現役の高校国語科教員が読んだ、ノンフィクション(主に事件事故関連)やホラー、ミステリー小説についての感想文を書いています。
「なぜ彼は狂ったのか?――『悪い夏』に潜む“日常と転落”の視点差」
――『悪い夏』に潜む“日常と転落”の視点差「どうして、ここまで墜ちてしまったのか」――。 読後、私は長くページを閉じることができなかった。染井為人の小説『悪い夏』(中央公論新社)は、単なる犯罪サスペンスではない。これは、“どこにでもある日常”が、“
『私はアウシュヴィッツと5つの収容所を生きのびナチス・ハンターとなった』ただの被害者では終わらなかった──“反撃”を選んだホロコースト生還者
『私はアウシュヴィッツと5つの収容所を生きのびナチス・ハンターとなった』は、ヨセフ・レフコヴィッチによる壮絶な回顧録であり、ホロコーストの生存者としての経験と、その後の人生を描いた作品だ。本書は、彼が16歳でナチスの強制収容所に送られ、アウシュヴィッツを含
もしも国語科教員が『もしも徳川家康が総理大臣になったら』を読んだら
歴史上の偉人である徳川家康が、もし現代の総理大臣として現代語で語り出したら――この大胆な設定が『もしも徳川家康が総理大臣になったら』の最大の魅力だ。国語科教員として読んだとき、私は特に「言葉の持つ力」や「時代による言葉の変化」に注目せざるを得なかった。
授業では扱えない“国家と事故”の深層――『日航123便 隠された遺体』を読む
『日航123便墜落事件 隠された遺体』は、日本航空123便墜落事故に関する新たな視点を提示する一冊である。本書は、事故の公式報告では明らかにされていない遺体の発見状況や、救助活動の実態に焦点を当て、事故の背景にある疑念を掘り下げている。著者は、関係者の証言や資料
高木瑞穂の『殺人の追憶』は、日本で実際に発生した5つの殺人事件を追い、犯人の供述や心理を通じて事件の背景を浮き彫りにするノンフィクション作品だ。本書は、川崎老人ホーム連続転落死事件、鳥取連続不審死事件、静岡2女性殺害事件、秋田9歳女児虐待殺害事件、千葉老老介
【書評】『近親殺人―家族が家族を殺すとき』を読む:家庭内で起きる“殺意”の正体
石井光太『近親殺人―家族が家族を殺すとき』は、読後に深いため息をつかずにはいられない一冊だ。タイトルの通り、本書が扱うのは「家族が家族を殺す」という、あまりにも重く、しかし現実に頻発している事件群である。著者は、介護、貧困、精神疾患、引きこもり、虐待と
『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』は、2013年に山口県の小さな村で起きた**山口連続放火殺人事件**を追ったノンフィクション作品である。著者の高橋ユキは、事件の詳細だけでなく、その背景にある村社会の構造、噂の力、孤立の問題を丹念に掘り下げている。
「高校国語教員の読書感想」笑うマトリョーシカ――政治スキャンダル小説の恐怖を読み解く
早見和真の『笑うマトリョーシカ』は、政治の世界を舞台にしたミステリーであり、権力の裏側に潜む人間の欲望と操られる者の悲劇を描いた作品だ。物語は、四国・松山の名門高校で出会った二人の青年、清家一郎と鈴木俊哉の友情と裏切りを軸に展開する。清家は27歳で代議士と
『かわいそ笑』は、インターネット怪談を題材にしたホラーモキュメンタリー作品であり、読者を物語の当事者へと引き込む独特の構造を持つ。梨の作品は、単なる怪談の羅列ではなく、読者自身が「加害者」として物語に関与してしまうという仕掛けが施されている。この点が、単
「母性という文化的呪縛とその破綻──事件ルポ『母という呪縛 娘という牢獄』を読む」
母という呪縛 娘という牢獄日本の刑法では、殺人罪における尊属殺人というものが存在する。加害者と被害者の関係において、直系尊属を対象にした殺人は刑期が重くなるのである。しかし、この原則は本書で描かれた事件には当てはまることはなかった。 ~以
リチャード・シェパード『不自然な死因』は、30年以上にわたり数万件の検死を担当してきたイギリスの法病理学者による回想録だ。死を見つめ続けた男が語るのは、事件の記録ではなく、死を通して見えてくる「生」の輪郭そのものである。 著者は、9.11同時多発テ
「私たちは京アニ事件から何を学べるのか――『ルポ 京アニ放火殺人事件』」
『ルポ 京アニ放火殺人事件』は、2019年に発生した京都アニメーション放火殺人事件の背景を丹念に追い、加害者の生い立ちや社会的要因を掘り下げた一冊である。本書は、単なる事件の記録ではなく、加害者がどのような人生を歩み、どのような社会的環境の中で犯罪に至ったのか
『正義の行方』は、飯塚事件を通じて日本の司法制度の課題を浮き彫りにするノンフィクション作品である。1992年に福岡県飯塚市で発生した幼女誘拐殺害事件では、久間三千年が逮捕され、DNA鑑定を決め手に有罪判決が下された。しかし、この鑑定には当時の技術的な限界があり
『海の上の建築革命 近代の相克が生んだ超技師の未来都市〈軍艦島〉』
『海の上の建築革命 近代の相克が生んだ超技師の未来都市〈軍艦島〉』は、近代建築史と都市計画の視点から軍艦島(端島)の歴史とその意義を掘り下げた一冊である。本書は、単なる廃墟や観光地としての軍艦島ではなく、近代日本の産業と都市の交差点としての軍艦島を描き出
「科学は嘘をつくのか?『Science Fictions』が突きつける真実」
『Science Fictions あなたが知らない科学の真実』は、科学の世界に潜む不正やバイアス、誇張の問題を鋭く暴き出した一冊である。本書は、科学が持つ「真実を追求する」という理想とは裏腹に、実際には多くの研究が再現性を欠き、誤った情報が広まっている現状を明らかにす
国語教員の読書感想:『死刑にいたる病』が描く、狂気と倫理の境界線
『死刑にいたる病』は、読者の心理を巧みに揺さぶるサスペンス小説であり、シリアルキラーとその影響を受ける若者の関係を描いた作品だ。本書は、単なる犯罪小説ではなく、人間の心理の脆弱さや、他者との関係性がいかに個人の思考を支配し得るかを鋭く問いかける。
無罪を確信しながら死刑判決を書く――『袴田事件を裁いた男』が残す戦慄
尾形誠規『袴田事件を裁いた男――無罪を確信しながら死刑判決文を書いた元エリート裁判官・熊本典道の転落』は、日本の司法制度に深く切り込む、重くも静かな衝撃を与えるノンフィクションだ。1966年に静岡県で起きた一家4人殺害・放火事件、いわゆる「袴田事件」。その第
「ブログリーダー」を活用して、読書おじさんさんをフォローしませんか?