38 スクリーンの下には、いくつものストレッチャーが並んでいた。ストレッチャーには全裸の人体が一体ずつ仰向けに横たわっている。彼らの頭部には一様に金属片が突き刺さっていた。一種の電極のように見えた。埋め込まれた電極から伸びるワイヤーとチュー・・・
創作小説の発信サイトです。近未来SF・社会派フィクションを中心に、心の琴線に触れる物語世界をお届けします。
近未来社会を舞台にした「サイレント・レジスタンス」が好評連載中。音が規制された監視社会で抵抗の道を探る物語です。元々は児童文学中心でしたが、現在は大人向け社会派フィクションへと移行しています。SF・社会批評に関心ある方におすすめ。週1回の更新を心がけています。
38 スクリーンの下には、いくつものストレッチャーが並んでいた。ストレッチャーには全裸の人体が一体ずつ仰向けに横たわっている。彼らの頭部には一様に金属片が突き刺さっていた。一種の電極のように見えた。埋め込まれた電極から伸びるワイヤーとチュー・・・
37 立山は唐突に姿を消してしまった。僕は小さな舌打ちをしたが、すぐに気を取り直した。平石にも動揺は見えなかった。〈出口が近い。あいつのことはもう忘れよう〉そう手話で平石に伝え、僕たちは脱出を急いだ。階段を探し回り、いくつかのドアのノブを回・・・
36 僕と平石は、立山と共に、ディスプレイだらけの部屋から出た。生真面目な人間が、B級ホラー映画の試写室にいたようなものだ。胸糞悪いものを見た怒りが治まらなかった。部屋を出ると、通路に銃を抱えた二人の自衛隊員が立っていた。彼らの顔色はこれま・・・
35 恐怖の面接室立山が案内してくれた場所は、壁一面にモニターディスプレイが張り巡らされたオフィスだった。ディスプレイには大勢のエンジニアらしき男たちが、パソコン作業をしている様子が映っていた。彼らはゾンビではなく、皆生身の人間のように見え・・・
34 僕と平石は、立山の後ろを静かについて歩いていた。立山はひたすら話し続けていた。この男は昔からこうなのだ。相手が聞いていようが、いまいが、お構いなしだ。僕たちは無表情で聞き流していた。通路を歩いていると、立山は突然立ち止まり、小声で言っ・・・
33 研修会場の喧騒を背に、空のシャンパングラスをウェイターに返すと、立山は一つの開かれたドアへと進んだ。僕と平石は、彼の後についていった。会場を抜け、三人は薄暗い通路を進んだ。それにしても、この迷宮のような通路は、どこへと続いているのだろ・・・
32 通路を進むと、人々のざわめきが耳に届いた。アナウンスではない、生の声だ。〈また何か音がしてるな〉僕は耳を澄ませ、平石に注意を促した。ドアの向こうは明るく、高い天井が印象的な、広々としたホールが広がっていた。そこでは華やかなパーティが催・・・
31 気がつくと、僕と平石はビルのエレベーターの中にいた。二人は3D銃をそれぞれのポケットに仕舞った。〈階上に行く? 地下に行く?〉僕は平石に訊ねた。〈地下には駐車場があるかもしれない。脱出するなら地下だけど、俺はドローンの行方を確かめたい・・・
30 突然、ビルが爆音と閃光で揺れた。 集会所は爆発で破壊され、音に反応できないろう者たちは、ひとたまりもなく吹き飛ばされた。 僕も爆風を受け、背後の壁に激しく打ち付けられた。 河口凛々子も空中に投げ出されたようだ。床 …
29 集会の真ん中では、船橋の声が響いていた。 朗々とした声で話しながら手話も交えていた。すっかり忘れていたが、船橋は健聴者だった。 〈せっかく集まってもらったのに申し訳ないが、明るい話題はない。まずは頭数の問題だ。この …
28 気がつくとテーブルの横には、一人の男が立っていた。 マシンガンタイプの武器を片手に持ちながら、こちらへやってきた。 その男に僕らは見覚えがあった。彼は手話で話してきた。 〈ドローンを撃墜したんだってな?〉 加田崎 …
27 廃ビルの中は薄暗かった。 天井に小さな照明が灯っていたが、手話がかろうじて読み取れる程度の明るさだった。 僕たちは恐る恐る奥へと進んでいった。 すると、フロアに人だかりが見えてきた。 通路の先には20平方メートル …
26 朝になると僕はマスクを着け、ホテルの外で食べ物を買って戻ってきた。 朝早いというのに、ホテルのロビーには昨日の昼間と同じように人で埋まっていた。 やはり彼らはこの辺りの住民たちで、住居が破壊され、帰る場所がないの …
25 10分後、僕と平石はトイガンを隠し、裏通りを並んで歩いていた。 通りには違法駐車の列ができていた。市民狩りから逃れてきたのだろうか。 居住区を追い出された人たちがここに流れてきているのかもしれない。 丹念に探せば …
24 どこをどう歩いたのか定かではないが、その朝は街外れの歩行者用道路のトンネルの中で目覚めた。 体が鉛のように重く、手足が冷え切っていた。 外が白んでくると、トンネルを出て街中を歩いた。行き先は決めていた。平石のとこ …
23 それから30分ほど大きな道路を走ると、車はビル街を抜け、郊外の住宅地へとやってきた。 細い道に入り、しばらく山道を登った後、山の斜面に立ち並んだマンション群の前でSUVが止まった。 彼女が住んでいたのは、10階建 …
22 市役所から少し離れた社会福祉センターの駐車場で、僕は身を潜めていた。 夜の冷たい空気が辺りを包み込んでいる。 センターの出入口付近で、三人の女性が立ち話をしていた。やがて二人が建物の中へ戻り、一人だけが外へと歩き …
21 市役所の門を抜けると、僕はすぐさま裏通りへと足を向けた。 幸い、この路地にはまだパトカーの姿は見えなかった。 警戒しながら市役所から離れていく途中、ふと空を見上げた時だった。小型ドローンが静かに浮遊しているのが目 …
20 息が切れて、僕は立ち止まった。 右手にはまだプラスチック製の銃を握っている。 慌ててそれをリュックサックにしまい込んだ。 胸騒ぎは収まらなかったが、これ以上走り続けることはできない。 リュックを背負い直し、何事もな …
19 長い間、身体の震えが止まらなかった。 逃げ続けた末に辿り着いたのは、小さな公園だった。 時刻は14時10分を少し過ぎたところ。 晴れているのに、この公園には僕以外誰もいない。 滑り台とブランコ、そしてトかイレだけが …
18 介護施設は肩の高さのコンクリート塀に囲まれていて、門から入ると駐車場スペースがあり、その奥に建物が建っている。 門の中に2台の救急車が玄関に停まっていた。2台とも回転灯が点灯していた。 夜勤明けのスタッフから、ここ …
Follow @hayarin225240 17 昨夜は雨が降らなかった——それだけが幸いだった。 壊れた寮舎の瓦礫をかき分けながら、僕は昨日拾ったパソコンの充電コードを探していた。 コンクリートの破片や歪んだ鉄骨が足元 …
Follow @hayarin225240 16 僕たちは、アイドラゴンの番組にあの二人が映っていた理由について議論を重ねた。 五人全員が確認していたのだから、見間違いではない。しかし、なぜ二人があの場所にいたのかは、依 …
Follow @hayarin225240 15 警官と自衛隊、解体業者による地区の鎮圧は、日が暮れるまで続いた。 僕は集落の瓦礫の中を歩き回っていると、平石の姿を見つけた。彼もまた施設を抜け出していたのだ。平石は変わり …
Follow @hayarin225240 14 食事スペースでは、午後のレクリエーションの準備が始まっていた。 僕が現れると、そこにいたスタッフたちの表情がぱっと明るくなった。外の騒ぎに怯えていたのだろう。僕の無事な姿 …
Follow @hayarin225240 13 空に再び現れたドローンは、今度は5機だった。 その低い機械音に続いて、サイレンが響いた。3台のパトカーがパトランプを点灯させながら、猛スピードで公民館に向かって駆けつけて …
Follow @hayarin225240 12 包囲 午後の業務が始まる時間になっても、僕はまだ屋上にいた。船橋たちのワゴン車が公民館に戻ってきたからだ。 車内にあった段ボール箱はもうなくなっていた。どこかに捨てたか、 …
Follow @hayarin225240 11 翌日は日勤だった。 昼食を済ませた僕は、いつものように屋上へ足を向けた。フェンスに身を預け、眼下に広がる住宅街を見下ろす。昨夜の出来事が頭から離れない。施設裏の公民館が、 …
Follow @hayarin225240 10 フリースペースに戻ると、先ほどの騒ぎが嘘のように和やかな雰囲気が広がっていた。 女子たちは皆、にこやかに寛ぎながら、手話で世間話をしていた。 ドローンが至近距離で飛んでき …
Follow @hayarin225240 9 通路に出た瞬間、背後のドアが閉まりかけるより早く、誰かに腕を掴まれた。 見知らぬ若者だった。僕と同じくらいの背丈で、目は鋭く、動きは早かった。 彼は焦るように手話を使って尋 …
Follow @hayarin225240 8 公民館のドアは、あっけないほど簡単に開いた。 薄闇の中に足を踏み入れると、最初の部屋は死んだように静まりかえっていた。船橋の姿はどこにもない。 図書室らしき部屋だった。壁に …
Follow @hayarin225240 7 翌朝、窓から差し込む陽光が僕の頬を撫でた。久しぶりに気持ちの良い朝だった。 寮の食堂で簡素な朝食を済ませると、体を動かしたくなって近所の公園へ足を向けた。 緑陰の小径をゆっ …
Follow @hayarin225240 6 混線する夜 職員寮の住民たちは夜になると、テレビの置かれたフリースペースでくつろぐのが日課だった。 この寮のテレビは少し変わっている。モニターは普通の大型液晶ディスプレイだ …
Follow @hayarin225240 5 急いで決めた転職だったが、新しい職場の就業環境は思っていたよりもきちんとしていることがわかってきた。 高層ビルに囲まれた静かな公園エリアに、その介護施設はひっそりと佇んでい …
Follow @hayarin225240 4 僕は新しい職場、介護施設で働き始めた。 プログラマーの夢を半ば諦め、住んでいたアパートを引き払い、この施設の職員寮へと引っ越してきたのだ。 ここは家賃が周辺相場の半額以下で …
Follow @hayarin225240 3 施設の中は夕食の真っ最中だった。 大きなテーブルを囲むお年寄りたち。懐かしい光景だけれど、僕はこの日常に飽き飽きして辞めてしまった人間だった。 空の食器を抱えたジャージ姿の …
Follow @hayarin225240 2 ハローワークを出ると、僕はビル街をぶらぶらと歩き始めた。 近くには、すぐに面接してくれる老人ホームがあるらしい。一時間後に担当者と会う予定だった。 空はどんよりと曇っている …
Follow @hayarin225240 1 灰色のコンクリート壁が道の両側に伸び、無秩序な落書きがその表面を覆っていた。 壁に挟まれた細い道の先で、大きなトンネルが口を開けている。一台の大型トレーラーがエンジンを唸ら …
Follow @hayarin225240 あらすじ 耳の不自由な青年が描く、異星からの侵略に立ち向かう静かな戦い。 プログラマーになる夢を胸に、熊本から福岡へ移り住んだ聴覚障がいを持つ主人公。しかし現実は厳しく、ハロー …
Follow @hayarin225240 13 嵐からちょうど一年が経ち、アラアラ国には平和が戻っていました。 港には、サレド国から来た一隻の大きな客船が停まっていました。 その船は、タント・ピエールが故郷に帰るために …
Follow @hayarin225240 12 タント・ピエールは、アラアラ島に取り残されてしまいました。 空はどんよりと曇り、風12が強く吹き始めていた。嵐が近づいているのを肌で感じます。 海は荒れ始め、大きな波が立 …
Follow @hayarin225240 11 アラアラ島では、人々が次々と船に乗り込み、島を離れていく姿が見られました。 嵐の前触れで風が強く、波も激しくうねっています。 港では、小さな帆船が何隻も揺れながら出港を待 …
Follow @hayarin225240 10 タントは船がほぼ完成すると、次は島民の避難を指揮する重要な役目を担うことになりました。 しかし、耳が聞こえないタントにとって、大勢の人々に指示を伝えるのは簡単なことではあ …
Follow @hayarin225240 9 タントは、アラアラ島を守るために、占い師ヨシュアの言葉を反芻しました。 「アラアラ島が嵐で沈むかもしれない…」 生真面目なタントは、眠れない夜が続きました。 ヨシュアがタン …
Follow @hayarin225240 8 国王の目はきらきらと輝いていました。 その瞳には、長い間失われていた希望の光が宿っていました。 「タント、君のおかげだ」 国王は感謝の言葉を口にすると、タントの肩に手を置き …
Follow @hayarin225240 7 タントはアラアラ山を見上げて、深呼吸をした。 「よし、これで準備は万全だ!」 彼の前には、大きなリュックサックが置いてあり、中には乾燥させたシャドウリーフがぎっしり詰まって …
Follow @hayarin225240 6 大臣に就任したタントは、アラアラ国の人々が長い間抱えていた大きな問題に、さっそく着手しました。 それは、山の頂上に住む「ドゥーム・ツリー」と呼ばれるお化け植物でした。 この …
Follow @hayarin225240 5 嵐の夜、タント・ピエールは命こそ助かりましたが、あの轟音と共に永遠に音の世界を失いました。 けれども、彼の瞳は以前にも増して輝きを放っていました。 橋の建設現場では、誰より …
Follow @hayarin225240 4 タント・ピエールが引き続き隣町の橋の建設現場で働き始めたのは、クリオの父親の紹介でした。 嵐の遭難事故で耳が聴こえなくなって以来、彼はジェスチャーを交えた口話や筆談など、独 …
Follow @hayarin225240 3 タントがクリオ少年の家族に助けられてから、何日かが経ちました。 その間に、タントは体力を取り戻しましたが、嵐で遭難した際の影響で、完全に聴力を失っていました。 指で振動を感 …
Follow @hayarin225240 2 目を覚ましたとき、タントは柔らかな砂の上に横たわっていました。 空は青く澄み、風は穏やかでした。けれども体中が痛み、動くこともままなりません。 周囲の音は、まるで綿で包まれ …
Follow @hayarin225240 1 タント・ピエールはサレド国で尊敬されている大臣でした。 国の未来を担う重要な使命を果たすため、彼はある日、大きな船に乗り込みました。 遠い彼方の国と国交を結ぶという使命を果 …
Follow @hayarin225240 あらすじ サレド国の大臣タント・ピエールは、嵐に遭い、遠いアラアラ国に漂着する。彼は一命は取り留めたが失聴してしまう。 現地の少年クリオと家族に助けられ、健康を回復した後、橋の …
ネクロバズとむくつけき勇者たち 41 白衣とウェディングドレス
Follow @hayarin225240 41 ケンジとエミリーが研究所に着いた時、結婚式はすでに始まっていた。 春の陽射しが研究所の白壁を優しく照らし、玄関前には蝶が舞うように大勢の人々が集まっていた。 数台のテレビ …
Follow @hayarin225240 40 ウインドベル自然科学研究所で、所長の結婚式が行われようとしていた。 空は晴れ渡っている。 雲ひとつない。 おまけに研究所の庭には、満開のチェリー・ブラッサム。 K4地区の …
Follow @hayarin225240 39 春の陽気が街に戻ってきた。 チェインバーグ市の中心部では、閉ざされていたシャッターが一つ、また一つと開かれていく。 商店街には人々の姿が戻り始め、かつての活気を取り戻そう …
Follow @hayarin225240 38 大バエは、チェインバーグ市街までやってきている。 商店街は全てシャッターを降ろしていた。 リプリーは繁華街を歩いていた。 時折、銃殺された大バエの死骸に出くわした。 大バ …
Follow @hayarin225240 37 その日の朝、小学生の男の子は、いつものように学校へ向かう途中でコンビニに立ち寄った。 店内のテレビから流れるニュースに、彼は足を止めた。 「チェインバーグ国定公園で発生し …
Follow @hayarin225240 36 夜明け前、トラックはチェインバーグのM地区に到着した。 パルチノンの出張工場の中に…。 倉庫内はもちろん、作業所も無人だった。 若者はトラックを製品搬出所に入れた。 パル …
Follow @hayarin225240 35 チェインバーグの深夜。禁猟区は荘厳な静けさに包まれていた。 密林の中を一台の大型トラックが駆け抜けて行った。トラックのキャビンは、木々の隙間を縫う月の光りを浴びて、まだら …
Follow @hayarin225240 34 ケンジはレストラン「サム」へ顔を見せた。 リンダはチェインバーグからサムの元へ戻ってきているはずだったが、また勤めに出たとのことだった。 チェインバーグの頃に手にした賞与 …
Follow @hayarin225240 33 どれくらい気を失っていたのだろう? ケンジは朦朧として立ち上がった。 とにかく、考えるよりも行動しなければ。 ろくに考えられる状態ではないのだから…。 で、何をすればいい …
Follow @hayarin225240 32 ケンジがハエに関する事の一部始終を、ノートパソコンに入力し終え最後のピリオドを打った瞬間、モニターが青白い光を放ったまま突如として消えた。 研究所全体が闇に飲み込まれるよ …
Follow @hayarin225240 31 夜半、ウインドベルの研究所の通りに、黒いアウトランダーが止まった。 中にいる男は、上気した赤い顔をしていた。 男は後部席から、ゴルフバッグを担ぎ出した。 研究所の門をくぐ …
Follow @hayarin225240 30 オットーとケンジは、研究所の事務室のデスクでコーヒーを飲んでいた。 オットーは毎年、年明けに研究所でコーヒーを飲むことにしている。今年はケンジがその相手だった。少し疲れた …
Follow @hayarin225240 29 凍てつく風が吹き抜けるウインドベルのK4地区。 年が明けても、この街の喧騒は変わらない。 リプリーにとっては日常かもしれないが、オットーとケンジの年明けは、まるで嵐の中を …
Follow @hayarin225240 28 パルチノングループの取締役社長は、二階事務所に来ていた。そこは第五セクション会議室だった。 社長は金ラメの入ったスーツを着ていて、小太りの神経質そうな顔をしている。 屈強 …
Follow @hayarin225240 27 パルチノン食品工業。かつてウィンドベルに進出し、その後撤退した企業だ。 ウィンドベルの前市長ハーバーの誘致で、山間部に工場を建設。だが、3年後、工場の廃液から有害物質が検 …
Follow @hayarin225240 26 病院の廊下に、ぎこちない空気が漂っていた。 リプリー警部補は、まるで敵地に乗り込むかのような険しい表情で歩みを進めていた。 彼の後ろを、若き研究助手のケンジが慌てて追いか …
ネクロバズとむくつけき勇者たち 25 リプリー警部補の嘘だらけな朝
Follow @hayarin225240 25 翌朝、目が覚めると、ケンジはすぐにベッドから降りた。 窓の光りが、まだ焦点の定まらない視線をいたずらにもてあそんだ。 カーテンを開けてから、リプリーの部屋へ行ってみた。 …
Follow @hayarin225240 24 ケンジは昼下がりに、ホテルから外出して、リンダのアパートへ立ち寄った。 別に用事がなくても、なんとなく訪れてしまう状況というものが、人間にはある。 本当はさっさとチェック …
Follow @hayarin225240 23 リプリーが国定公園から病院へ引き返した時、すでに日暮れていた。 病棟の各棟は、街灯の中にぼんやりとたたずんでいた。 スバルは外来駐車場にとめてあった。 隣の白いセダンと比 …
Follow @hayarin225240 22 スバルにたどり着いて街へ引き返す時、あの忌まわしい群れが、道端で餌を啄んでいる光景に出食わした。 ヘッドライトが照らし出す煌々とした道路に、不吉な影が落ちていた。 腐臭が …
Follow @hayarin225240 21 ほとんどのハエが飛び立ち、その姿が見えなくなった後、リプリーは滝壺の近くに留まっている一匹を狙い定めた。 そのハエは片方の羽根を折っていて、飛べずにいた。 近づくと、ハエ …
Follow @hayarin225240 20 滝壺から離れてすぐに、リプリーは戦懐が走った。 まだ巣穴を確認できなかったが、どこからか重い羽音が聞こえてくるのだ。 一匹の黒い鳥が森の中から飛んできた。 その鳥は、滝壺 …
Follow @hayarin225240 19 その頃、リプリーとディックは、禁猟区の森をスバルで走っていた。 リプリーは出し抜けにデカイくしゃみをした。 まるで鼻づまりのカバみたいな、超特大のくしゃみだった。 ディッ …
ネクロバズとむくつけき勇者たち 18 夕暮れのレッド・ブーツ
Follow @hayarin225240 18 リンダは近所の工場に勤めていて、この時は出勤時間が迫っていた。 時刻は16時20分。 あと一時間で準夜勤の交代時間なの、とリンダは言った。 中学生のアレンは冬休みで、一日 …
Follow @hayarin225240 17 ケンジは病院の煉瓦門を抜け、受付で聞いた住所に向かうバスを待った。 時刻表を見る間もなく、バスはやってきた。 彼は運転手の後ろの席に座った。 シートに腰を下ろした瞬間、体 …
Follow @hayarin225240 16 リプリーと別れた後、ケンジはオットーの病室にいた。 オットーはあれから、処置室で点滴を受けているらしい。 ケンジは備付けの折り畳み椅子に座り待ち続けていた。 オットー所長 …
Follow @hayarin225240 15 タバコの匂いが充満しているリプリーのセダンの中。 車内は下水道より臭かった。 古びたシートには焦げ跡があり、ダッシュボードには埃が積もっていた。 窓ガラスには手の跡がくっ …
Follow @hayarin225240 14 午後三時、リプリーは市立病院を出て、スバルのWRX S4を走らせた。向かう先はチェインバーグの禁猟区だ。 車内はホコリだらけで、後部座席には三冊の週刊誌とボロボロの黒い雨 …
Follow @hayarin225240 13 オットー所長はベンチに座り、足首にアンクルウエイトを巻いて、ゆっくりと屈伸運動をしていた。 リプリーは所長の前に立ち、ニヤニヤしながら言った。 「何だ、コサックダンスの練 …
Follow @hayarin225240 12 チェインバーグ市立病院は、ケンジの想像よりもずっとこじんまりとしていた。 敷地内には小高い丘が点在し、豊かな緑に覆われている。 白く輝く建物は新築のように見えたが、玄関に …
Follow @hayarin225240 11 彼女が入れたコーヒーはお世辞抜きで美味しかった。 「お母さんの名前はリンダ・フックスというの。あなたの好きな女性に少し似ているわ」 エミリーは壁のピンナップを指して言った …
Follow @hayarin225240 9 サムの店で所長と電話で喧嘩し、むかっ腹を立ててアパートに戻った。 アパートの部屋は見違えるほど綺麗になっていた。 汚れが溜まっていたシンクも、今はピカピカに輝いている。 古 …
Follow @hayarin225240 9 「マスター、エミリーは何を聴いているんだい?」 ケンジはバーカウンターで居眠りしていたが、奥の部屋の騒音で目が覚めた。 マスターは向かいのシンクで何かを作っていた。 「ヴァ …
Follow @hayarin225240 8 夕暮れ時に研究所を訪ねたが、誰もいなかった。 ケンジはいつものように、自転車を玄関脇に置くと、スペアキーで玄関の戸を開けた。 玄関から研究室の廊下を見渡したけれど、奥の壁ま …
Follow @hayarin225240 7 立ち直り準備中 クリスマス一週間前のある日、ケンジはお気に入りのレストラン「サム」に座っていた。 彼はいつもここに来るたび、ふと彼女が現れるのではないかと期待してしまう。 …
Follow @hayarin225240 6 レストラン「サム」 ウインドベルの市街地の外れにある静かな丘は、富裕層によって別荘が建てられた場所だった。 市街地では、普通の家々が等間隔に建ち並び、住民たちは平穏な休日を …
Follow @hayarin225240 4 リプリー警部補の依頼 研究所を訪れたワゴン車の持ち主は、一階の事務所が無人なのを確かめると、今度は二階へ上がってきた。 老朽化した建物の階段は、どんなに忍び歩いても容赦なく …
Follow @hayarin225240 3 偽装パンダとバイト代 ウインドベル駅を中心とした賑やかな市街地から二十キロも離れた、人目につかない裏町の一角。そこには、時代を感じさせる古びた看板がかかる自然科学研究所がひ …
Follow @hayarin225240 2 ウインドベルの光 ウインドベルは、自然と文化が調和した、珍しい近代都市の一つだ。 街の遊歩道は、小川や木立で彩られ、市民に安らぎを与えている。 ここでは、野生動物の保護も積 …
Follow @hayarin225240 1 密猟者 真夜中、チェインバーグの森はとても静かだった。二人の男が禁猟区の山中を歩いていた。二人とも黒ずくめの格好で、散弾銃を背負っている。森の中に入ってからというもの、彼ら …
Follow @hayarin225240 あらすじ かつて環境問題を引き起こし、ウィンドベルを去ったパルチノン食品グループは、新たな街チェインバーグで再び活動を開始した。彼らは驚異的な速さで成長し、チェインバーグの人々 …
Follow @hayarin225240 7 とっとこ山のむこうがわへ行くと、かきの木がたくさんならんでいる林がありました。 ここでは、りょうりのおばあさんからきいた、めずらしいきのこがとれるのです。 「あのきのこは、 …
Follow @hayarin225240 5それからしばらくして、またエミが熱を出しました。 さむい夜のことです。 園長先生と女の先生が、ろうかでエミのにゅういんのはなしをしています。 「こんなさむいところにいるよりも …
Follow @hayarin225240 1 その年の冬はとてもさむくて、とっとこ山のふもとの村は雪がつもっていました。 村には親のいない子どもたちのしせつがあり、二十人ぐらいの子どもたちがいっしょにくらしていました。 …
Follow @hayarin225240 25 ハンドサインの約束 「それで、辞めた後はどうするんだ?」 ディーが計器類のチェックをしながら、レイに尋ねた。 レイはシートに深くもたれ、窓の外を見つめていた。 「母国に帰 …
Follow @hayarin225240 24 キャビンのシートが足りない パイロットのレイはもちろん、エンジニアのディーはレイの隣の座席に座ることになった。 操縦室はこの二人で定員締め切りだった。 X50の狭いキャビ …
38 スクリーンの下には、いくつものストレッチャーが並んでいた。ストレッチャーには全裸の人体が一体ずつ仰向けに横たわっている。彼らの頭部には一様に金属片が突き刺さっていた。一種の電極のように見えた。埋め込まれた電極から伸びるワイヤーとチュー・・・
37 立山は唐突に姿を消してしまった。僕は小さな舌打ちをしたが、すぐに気を取り直した。平石にも動揺は見えなかった。〈出口が近い。あいつのことはもう忘れよう〉そう手話で平石に伝え、僕たちは脱出を急いだ。階段を探し回り、いくつかのドアのノブを回・・・
36 僕と平石は、立山と共に、ディスプレイだらけの部屋から出た。生真面目な人間が、B級ホラー映画の試写室にいたようなものだ。胸糞悪いものを見た怒りが治まらなかった。部屋を出ると、通路に銃を抱えた二人の自衛隊員が立っていた。彼らの顔色はこれま・・・
35 恐怖の面接室立山が案内してくれた場所は、壁一面にモニターディスプレイが張り巡らされたオフィスだった。ディスプレイには大勢のエンジニアらしき男たちが、パソコン作業をしている様子が映っていた。彼らはゾンビではなく、皆生身の人間のように見え・・・
34 僕と平石は、立山の後ろを静かについて歩いていた。立山はひたすら話し続けていた。この男は昔からこうなのだ。相手が聞いていようが、いまいが、お構いなしだ。僕たちは無表情で聞き流していた。通路を歩いていると、立山は突然立ち止まり、小声で言っ・・・
33 研修会場の喧騒を背に、空のシャンパングラスをウェイターに返すと、立山は一つの開かれたドアへと進んだ。僕と平石は、彼の後についていった。会場を抜け、三人は薄暗い通路を進んだ。それにしても、この迷宮のような通路は、どこへと続いているのだろ・・・
32 通路を進むと、人々のざわめきが耳に届いた。アナウンスではない、生の声だ。〈また何か音がしてるな〉僕は耳を澄ませ、平石に注意を促した。ドアの向こうは明るく、高い天井が印象的な、広々としたホールが広がっていた。そこでは華やかなパーティが催・・・
31 気がつくと、僕と平石はビルのエレベーターの中にいた。二人は3D銃をそれぞれのポケットに仕舞った。〈階上に行く? 地下に行く?〉僕は平石に訊ねた。〈地下には駐車場があるかもしれない。脱出するなら地下だけど、俺はドローンの行方を確かめたい・・・
30 突然、ビルが爆音と閃光で揺れた。 集会所は爆発で破壊され、音に反応できないろう者たちは、ひとたまりもなく吹き飛ばされた。 僕も爆風を受け、背後の壁に激しく打ち付けられた。 河口凛々子も空中に投げ出されたようだ。床 …
29 集会の真ん中では、船橋の声が響いていた。 朗々とした声で話しながら手話も交えていた。すっかり忘れていたが、船橋は健聴者だった。 〈せっかく集まってもらったのに申し訳ないが、明るい話題はない。まずは頭数の問題だ。この …
28 気がつくとテーブルの横には、一人の男が立っていた。 マシンガンタイプの武器を片手に持ちながら、こちらへやってきた。 その男に僕らは見覚えがあった。彼は手話で話してきた。 〈ドローンを撃墜したんだってな?〉 加田崎 …
27 廃ビルの中は薄暗かった。 天井に小さな照明が灯っていたが、手話がかろうじて読み取れる程度の明るさだった。 僕たちは恐る恐る奥へと進んでいった。 すると、フロアに人だかりが見えてきた。 通路の先には20平方メートル …
26 朝になると僕はマスクを着け、ホテルの外で食べ物を買って戻ってきた。 朝早いというのに、ホテルのロビーには昨日の昼間と同じように人で埋まっていた。 やはり彼らはこの辺りの住民たちで、住居が破壊され、帰る場所がないの …
25 10分後、僕と平石はトイガンを隠し、裏通りを並んで歩いていた。 通りには違法駐車の列ができていた。市民狩りから逃れてきたのだろうか。 居住区を追い出された人たちがここに流れてきているのかもしれない。 丹念に探せば …
24 どこをどう歩いたのか定かではないが、その朝は街外れの歩行者用道路のトンネルの中で目覚めた。 体が鉛のように重く、手足が冷え切っていた。 外が白んでくると、トンネルを出て街中を歩いた。行き先は決めていた。平石のとこ …
23 それから30分ほど大きな道路を走ると、車はビル街を抜け、郊外の住宅地へとやってきた。 細い道に入り、しばらく山道を登った後、山の斜面に立ち並んだマンション群の前でSUVが止まった。 彼女が住んでいたのは、10階建 …
22 市役所から少し離れた社会福祉センターの駐車場で、僕は身を潜めていた。 夜の冷たい空気が辺りを包み込んでいる。 センターの出入口付近で、三人の女性が立ち話をしていた。やがて二人が建物の中へ戻り、一人だけが外へと歩き …
21 市役所の門を抜けると、僕はすぐさま裏通りへと足を向けた。 幸い、この路地にはまだパトカーの姿は見えなかった。 警戒しながら市役所から離れていく途中、ふと空を見上げた時だった。小型ドローンが静かに浮遊しているのが目 …
20 息が切れて、僕は立ち止まった。 右手にはまだプラスチック製の銃を握っている。 慌ててそれをリュックサックにしまい込んだ。 胸騒ぎは収まらなかったが、これ以上走り続けることはできない。 リュックを背負い直し、何事もな …
19 長い間、身体の震えが止まらなかった。 逃げ続けた末に辿り着いたのは、小さな公園だった。 時刻は14時10分を少し過ぎたところ。 晴れているのに、この公園には僕以外誰もいない。 滑り台とブランコ、そしてトかイレだけが …
Follow @hayarin225240 40 ウインドベル自然科学研究所で、所長の結婚式が行われようとしていた。 空は晴れ渡っている。 雲ひとつない。 おまけに研究所の庭には、満開のチェリー・ブラッサム。 K4地区の …
Follow @hayarin225240 39 春の陽気が街に戻ってきた。 チェインバーグ市の中心部では、閉ざされていたシャッターが一つ、また一つと開かれていく。 商店街には人々の姿が戻り始め、かつての活気を取り戻そう …
Follow @hayarin225240 38 大バエは、チェインバーグ市街までやってきている。 商店街は全てシャッターを降ろしていた。 リプリーは繁華街を歩いていた。 時折、銃殺された大バエの死骸に出くわした。 大バ …
Follow @hayarin225240 37 その日の朝、小学生の男の子は、いつものように学校へ向かう途中でコンビニに立ち寄った。 店内のテレビから流れるニュースに、彼は足を止めた。 「チェインバーグ国定公園で発生し …
Follow @hayarin225240 36 夜明け前、トラックはチェインバーグのM地区に到着した。 パルチノンの出張工場の中に…。 倉庫内はもちろん、作業所も無人だった。 若者はトラックを製品搬出所に入れた。 パル …
Follow @hayarin225240 35 チェインバーグの深夜。禁猟区は荘厳な静けさに包まれていた。 密林の中を一台の大型トラックが駆け抜けて行った。トラックのキャビンは、木々の隙間を縫う月の光りを浴びて、まだら …
Follow @hayarin225240 34 ケンジはレストラン「サム」へ顔を見せた。 リンダはチェインバーグからサムの元へ戻ってきているはずだったが、また勤めに出たとのことだった。 チェインバーグの頃に手にした賞与 …
Follow @hayarin225240 33 どれくらい気を失っていたのだろう? ケンジは朦朧として立ち上がった。 とにかく、考えるよりも行動しなければ。 ろくに考えられる状態ではないのだから…。 で、何をすればいい …
Follow @hayarin225240 32 ケンジがハエに関する事の一部始終を、ノートパソコンに入力し終え最後のピリオドを打った瞬間、モニターが青白い光を放ったまま突如として消えた。 研究所全体が闇に飲み込まれるよ …
Follow @hayarin225240 31 夜半、ウインドベルの研究所の通りに、黒いアウトランダーが止まった。 中にいる男は、上気した赤い顔をしていた。 男は後部席から、ゴルフバッグを担ぎ出した。 研究所の門をくぐ …
Follow @hayarin225240 30 オットーとケンジは、研究所の事務室のデスクでコーヒーを飲んでいた。 オットーは毎年、年明けに研究所でコーヒーを飲むことにしている。今年はケンジがその相手だった。少し疲れた …
Follow @hayarin225240 29 凍てつく風が吹き抜けるウインドベルのK4地区。 年が明けても、この街の喧騒は変わらない。 リプリーにとっては日常かもしれないが、オットーとケンジの年明けは、まるで嵐の中を …
Follow @hayarin225240 28 パルチノングループの取締役社長は、二階事務所に来ていた。そこは第五セクション会議室だった。 社長は金ラメの入ったスーツを着ていて、小太りの神経質そうな顔をしている。 屈強 …
Follow @hayarin225240 27 パルチノン食品工業。かつてウィンドベルに進出し、その後撤退した企業だ。 ウィンドベルの前市長ハーバーの誘致で、山間部に工場を建設。だが、3年後、工場の廃液から有害物質が検 …
Follow @hayarin225240 26 病院の廊下に、ぎこちない空気が漂っていた。 リプリー警部補は、まるで敵地に乗り込むかのような険しい表情で歩みを進めていた。 彼の後ろを、若き研究助手のケンジが慌てて追いか …
Follow @hayarin225240 25 翌朝、目が覚めると、ケンジはすぐにベッドから降りた。 窓の光りが、まだ焦点の定まらない視線をいたずらにもてあそんだ。 カーテンを開けてから、リプリーの部屋へ行ってみた。 …
Follow @hayarin225240 24 ケンジは昼下がりに、ホテルから外出して、リンダのアパートへ立ち寄った。 別に用事がなくても、なんとなく訪れてしまう状況というものが、人間にはある。 本当はさっさとチェック …
Follow @hayarin225240 23 リプリーが国定公園から病院へ引き返した時、すでに日暮れていた。 病棟の各棟は、街灯の中にぼんやりとたたずんでいた。 スバルは外来駐車場にとめてあった。 隣の白いセダンと比 …
Follow @hayarin225240 22 スバルにたどり着いて街へ引き返す時、あの忌まわしい群れが、道端で餌を啄んでいる光景に出食わした。 ヘッドライトが照らし出す煌々とした道路に、不吉な影が落ちていた。 腐臭が …
Follow @hayarin225240 21 ほとんどのハエが飛び立ち、その姿が見えなくなった後、リプリーは滝壺の近くに留まっている一匹を狙い定めた。 そのハエは片方の羽根を折っていて、飛べずにいた。 近づくと、ハエ …