、現在の生活には不必要だろう。使ってもいないのに断定するべきではない、いくつか忌憚のない意見が聞こえそうだ。取り合わずにいよう。それが理想。 平茸、マッシュルームをふんだんに盛り込んだオムライスがランチの主役。 ご飯の味付けは何が最適だろうか。 切り替え。 きのこと合うのはデミグラス、醤油ベースも悪くない、ケチャップはありきたりだ。出汁をふんだんにとったかえしなんてのも乙。 腕輪の決め手はなんだったのか、店主はふと、レジ…
ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって8-7
「あっと、かかってきましたよう」手元の端末が青く、いいや紫に点滅、鳴動を繰り返す。初期設定ではこうした音声がデフォルトに設定されるのか、いいかげんに無音を通常の仕様に変更できないものだろうか、店主は色合いを濃い紫に断定した。離れれみると青く、近づけば紫。 「もしもし」重なる館山の低音が耳に届いた、狭い空間で声が反響したみたい。小川が館山と端末を挟んで耳を寄せた。 「おー、聞こえます、聞こえます。感度良好、こちら安佐です。どうも、どうぞ、どうか、どうして。本日は晴天なり。トウデイ、イズ、ア、ファイン、デイズ」 「馬鹿。運動会じゃないんだぞ、それも町内会の」館山が回線を切る。プープープー、と回線音…
その時、リエは静かに泣いていたようだ。 僕には、リエが確かに泣いていたように見えた。 そんなとこ、僕は初めて見た。 泣かない女性だった。 それまでは涙を見せない女性だった。 そんな彼女が泣いていた。 僕はなんて言葉をかけたらいいのか、わからなかった。 そんなリエの隣で、無力に打ちひしがれた僕は、やはり同じように泣いていた。2人で泣いていると、僕のお腹がぐーっと鳴っ...