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  • 【第108話】根性

    倒れ伏したバーナードを見届けると、アマンは放り出したもう一本のだんびらを拾い上げようと身を屈めた。 その瞬間、首筋に違和感を感じてその場から大きく飛び退いた。 数舜前まで自分の立っていたその場所に、鋲打ちされたピンクのレザーベルトを全身に

  • 【第107話】魔剣対剣術

    「ガルルッッッ」 獣の唸る声が耳に届く。 バーナードが左手に持つ魔剣ヘルハウンドは、刀身が獰猛な猟犬に変化しアマンの右手のだんびらを強く咥え込んでいた。 とても抗えない強い力で体が引っ張られる。 その崩れた体勢にもう一本の魔剣が襲い掛かっ

  • 【第106話】魔剣ケルベロスと魔剣ヘルハウンド

    風に乗って屋敷から破壊音と悲鳴、オークどもが蹂躙する雄叫びが聞こえてきた。 「くそっ! 屋敷がヤベェ」「心配するだけ無駄だ。お前はここで朽ちるのだからな」 狼狽するアマンをバーナードが嘲笑する。 不安気にアユミがアマンのそばへ寄り添った

  • 【第105話】アマン奮戦

    「転身! 姫神ッ」 悲痛な叫びをあげたアユミの目の前を、突如巨大な飛行物体が横薙ぎに通り過ぎた。 それはアユミの目前で構えた盗賊ギルドの幹部三人、すなわちバーナードとラパーマ、そしてコモドを一斉に数メートルも後退させた。 回転しながらアユ

  • 【第104話】炎使い

    「ネダ、何してるの?」 夜中に部屋を抜け出し、屋敷の庭を横切っていくネダを不審に思い、アユミは彼女を追いかけてきたのだ。 庭の外壁まで来たネダがおもむろに、信号弾らしき光を打ち上げたのでアユミは声をかけた。 その声に振り向いたネダの顔は先

  • 【第103話】開戦を告げる剛腕

    街の灯が落ち、多くの人々が眠りにつく頃、にわかに風がうなり声を上げ始めた。 海に面した自由都市マラガに強風が容赦なく吹き付けてくる。 貧民街の粗末な建物は軋みを上げ、舞い散るゴミやほこりに街中が耐え忍んでいるようであった。 「なんともまあ

  • 【第102話】ヒガの想い

    「アマン様、ご主人様がお会いになられるそうです」 執事のブリアードがその連絡を携え部屋を訪れた時、アマンは食事を終え、ちょうど武具の手入れを済ませたところだった。 時計の針はとうに日付をまたいでいた。 実を言うと半ばあくびを噛み殺しながら

  • 【第101話】蜂のタトゥー

    黄昏時――。 大邸宅が並ぶ街路を三つの影が移動していた。 それぞれが頭まですっぽりと外套をかぶり顔を隠している。 三つのうち背が低いひとつはカエル族のアマンであり、あとの二つはアユミと奴隷商人から助け出されたネダであった。 三人はきれい

  • 【第100話】疑念

    「来た来た。性懲りもなくまた来たよ」 マラガの街へ入る街道を見下ろせる丘の上で、アユミはやって来る荷馬車の姿を発見した。 「アマン! 今日もいつもと同じ、木箱を積んだ馬車が来たよ」「ああ、そうみたいだな」「よし! じゃあヤッちゃおう」

  • 【第99話】百獣の蛮神ズァ

    閉会しかけた会議を延長してまで、海運業を牛耳る魚人族サハギンの大商人ゴンズイ・テーションは報告しておきたい事柄があるらしい。 「未確認情報なのですが、一応皆様のお耳に入れておこうかと思いましてね」 四人がゴンズイに注目する。 その視線に

  • 【第98話】五商星会議

    自由都市マラガの財政を担う五人の大商人が一堂に会していた。 窓からは街の外に広がる青い海を水平線まで眺望でき、この部屋が最も高い塔の上層に位置していることを教えてくれる。 壁にはこの街の歴史を動かしてきた偉大な先人たちの肖像画が多く掛けら

  • 【第97話】半額サービス

    振り向くとそこにアユミが立っていた。 真新しい革の鎧を着て、恥ずかしそうに顔を赤らめている。 「どお? 似合う?」「お、おう。そうだな」「変じゃない?」「変じゃない……と思うぜ」 正直に言えば、カエル族であるアマンに人間の美醜が判断でき

  • 【第96話】噂と真実

    「おやっさん、カザロの村がどうなったか……知ってるかい?」「やはり、その話か」 どうやらチチカカの耳にも届いているようだ。 アマンは無念そうに語りだした。 「やっぱりおやっさんももう知ってたか。あれから三ヶ月は経つからな」「まあな。旅人の

  • 【第95話】武器屋チチカカアームズ

    考えてみれば、ゲームをプレイしている場合を除いて、アユミは初めて踏み込んだ「武器屋」という場所に目を奪われるのも当然だろう。 そこらをほっつき歩く小娘が、ふらりと立ち寄って本物の武器を買える店など日本の何処の街にもありはしない、と思う。

  • 【第94話】赤と緑のアイスキャンディー

    「なあ、アユミ」「なに?」「あそこでアイスキャンディー売ってるぜ。買わないか?」 アユミが見ると路地に面した小さな売店だが、買い求める客でちょっとした行列ができていた。 漏れ聞こえてくる会話から人気なお店らしい。 「うん、たべたい!」「よ

  • 【第93話】雑踏の中で

    「ねえねえアマン? アマンったらァ」 雑踏の中、人混みをかき分けつつ前を行くカエル族の若者、自称勇者アマンの背中を追いかけて、後に続くアユミは何度もしつこく声をかけていた。 「なんだよアユミ」 アマンは振り返らずに前を向いたまま返事だけ

  • 【第92話】爆炎キック

    迫りくる精霊馬ケルピーに向かって、アマンは大きく口を開けると連続して火の玉を口から発射した。 二頭のケルピーは左右に動きながら火の玉を躱し、地面に着弾した火の玉は土砂をまき散らす小さな爆発を生じさせるに留まった。 先程までは単にくたびれた

  • 【第91話】ホムラガエル

    「ウアァァァァァァァァァ」 激しい炎に包まれたアマンの叫び声が響き渡る。 目の前の出来事に御者の男はうろたえるばかりだ。 炎を発する女も不気味だが、それで仲間を焼き尽くそうとするとはまるで理解ができない。 「な、なんなんだよ、テメーらは…

  • 【第90話】アサインメント

    二匹のオークが斧を振り回しながら接近してくる。 「きたよッ、アマンがんばってぇ」「お前なァ」 二匹のオークはそろってアマンに襲い掛かった。 繰り出される二つの手斧を?い潜りながら、アマンは腰に下げただんびらを抜き、素早い剣捌きでたちまち

  • 【第89話】奴隷解放戦士

    「そこまでだ! 荷物を置いてさっさと立ち去れ」「そうだ、立ち去れ!」 アマンのセリフをアユミも端的に繰り返す。 「うわぁっ! な、なんですか、あなたたちは」 驚いた御者が身をすくめて馬車を停止させた。 「と、盗賊ですか?」「ちがう! …

  • 【第88話】ゆでたまご

    マラガの街を見下ろす丘の上で、アユミはゆで卵の殻剥きに悪戦苦闘していた。 肩で切りそろえた赤い髪を風になびかせて、藤色のだぶついたセーターと、パツパツの黒いレギンスに、粉々になった卵の殻をこびりつかせてイライラしていた。 「あ~ん、もう!

  • 【第87話】盗賊都市マラガ

    自由都市マラガ。 エルフの里があるセンリブ森林から南西へ、およそ千キロほど離れた位置にある。 三方を海に面した半島にある城砦都市である。 もともとは小さな漁村でしかなかったが、西の辺境大陸への玄関口として各地から集まった商人により大きく栄

  • 【第86話】エルフはどこだ?

    エスメラルダの王都エンシェントリーフ、その中心にそびえる法王の宮殿がざわついていた。 その日、早朝から執務室にこもり、各地域の予算計上に関する書類に目を通していたライシカだったが、慌ただしく駆け込んできた若い侍従によってその作業は止められ

  • 【人物名鑑】深谷レイ

    オルグ火山の火口でトカゲ族のモロク王と魔女オーヤに拿捕された深谷レイは、日本では就活中の女子大生だった。母子家庭で育った彼女は気弱で引っ込み思案な性格で、自分に自信が持てないことを何よりもコンプレックスに感じていた。レイはある朝いつもと違う

  • 【人物名鑑】新沼シオリ

    新沼シオリは亜人世界に転移してきた日本の女子高校生である。物語開始時は二年生十七歳。日本にいたころの記憶をほとんどなくした状態でゴズ連山山中のカエル族の聖地〈白角の台地〉で目を覚ました。傍らには彼女専用の剣が安置されており、その場で居合わせ

  • 【第85話】取れないマスク

    エルフの女王ト=モを乗せたオートレントが停車したのは、エルフの里から西へ数キロ離れた地点だった。 そこで待ち構えていたひとりのエルフが女王の到着にうやうやしく頭を垂れる。 「ユ=メ! 報告せい」「ハッ。予定通り、我らエルフの民はマルーフ砦

  • 【第84話】喪失

    それからの日々はあっという間だった。 姫神として覚醒した私は、すぐさま王国の誇る〈翡翠ひすいの星騎士団〉に所属することになった。 記憶が曖昧なままの私は人々に必要とされ、感謝されることに充足感を得ていた。 エルフによる人さらいは度々発生し

  • 【第83話】御使い

    「あなたは、神の御使いかしら」 目を覚ましたのは、柔らかな陽光の降り注ぐ、大きなステンドグラスの前。 横たわる私を見つけ、優しく揺り起こしてくれたのが、ハナイ様だった。 白い清楚なローブをまとい、淡い茶色の長い髪をひとつに束ね、柔和な笑み

  • 【第82話】クリスタル

    マユミを固めたクリスタルが砕け散っていた。 ゆっくりと、うつむいた顔を上げたマユミの瞳が嫉妬の炎に燃えていた。 「その女ヒトは……私がもらったの……」「な、何を言って……ッ」 マユミがナナに飛び掛かった。 予備動作もなく、獲物に食いつく

  • 【第81話】ザ・シルバースター

    ナナは慌てて身構えた。 マユミの五条に分かれた鞭がそれぞれ別角度から襲いかかってくる。 一本一本がまるで意思を持った蛇に見えた。 上からくる二本の鞭はナナを頭から打ち据えようと空気を切裂いてくる。 下から迫る二本の鞭はナナの動作を封じ込

  • 【第80話】桃姫〈ナイトメア・サキュバス〉

    突如として部屋の壁が破壊され、もうもうと塵や埃が舞い、外の光がなだれ込んできた。 「貴様はッ」 スガーラが目にしたのは壁を破壊した大樹でできた巨人兵器エントと、その手のひらに立つエルフの女王ト=モの姿、そしてその横で揺れる檻だった。 マ

  • 【第79話】スガーラ潜入

    集落の外から激しい戦闘音が聞こえてくる。 エルフの大半が駆り出されたらしく、集落の中は静けさが漂っていた。 ひとり潜入に成功したスガーラは、ほどなくしてさらわれたハナイの侍従たちを発見した。 彼女らが閉じ込められた小屋の見張り番はさしたる

  • 【第78話】銀姫〈メタル・ウーズ〉

    「転身ッ! 鋼鉄神女メタルウーズッ」 頭上に剣で描いた真円からドロリ、と銀色に光る粘液が滴り落ち、たちまちナナの全身が埋もれた。 一層の光が放たれその眩さに全員が目を細める。 ゆっくりと光が集束すると、そこには変貌したナナが立っていた。

  • 【第77話】キャリオンクロウラー

    美しく煌めく精霊銀ミスリル製の鎧をまとったエルフの女王ト=モは、里を囲う高い壁の上で外界とつながる森の道を見ていた。 壁の高さは三十メートル。 幅は五百メートルある。 自然の木々と丸太を組んで建てられた堅固な壁だが、里の中心にそびえる大樹

  • 【第76話】オートレント部隊

    ナナがセンリブ森林に到着する頃にはとうに朝陽は昇っていた。 夜半にかけて全速で走りとおした馬も乗り手も疲労の色を隠せずにいる。 しかし休んでいる暇はなかった。 「全員下馬! 馬はこの場に繋ぎ止めろ。エルフの里まで進軍を開始する」 森の中

  • 【第75話】堕ちた聖女

    月と星が煌めく夜空の下で、王都エンシェントリーフから五百の騎馬が飛び出した。 銀姫ナナを先頭にした、彼女直属の近衛兵たちだ。 全身を甲冑で固めたナナ以外、みな軽装騎兵である。 支給されている武具は片刃で峰の反り返った曲刀シャムシールと弓矢

  • 【第74話】愉悦に浸るライシカ

    「なりませぬ」 エスメラルダ古王国を治める法王サトゥエの声が弱々しく広間に流れた。 オールドベリル大聖堂がエルフに襲撃され、ハナイ司教とお付の侍従が数人連れ去られた。 すぐに兵を率いて追いかけるべきだと、銀姫ナナは出陣を願い出た。 しかし

  • 【第73話】気高きサキュラの司教

    退出するマユミを見送ってから、エルフの女王ト=モはもうひとりの虜囚に視線を移す。 「さて、お待たせした。サキュラ正教第一支部、ハナイ・サリ司教」 後ろに控えるエルフの戦士に小突かれて、ハナイは女王の御前に立たされた。 「あなたがこの森を

  • 【第72話】気怠いエルフの女王

    エルフの集落は森の中にあった。 建物は多かったが、特徴的なのが大木の幹に沿うように樹上にも多くの家屋が作られている事だ。 地上の建物は石組でできた物もあったが、樹上はすべて木材家屋だ。 住人同士が行き来しやすいように木々の間を繋ぐように階

  • 【第71話】檻の中の女

    マユミの困惑を他所に、鞭は勝手に暴れだした。 大蛇のごとく蠢いてマユミの周囲の地面を打ちつける。 まるで鞭それ自体が自我を持って周囲を威嚇しているようだ。 美人たちは後ずさり、マユミの前方に道が開けた。 なんだかわからないがマユミはこの場

  • 【第70話】マユミの鞭

    瀬々良木《せせらぎ》マユミは目を覚ますと、見覚えのない森の中にいた。 マユミはとても小柄な女性で、ライトブラウンの髪をポニーテールにしている。 くるぶしまで届くグレーのワンピースの上に黒いライダースジャケットを羽織り、足元も黒のショート

  • 【第69話】メイドたち

    エンメの部屋を出たナナはメイドの後に続いて塔を下る。 塔内の壁という壁、柱や一部の床下にまで本棚が据えられていて、溢れんばかりの書物や巻物、木簡の類が詰め込まれていた。 見える範囲、紙と文字ばかりがひしめく様相に、改めてナナは圧倒されてい

  • 【第68話】銀姫の要請

    「この塔への訪問者は少ない。さてご用件は何かな?」 ナナは単刀直入に切り出した。 「あなたはこの世界の事象を全てリアルタイムで観察できる千里眼の持ち主だと伺いました。その力を我らエスメラルダにお貸しいただきたい」「私に銀姫に与くみせよと申

  • 【第67話】偉大なる年代史家エンメ

    石壁に覆われた室内はひんやりとして心地よかった。 塔の最上階に位置するこの部屋はとても狭く、木製の文机と、椅子がひとつある以外は家具と呼べる物が見当たらなかった。 空が夕闇に染まるまでまだ時間はあるはずだが、窓ひとつないこの部屋からはそれ

  • 【第66話】シオリ、その奇跡と引き換えに

    私、新沼シオリと片岡リノは幼稚園からの幼馴染でした。 私は彼女の事をリノと呼び、彼女は私の名前、シオリをもじって「オシリ」と呼んでいた。 あ、「シ」にアクセントを付けてよね! 「エジプト神話の神様みたいだよ」 リノは私にそう言いました

  • 【第65話】朝露に濡れた草の上で

    黒い夜空にシオリ達の姿が見えなくなっても、レイはただただ虚空を見上げて立ちすくむばかりだった。 いつの間にか、レイは闇のドレスから就活生のスーツ姿へと戻っていた。 オーヤは何も言わず、レイの背後に立っている。 その眼には歓喜と、憐憫と、

  • 【第64話】トカゲ族とカエル族

    「なあおい、見たかさっきの? すっごかったなあ」 アマンは波打つ小さなボートの上で立ち上がり、山向こうに目を凝らしながら同乗者の少女に向かって話しかけた。 まさに興奮冷めやらず、といった風で、漕いでいた櫂を放り出していた。 少女は慌てて波

  • 【第63話】必殺! 稲妻光線

    ウシツノは果敢にモロク王へと斬りかかった。 相手の背丈はウシツノの倍以上ある。 カエル族特有の膝を活かした跳躍力で肩口めがけ、渾身の袈裟斬りを浴びせてやった。 「なにッ」 驚いたことにモロク王は防御もせず、左肩にその一撃を受けながらも同

  • 【第62話】並び立つ二傑

    シオリたちは蘇ったトカゲ族とカエル族の死人ゾンビーたちによって、十重二十重と完全に包囲されていた。 シオリだけでなく、ウシツノやアカメにとっても大量のゾンビーに囲まれる、などという想像するだに不気味なことこの上もない状況は、当然ながら初め

  • 【第61話】死者の軍団

    「ここにいる……」 レイは起き上がると黒の剣を力いっぱい地面に叩き付けた。 土砂が巻き上がり、続けて地面が全方位に向けてうねりを上げた。 まるで波打つような地面の揺れに立っているのがやっとだ。 だが真の驚きはその後だった。 ぼこっ、ぼこ

  • 【第60話】白姫vs黒姫

    「さあ、ようやく始まるのよ! 姫神による生き残りを賭けた、大戦争が」 興奮を抑えられずオーヤが高笑いする。 その瞳は恐ろしげな金色に輝いている。 シオリとレイ、二人の剣がぶつかった。 白い光と、黒い闇の波動が、辺り一面に吹き荒れる。 お

  • 【第59話】シャイニングフォース

    初めて見た村の風景は瓦礫と死体の山だった。 この世界に住む人々の営みがあった村の風景にシオリは強いショックを受けた。 数日間を山で過ごし、それはまた逃避行でもあった。 ウシツノとアカメは無残なこの村のことを思いつつ、あの辛い夜を過ごしてい

  • 【第58話】アンデッド

    「レイ殿ッ」「レイさん」 膝を着き呆然とするレイの元へウシツノとアカメが駆け寄った。 レイは恐ろしいものを見るように肩を抱いて震えている。 「わたし、あれが、わたしなの……?」「覚えているのですか?」「記憶があるのか?」 二人が同時に同

  • 【第57話】デスブリンガー

    傷ひとつないモロク王の亡骸を前に、ウシツノは混乱していた。 姫神として覚醒したレイに、あの苛烈なモロク王が何もできずに殺されてしまった。 あっさりと、胸に手を添えられただけで……。 ウシツノの理解が追い付かなかった。 父親の、そしてこの村

  • 【第56話】黒姫〈ディープ・リッチ〉

    黒い渦は少しずつ、小さく小さく収まっていった。 少し距離を置いたモロク王とオーヤの目の前で、だんだんとそれは収まっていく。 やがて渦が完全に収まった時、そこに変貌したレイが立っていた。 天幕は吹き飛び、月夜の下にポツンとレイは立っていた。

  • 【第55話】絶叫

    村のはずれに大きなクレーターが出来ていた。 周囲は未だ焦げ臭く、所々に土がガラス状になっているのを見るにかなりの高温で燻されたのだとわかる。 盛り上がった縁に立ち、タイランはこの惨状を観察していた。 ウシツノとアカメとは別行動で潜入した

  • 【第54話】慟哭、そして

    ありあわせの材木で作られた簡易的な磔台に、レイは四肢を広げた格好で拘束されていた。 囚われの身で、さらにこのように拘束をされていると、不安と恐怖が何倍にも増幅される。 さらに目の前で繰り広げられる惨劇が恐怖心を何倍にも膨れ上がらせた。 猿

  • 【第53話】天幕の中へ

    ウシツノとアカメは村へ忍び込むなり顔をしかめた。 村全体に腐臭が漂っているのだ。 夜陰に乗じて木陰から茂みへと跳ぶように移動する。 村では至る所にかがり火が焚かれており、その周囲をトカゲ族の兵隊が徘徊していた。 光の届く範囲を外すように移

  • 【第52話】オレンジ色の稜線

    レイが魔女とトカゲ族どもにさらわれて、すでに一日半が経過していた。 さらわれたのは昨日の早朝であった。 とにかく急いでカザロへと向かったわけだが、魔女のように一瞬で行き来ができるわけもなく、この一日半という時の流れが致命傷にならないことを

  • 【第51話】インバブラの賭け

    へへ、とへつら笑いするインバブラをモロク王はジッと見下ろした。 「き、貴様ッ。王に対して無礼な言葉使いはヤメよッ」 ボイドモリがインバブラの首根っこを掴んで床に叩きつける。 それでもインバブラは下からモロク王をねめつけるのを止めなかった

  • 【第50話】恐怖

    崩れた家屋は破壊の跡を生々しく残していた。 荒らされた田畑には腐臭が混じる。 積まれた藁束や刈り入れられた農作物の代わりにおびただしい数のカエル族の死体が積まれていた。 見るに堪えない光景はすべてそのままに、トカゲ族の軍隊は依然カザロの村

  • 【第49話】覚悟

    空中に舞い上がったオーヤが身をひるがえした。 「ま、待ってください! まだ聞きたいことはたくさん……」「基礎知識は教えてあげたわ、カエルの賢者さん。黒姫はいただいたし、もう行くわ」「待て! 逃がすと思うかッ」 ウシツノが刀を持って跳び上

  • 【第48話】姫神とは

    魔女の告白は耳を疑うものであった。 とりわけシオリに至っては耳を覆いたくなるようなものだ。 しかし魔女は無情にももう一度、同じことを繰り返した。 「私はかつての黒姫。姫神としてこの地にやって来たのよ。あなたと同じに」 魔女はシオリに向か

  • 【第47話】オーヤの正体

    タイランの身体が地面から浮き上がる。 オーヤの金色に輝く蛇のような髪が縛めたタイランの身体を持ち上げたのだ。 脱出を試みようと藻掻くタイランを魔女はうるさそうに地面へ強く打ち付けた。 「ぐ……むぅ」「あははは! どう、騎士さま? 女の髪に

  • 【第46話】魔女と鳥騎士

    突如現れた黒衣金髪金眼の魔女を前にして、タイランは慎重になった。 恐ろしい相手だという事はウシツノとアカメから聞いている。 まさしく得体の知れない不気味さが感じられた。 「オーヤ! なぜお前がここにいるんだッ」「あらあら、ピンチを救ってあ

  • 【第45話】しゃべらなくていい

    ボイドモリの逸はやる気持ちを嘲笑あざわらうように、一番の近道とされるルートはそれは険しいものだった。 かなりの頻度で高低差のある岩の道を上り下りし、周囲の木々は無数のツタをからませ、視界もすこぶる悪い。 手空きの部下にしんがりを任せ警戒し

  • 【第44話】飛べ! タイラン

    「急げェ! 一刻も早くモロク王の元へ帰参するのだァ」 満身創痍のボイドモリだったが、黒姫の奪還という命令を果たせた喜びからか、怪我の痛みも忘れて陣頭指揮を執っていた。 残った部下は三人だが、ひとりはインバブラに剣を突き付け行動を監視してい

  • 【第43話】ナキ

    泥だらけの道をひた走るタイランとウシツノの前方にうずくまる影が二つあった。 先を走るウシツノはすぐに二人に気が付いた。 「アカメッ! シオリ殿ォ」 その声にハッとした二人が起き上がり向こうからも駆け寄ってきた。 どうやら負傷していたので

  • 【第42話】賭け

    インバブラに導かれるまま、レイは黙々と後について歩いた。 目の前を行くこのカエルも危険を避けようとしていたから、きっと大丈夫だろうと考えていた。 不安を必死に押し殺して、自分に言い聞かせることでどうにか安心を得られないか。 うつむき加減で

  • 【第41話】インバブラとレイ

    「はあ、はあ、こっちですッ」 アカメはシオリとレイを引き連れてひた走っていた。 とにかく戦場から離れることを考えていたが、目的地については思い悩んでいた。 ついさっきまでウシツノと揉めていた目的地。 その考えがまとまらない。 このまま水仙

  • 【第40話】騎士の誇り

    月明りが爆発で切り開かれた森の一角を照らす。 獣ですら息をひそめる殺気が漂う森の中で、ほぼ同時に二つの剣戟が響き渡った。 ウシツノの気迫の連撃がナキを防戦一方にまで追い詰める。 少しでもナキをこの場から引き剥がそうと懸命に攻撃を繰り出した

  • 【第39話】裏切りのタイラン

    白鳥の騎士ナキと、黒鴉の騎士コクマルが武器を構えた。 ウシツノも愛刀の自来也を両手で握り警戒する。 背中越しに息をのむアカメとシオリ、レイの気配が伝わってくる。 護るべきものが多いことをウシツノは懸念した。 「ヘッ! なんだぁ、緊張してん

  • 【第38話】新たなるクァックジャード

    「正気かアカメよ! わざわざあの魔女に、こちらから会いに行くと言うのか?」 信じられない、どうかしている、あの魔女は危険だとわかりきっているのに、とウシツノはアカメを理解できぬと罵った。 何より魔女の狙いはシオリだ。 直接彼女を危険に晒す

  • 【第37話】アカメの提案

    ただちに野営地へと戻ってはみたものの、ヌマーカの姿は見当たらなかった。 その代わり、周辺には凄惨と形容すべく激しい戦闘の痕跡が見て取れた。 散乱した武具とおびただしい数のトカゲ族の死体、そして発動した形跡が残る数々のトラップが目に付いた。

  • 【第36話】白姫〈ブラン・ラ・ピュセル〉

    ウシツノは光に畏怖していた。 絶望に近い感情に押しつぶされながら、ひときわ大きな食人花マンイーターを睨みつけていたウシツノの目の前で、天高くそびえる光の柱が出現した。 それは天上と地上を繋ぐ白い光であり、一瞬にして消えた。 「今の光の柱は

  • 【第35話】シオリ、転身

    辺り一帯を埋め尽くす、無数の蠢くツタが容赦なく一行に襲い掛かった。 慌ててレイを降ろすとウシツノも刀を抜いて応戦した。 ツタを何本も斬り払うウシツノであったが、刀の斬撃をすり抜けたツタは背後に横たわるレイを目がけて直進した。 「このッ」

  • 【第34話】マンイーターの花畑

    恐怖に目を見開いたまま、シオリはジッと一点を見つめたままだった。 巨大な蠢く不気味な花にレイが丸飲みにされてからどれくらい経ったであろうか。 全身を這うように縛めるツタのことも忘れてシオリは呆然としていた。 やがて目の前の花が次なる獲物を

  • 【第33話】うごめくツタ

    インバブラの悲鳴で全員が跳ね起きた後、シオリとレイは野営地に留まり、皆が戻ってくるのをじっと待っていた。 それはそんなに長い時間ではなく、せいぜい五分も経っていなかったはずだ。 しかし二人にはそれがとてつもなく長い時間に感じられた。 明か

  • 【第32話】最期の望み

    ウシツノたちが野営地に戻るも、シオリとレイの姿は見当たらなかった。 「くそ、トカゲどもに伏兵がいたなんて!」「いや、あのトカゲの頭かしら、それほど頭が回るようには見えなかったが」 ウシツノの悔恨にタイロンが異議を唱える。 「タイランさん

  • 【第31話】ボイドモリが来る

    夕食を終え、皆あっという間に眠りに落ちてしまった。 タイラン、ヌマーカ、ウシツノ、アカメは交代で見張りをすることにした。 シオリとレイ、インバブラはあまりの疲労でぐっすりと眠っている。 時刻は真夜中。 その時間、寝ずに番をしていたウシツノ

  • 【第30話】一触即発

    昼に小一時間ほどの休憩をはさみ、一行は強行軍を続行した。 霧雨とぬかるんだ地面、そしてけたたましいセミの鳴き声に、一行は大幅に体力を奪われることになってしまった。 あまり距離を稼ぐこともできないまま、やがて日は沈み、うっそうとした木々と淀

  • 【第29話】出発

    「洞窟の中には誰もおりません! もぬけの殻です」 アメの洞窟の外で待機していたボイドモリに、部下からの報告が届く。 「一足遅かったか」 苦虫をかみつぶした顔で、ボイドモリは手に持つ小石を握りつぶした。 「中には備蓄庫と思しき部屋があり、

  • 【第28話】水仙郷へ

    シオリとレイが外に出た時、不審者はすでにヌマーカとウシツノに取り押さえられていた。 「いててててて! 離せっての!!」「おや、あなたはインバブラさんではないですか?」「なんだと?」「む、まさしく。インバブラじゃな。キサマ生きておったんか」

  • 【第27話】白姫と黒姫

    シオリのセーラー服と、レイのスーツはきれいに畳んで置かれていた。 寝ている間に様子を見に、誰かがこの部屋に入ったのだろう。 シオリは少し恥ずかしかったが、心遣いはうれしかった。 水と手ぬぐいで体を拭いてから身支度を整える。 少し薄汚れたセ

  • 【第26話】おはよう

    目が覚めた。 レイは何かが体にまとわりついている感触に、一瞬声を上げそうになった。 温かい、優しさに包まれたぬくもりを感じる。 首筋にあたるその人の寝息がくすぐったい。 見ると自分よりも年若い女の子が、隣で静かな寝息をたてていた。 ど

  • 【第25話】黒猫に誘われて

    「お母さん、いってきまーす」 朝七時、深谷レイはそう言って家を出た。 すごく晴れた天気のいい朝だった。 先週新調したばかりのリクルートスーツ一式に、これも買ったばかりの黒のパンプス。 これから本格化する就職活動に備え、気持ちを引き締めるべ

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『亜人世界をつくろう!』小説本編と設定集

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