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  • 第3章 06 黒塗り高級車と黒服と喪服 後編

    カツ、カツ、と冷徹な革靴の足音が、私たちの潜む鯨幕のすぐ目の前でピタリと止まった。 「――そこだな」 無情な声と共に、目の前の白黒の幕が乱暴に引き剥がされた。 剥き出しになった光景。そこには、先ほどの身長一八〇センチを超えるがたいのいいコワモテSPと、その背後にずらりと控えた、これまた体格のいい黒服の男たちが、威圧的な壁となって私たちを見下ろしていた。 「ひゃっ……!」 新人レジの彼女が短い悲鳴を上げて縮こまる。完全に包囲された。これだけのプロに囲まれては、逃げ道などどこにもない。絶体絶命、危機一髪のその瞬間だった。 「おいコラァッ!! 俺のツレ(?)に何メンチ切ってんだよ

  • 第3章 05 黒塗り高級車と黒服と喪服 前編

    ド、ド、ド、ド、ド……。 まだ夜が明けきらない静寂を切り裂いて、地響きのような、重厚な低音が這うように流れてきた。よく整備された大排気量V8エンジンが奏でる、特有の威圧的なアイドリング音。まだ誰も歩いていないアスファルトが、その微振動に震えている。 遥か上空、朝靄に包まれた街の全景を見下ろせば、その異変は一目瞭然だった。 まだ眠りから覚めきらない静かな地方都市。細い路地、主要幹線道路、田畑の緑が広がる平穏な景色の中を、まるで強固な意思を持つ「黒い塊」が、音もなく這うように動いている。 東のバイパスから、滑るように現れた漆黒の影が1台。 西の旧街道のカーブを曲がってくる、重厚な

  • 第3章 04.5 私の、ヤギ飼育リアルリサーチ

    泥だらけのジャージを洗濯機に放り込み、シャワーを浴びてさっぱりした私は、どうしても先ほどのヤギ――「おから」の残像が頭から離れなかった。 あの、のどかで、どこか哲学的な佇まい。草をもぐもぐと食べる愛らしさ。 「……現実的に、個人でヤギを飼うのってどれくらいハードルが高いんだろう?」 気づけば私は、書斎のパソコンに向かって夢中でキーボードを叩いていた。かつて犬や猫の飼育本を読んだことはあるが、ヤギの生態や飼育現実など未知の領域だ。画面に次々と表示される情報を、私は貪るようにスクロールしていった。 🔍 私の検索ノート:ヤギ飼育のリアル 1. そもそも一般個人で飼っている人はどれく

  • 第3章 04 メイに誘われて-妄想散歩-

    前回の「焼きそば屋台・強制入隊事件」以来、私の中には一つの確信が生まれていた。 (あのロボットおじさんと一緒に歩くと、とんでもない面倒事に巻き込まれる……!) おじさんのことは嫌いではない。だが、私の目的はあくまで静かに健康的に歩数を稼ぐことだ。少し後ろめたさを感じつつも、私はいつもの散歩コースを大胆に変更することにした。 初夏の爽やかな風が吹きぬける朝。私はおじさんと遭遇しそうな大通りを避け、団地の裏手にひっそりと続く「旧道」へと足を向けた。 そこは、古い民家がぽつぽつと並び、すぐ脇には青々とした田んぼが広がる、実におだやかな田園風景だった。スマートウォッチの歩数は静かに、そ

  • 第3章 03 ロボットおじさんの組織論と、不穏な黒いワゴン車(後編)-妄想散歩-

    「この巨悪、見過ごすわけにはいきません」 おじさんの画面に表示された決意の文字に、私の心臓は口から飛び出そうだった。通報が先ではないか、いや、泳がせるべきか。パニックになる私をよそに、おじさんはカクカクとした、しかし迷いのない動きで物陰から飛び出し、移動を始めた男たちの前に立ちはだかった。 「そこまでです。あなた方の計画、すべて聞かせてもらいました!」 「うわあああ! ちょっと待って!」 私は頭を抱えながら、半ばヤケクソでおじさんの後ろに飛び出した。 男たち3人は、突如目の前に現れた「挙動の怪しい初老の男」と「怯える中年男」のコンビに、文字通り鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固ま

  • 第3章 02 ロボットおじさんの組織論と、不穏な黒いワゴン車 (前編)-妄想散歩-

    前回の「わずか500歩、道端の蟻で強制終了」というあまりにも不本意な散歩から数日。 私は今度こそ汚名を返上すべく、晴れ渡った初夏の朝の街へと意気揚々と歩き出していた。家を出る間際、リビングでは妻がまたしてもスマホをじっと見つめて熱心に画面をタップしており、娘は始まったばかりの部活の朝練へ行くためにバタバタと準備をしていた。そんな賑やかな我が家を後にして、私のスマートウォッチの歩数は順調に千歩、二千歩と刻まれていく。 (やっぱり、誰かとあーだこーだ言いながら歩くのは楽しかったな……) 前回の娘とのドタバタ散歩を思い出し、少し寂しさを覚えながらのどかな住宅街を歩み進めていた、その時だ

  • 第3章 01 青い空 甘いキャンディ ケーキ 楽しい散歩 そして、“悲鳴”

    「いやっ! キモい! むりー! きゃあああーーーっ!!」 静かな朝の住宅街に、およそこの世のものとは思えない、引き裂くような絶叫が響き渡った。私の少し前を嬉しそうに歩いていた14歳の娘の声だ。 身の毛もよだつような絶叫から、まるで底なしの暗闇から現れた未知の怪物にでも襲われたかのような、恐怖に歪んだ彼女の顔が容易に想像できた。 「大丈夫か! 今行くっ!」 何が起きたのかを脳が理解するより早く、38歳の私の身体が本能的に動いていた。娘の一大事に、私は全力で地面を蹴り、猛スピードで走り出す。 だが、焦りすぎた。 スピードに足が追いついていない。 おまけに、昨夜しんしんと降っ

  • 第2章 09 赤い宝石と、僕のひみつ(後編・最終話) -妄想散歩-

    少年は廊下を突き進み、一気に玄関のドアを開け放った。 「……っ!」 思わず息を呑む。目の前の庭には、家を丸ごと飲み込んでしまいそうなほどの、漆黒の「巨大な大穴」がぽっかりと口を開けていた。その奈落の底から、地響きのような足音と、怒り狂った怪物たちの凄まじい唸り声が響いてくる。 (みんな、怒っている……!) 少年がそれを確信した瞬間、頭の中に昨日の記憶が鮮烈にフラッシュバックした。 (そうか……僕が悪かったんだ……!) 昨日のお昼、お母さんに内緒で、台所の保管庫から「触っちゃダメ」と言われていた、あの赤く魅惑的に輝く宝石を持ち出したこと。 宝石を隠して庭に出たとき、

  • 第2章 08 深夜の地鳴りと、黒の軍団(前編)-妄想散歩-

    ドス、ドス、ドス、ドス、ドス、ドス……。 深夜。しんと静まり返った寝室に、地響きのような、地を幾千も這う無数の足音が響き渡っていた。 それは次第に大きくなり、やがて家全体を激しく揺らすほどの不気味な振動へと変わっていく。ミシミシと軋む壁の音に、たまらずお父さんとお母さんはガバッと跳ね起きた。 「……っ!? 地震か!?」 お父さんが寝床から飛び起き、慌てて部屋の明かりをつける。しかし、揺れはいつもの地震のように横にグラグラと揺れるものではなく、何かが外から激しく打ち付けられているような、規則正しく不穏な縦の振動だった。 「あなた、これ何!? 地震じゃないみたいだけど……

  • 第2章 07:小さな善意と、消えないキャットフードの謎(後編)-妄想散歩-

    「……おかしい。絶対に何かがおかしい」 それからというもの、私のスマートウォッチの歩数は、毎朝の集会所チェックのために不自然なほど綺麗に刻まれるようになった。 三日目も、四日目も。毎日、自治会の回収業者がボックスを空にしているにもかかわらず、翌朝になると必ず、新しい最高級キャットフードのパウチが「一袋だけ」置かれているのだ。 (一体、誰が、何のために……?) 実は、私にはすでに目をつけている「容疑者」がいた。 早朝の散歩中、集会所の周りをコソコソと徘徊し、誰もいない隙を狙ってボックスに「一袋だけ」平たいパウチを投げ入れている、フードを目深にかぶった怪しいお爺さんだ。 いつも

  • 妄想散歩 -目次-

    👟第一章 妄想散歩 第一章|妄想散歩人|note 妄想散歩シリーズ第一弾 ある初夏の日、家を出て団地周辺をぐるっと回って来る中で繰り広げられる物語。クスッと笑えたり、ドキッ note.com 👟第二章 妄想散歩 第二章|妄想散歩人|note 毎日の楽しみの散歩。スマートウォッチの歩数が増えるのが嬉しくて、、。今日も周りで知らないうちにいろんな出来事が⤴︎ note.com

  • 第2章 06:小さな善意と、消えないキャットフードの謎(前編)-妄想散歩-

    「おいおい、ついに我が家も兵糧攻めか?」 散歩から帰り、スマートウォッチの歩数が「6500歩」を超えたのを確認してリビングに入ると、そこには奇妙な光景が広がっていた。 キッチンのテーブルの上に、レトルトカレーの箱やサバ缶、そうめんの束、果物の缶詰などが、まるで砦(とりで)のようにうず高く積み上げられ、奥さんがそれを熱心に仕分けしていたのだ。 私が冗談めかして声をかけると、奥さんはあきれたように笑いながら振り返った。 「違うわよ。今度、うちの自治会で**『フードドライブ』**が始まるの。ほら、お中元やお歳暮でいただいたけど使わずに眠っている食品とか、買いすぎて賞味期限が切れそうな

  • 第2章 05 嵐の日に眠る、台風とエル・ドラド(後編)-妄想散歩

    「……ん、眩しい」 翌朝、カーテンの隙間から差し込む強烈な光で目が覚めた。 窓を開けると、昨夜の世界滅亡かと思うような大嵐が嘘のように、空は見事なまでの台風一過の青空。じりじりと照りつける太陽が、雨に濡れたアスファルトを白く蒸気立たせている。 スマートウォッチに目を落とすと、歩数はまだ「0歩」。 だが、今日の私はいつもと違う。ただ歩数を稼ぐための散歩ではない。目指すは、昨日古地図で見つけた、江戸時代の鉱山跡――幻の洞窟だ。 「よし、お宝(と歩数)を探しに行くか!」 私は黒のジャージに白Tシャツといういつもの戦闘服に身を包み、スマホにダウンロードした古地図のデータを握りしめて

  • 第2章 04 嵐の日に眠る、台風とエル・ドラド(前編)-妄想散歩-

    『――超大型な二つの台風。大気の重い湿度を抱え込んだ二つの巨大雨台風が、日本列島を挟み込むように北上しています。すでに関西以西では、記録的な大雨による土砂災害や河川の氾濫、住宅の浸水被害が相次いで報じられており……』 テレビの画面は、濁流と化した川や、激しく打ち付ける横殴りの雨の映像をこれでもかと映し出している。ネットのタイムラインを開けば、そこも悲鳴のような言葉で溢れかえっていた。 【ネットの反応】 「線状降水帯が居座りすぎて、もう丸一日バケツひっくり返したような雨なんだが」 「新幹線も在来線も全滅。完全に陸の孤島と化した」 「ゲリラ豪雨のレベル超えてる。ライフラインだけは

  • 第2章 03 ロボットおじさんとトーストの焦げ-妄想散歩-

    初夏の風が通り抜けるいつもの散歩道。 いつものように歩いていると、数週間前に引っ越してきたばかりの、見慣れない初老の男が前方から歩いてくるのが見えた。それが、彼との出会いだった。 「……オ、ハ、ヨウ、ゴザイマス」 すれ違いざまに声をかけられたのだが、その発声があまりにも不自然だった。声のトーンが終始一定で、イントネーションの起伏が全くない。まるで初期の音声合成ソフトを聞いているかのような、どこか金属的な響き。最初は「日本語を勉強中の外国の方なのかな?」と思った。 しかし、私が「あ、おはようございます」と返して立ち止まった瞬間、彼の動きを見て心の中で息を呑んだ。 お辞儀をするため

  • 第二章 02夢のマイホームと白骨死体-妄想散歩-

    人は、誰しも人生の中で一度は大きな事件や困難に遭遇するものだ。 そしてそういう事件は、得てして、人生の分岐点と言ってもおかしくない大きなイベントの時に重なってくる。 我が家を出て5ブロック先で建設中の工事現場。この現場こそ、まさにそれだ。 人生で家を建てることなど、大抵は一生に一度きり。そんな重大な分岐点で、その前代未聞の事件は起こった。 造成から棟上げ、そして屋根ができるまではあっという間だった。しかし、そこから突然工事が止まり、それ以降、一向に建設が進まない。 なぜなら、基礎工事の段階で掘った穴から、身元不明の白骨死体が見つかったからだ。 もちろん、警察による厳重な報道

  • 第二章 01 小さな勇者の背中と、特製のおまじない-妄想散歩-

    バイパスの騒がしさを抜けて、緑豊かな運動公園へとやってくると、大きな木陰のベンチの近くで、2歳くらいの男の子が何やら「ただならぬ気迫」を放ちながら立っていた。 お名前はひろくん。 ひろくんは今、人生最大の危機(と本人は思っている状況)に直面していた。 (……きたな、闇の軍団め!) ひろくんがちっちゃな眉間に思いきりシワを寄せて睨みつけているのは、地面の割れ目からぞろぞろと這い出てきた、真っ黒なUMO軍団――人間たちの言う「アリ」の群れだ。 なぜ彼らが押し寄せてきたのか。それは、ひろくんがポケットに大切に隠し持っていた、きらきら光る禁断の大人のお菓子「キャンディ」の甘い匂いに引

  • 第一章 11 帰還 -妄想散歩-

    疾風のごとく団地を駆け抜けていった黒い影(お爺さん)のことも知らず、私はようやく我が家にたどり着いた。 心地よい疲労感の中でふとポストの横にある宅配ボックスに目をやると、ランプが灯っている。 「おや、何か届いていたかな」 カードキーをかざして扉を開け、中から荷物を取り出した瞬間、私の背中に冷たいものが走った。 (……なんだ、この包みは……?) それは、どこからどう見ても、ついさっき坂の上で郵便屋さんが小首を傾げていたのと同じ、何重もの特殊な防犯シールでガチガチに固められた「妙に厳重な梱包の箱」だった。差出人の欄には印字がなく、ただ謎のコードのような文字列が並んでいる。 一気

  • 第一章 10 最後の戦い -妄想散歩-

    郵便屋さんのカブを見事に直したヤンチャなお兄ちゃんを見送り、私は再び自宅を目指して歩き出した。その横を、エンジンが絶好調になった郵便屋さんのバイクが、小気味よい音を立てて再びツィーっと追い越していく。 その郵便屋さんが向かった先は、団地の一画にある、あの「ダチュラを育てるお爺さん」の家だった。 郵便屋さんが前庭の生垣の前にバイクを止めると、ついさっきまでメガスパのレジ前で、風呂敷包みを抱えてよぼよぼと歩いていたはずのお爺さんが、すでに自宅の庭で相変わらず熱心に土をいじっていた。 (あの老いた足で、どう考えてもそんなに早く帰って来れないはずなのに) 郵便屋さんは、笑顔で、荷台から

  • 第一章 09 雨の日の確かな絆-妄想散歩-

    メガスパを後にしてしばらく歩くと、いよいよ我が家のある団地へと続く、いつもの長い坂道が目の前に立ちはだかった。 「ふぅ……よし、もうひと踏ん張りだな」 首のタオルで汗を拭い、私は覚悟を決めて坂に足をかける。すでに1万歩近くを歩いてきた足には、この緩やかで長い傾斜が地味に堪える。ふくらはぎをパンパンに張らせながら、ヒーヒーと荒い息を吐いて一歩一歩登っていく。 その時、背後から軽快なエンジン音が近づいてきた。 ――ツィーーッ。 真っ赤なカブに乗った郵便屋さんが、私の横を軽やかに追い越していく。荷台にたくさんの街の便りを載せて、坂道など微塵も苦にしない様子でスイスイと登っていく後ろ

  • 第一章 08 そして、レジェンドの誕生 -妄想散歩-

    メガスパを出た私は、また、散歩の続きを楽しむ。 元来た道を背にあと少しだけ離れよう。 そして、普段通らない道を探検してみようと思った、その時、思いがけず背後から声がかかる。 きっと走って追いかけて来たんだろう、少し高揚気味に息が上がった感じで。。 「すみません、お客様! お待ちくださ〜ぃ」 息を切らせて走ってきたのは、さっきレジでパニックになっていた新人パートの女性だった。 トラブルの最中はうつむき加減でよく分からなかったが、正面から見ると目鼻立ちがスッキリとした、ハッとするほど美しい顔立ちをしている。 呼び止められた(と思った)私は、にわかに心拍数が上がり、やや緊張気味

  • 第一章07 渦巻く怒りと殺意-妄想散歩-

    渋滞中とはいえ、自動車の列の横を歩いて追い越して行くのは案外気持ちがいい。 バイパスは、公園からやや右回りに大きく弧を描くように曲がっている。 このままバイパス沿いに歩けば、やがて我が家のある団地の反対側の入り口まで繋がるのだが、、 このまま散歩が終わってしまうことが少しもったいない気がして来て、せっかくここまで来たのだからもう少し足を伸ばしてみようと思い立った。 まずは次の交差点を左に曲がる。その先にあるスーパーを目指す。食品売り場は24時間営業だ。 駐車場を歩いて通りすぎ、店内に入った。 朝の静かな店内と思いきやレジ周りが人だかりでなんだか騒々しい。 というよりは、、

  • 第一章06 騎士再来-妄想散歩-

    いつもならたくさんの親子連れやカップルで賑やかな公園だが、まだ早い時間ということもあって、バーベキューの準備をしている2件の家族が遠くに見えるだけだ。 ベンチに座って足元の疲労が落ち着いたので、私は立ち上がり、贅沢に誰もいない芝生の広場の中腹まで進んだ。 広々とした開放感に身を任せて、そのまま大の字になって寝転んだ。 じりじりと照りつける初夏の日差しが、直撃して目にささってまぶしい。少し目を閉じていると、心地よい疲れと眠気が一気におそってきて、私はいつの間にか深い意識の底へと落ちていった。 すぅ...すぅ...すぅ...。 “人間”がそんなふうに無防備極まりない姿で爆睡し始め

  • 第一章05 夜空に消えた『迷子の観測儀』-妄想散歩-

    田んぼの間の一本道は、最近開通した新しいバイパスに繋がる。 隣り街まで最短距離で行ける待望の道路だ。 開発計画は、30年前から始まって、その10年後に着工。20年の大工事でついに完成した道路だったのだけれども、自動車人口の多いこの街では人気がありすぎて、隣り街まで1番近くて1番時間がかかる道になってしまった。 私は右に曲がって一本道から今日も大渋滞のバイパスの歩道に乗り換える。そこで「はてっ?」と変な形の鉄属のかたまりを発見した。 大きさはソフトボールぐらいの大きさで丸く綺麗に整形された側と複雑に凸凹した面と一部ネジのような突起がある。 何かの部品のような。。。「!?」 「

  • 第一章04 溝の淵の決闘 〜僕がママを守るまで〜

    トンネルを抜けた先、まばゆい光に包まれた一本道を私は歩き続けている。 道の脇には細い農業用水の溝があり、さらさらと流れる水の出どころは、さっき猫たちが決闘を繰り広げていたあの池だ。 正面に目を向けると、ヨチヨチ歩きの幼い男の子が溝の脇を進んでいる。そのすぐ隣には、お母さんが溝への転落を心配そうに、だけど愛おしそうに見守っていた。 ふと、子供が足を止め、溝の中に何かを見つける。すかさず足元の小石を拾い上げると、水面に向かって投げつけ始めた。 勢いよく振り上げた大げさなフォームのわりに、小石はちっとも飛ばず、ぽとりと自分の足元に落ちる。 「可愛いなぁ」 私は微笑ましい親子に心の

  • 第一章03 メッセージ-妄想散歩-

    池の遊歩道から脇に逸れると団地の外になる。 なだらかな斜面に身を任せて大人げなくふらふらと駆け足をしながら向かう先は旧道の少し長いトンネルだ。と言っても100mぐらいだが、車一台がやっと通れる細いトンネルで、時折、回覧に「痴漢と幽霊にご注意」みたいな知らせが入っていたりする。 「幽霊は1人、2人と数えるのか、それとも1匹、2匹なのか……」 そんな他愛もない疑問を頭の片隅に浮かべながら、私はひんやりとしたトンネルに最初の一歩を踏み込んだ。中は思いのほか暗く、外のじっとりとした暑さが嘘のように涼しい風が通り抜けていく。 あたりを見回すと、見事なまでに誰もいない。車が通る気配すらない

  • 第一章02 決戦は池のほとり-妄想散歩-

    スマートウォッチの歩数はそろそろ3000歩。 古い路地を抜け、団地の端にあるお気に入りの池へと差し掛かった時のことだ。 「フシャアアアアーーーッ!!」 「ウニャアアアアーーーゴ!!」 静かな池のほとりに、およそ朝の散歩には似つかわしくない、激しい威嚇の声が響き渡った。 声の主は2匹の野良猫。1匹は鋭い目つきのキジトラ、もう1匹は耳の欠けた白黒のブチ猫だ。2匹は背中を丸めて毛を逆立て、今にも飛びかからんばかりに睨み合っている。 ふと彼らの間に目を落とすと、そこにはピチピチと跳ねる、1匹の小さな銀色の小魚。 「やれやれ、朝からエサの取り合いか。どっちも譲らないねぇ」 私はそ

  • 第一章01 凄腕スパイと天使のトランペット

    梅雨の晴れ間の爽やかな朝、私はいつものように柔軟剤の香りをまとって歩き出す。スマートウォッチをセットし、静かな団地を我が物顔で進み、あの古い路地へ。 4軒目の家の前で、オレンジ色の大きなラッパ状の花(キダチチョウセンアサガオ:通称エンゼルトランペット)に水をやる90歳の間近のお爺さん。 「おはようございます!」 私の元気な声に、お爺さんはいつものようにボソボソと「おはよう……」とだけ返す。しかし、私の足音が通り過ぎたその瞬間、お爺さんはさっきまで見せなかった鋭い眼光で、じっと初夏の青空を見上げた――。 その脳裏に去来していたのは、半世紀以上前、東欧の冷たい霧の中に消えた、ある「

  • 00 はじまり はじまり-妄想散歩-

    いつものように日が上り、窓から差し込む光に目をしかめながら起き上がる。 梅雨時の晴れ間。 今日は絶好の散歩日和だ🎵 いつもの黒いジャージを履いて、洗い立てのいい香りがするティーシャツで身を包み、柔軟剤モリモリのふわふわタオルを首にかける。 スニーカーを履いて玄関のドアを開けると強めの朝日に焼かれた暑い風が頬にあたる。 「もう夏だな。」なんてわかったように呟いていつもの朝の散歩が始まる。 まずは、スマートウォッチをセット。1日に何歩歩いたかを把握するのは、現代人のステータスだ。 玄関を出て、正面の道路を左に舵を取ると大通り。と言っても団地の中なのでほとんど人もいないし車も通

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