歴史33 大正――人情大相撲⑥
「ほんまに、人情味のある、優しい、兄貴あった・・・」そう言って春やんは鼻をすすり、ちびりと酒もすすった。オトンは何も言わなかった。私は、勇ましくも、なんとも悲しい話で聞かなければよかったと思った。「そやから、本来ならば『篠ヶ峰』と彫った墓石にするものやが、陸軍歩兵何某と書かれた立派な墓に入ってしまいよった」「兄弟の中にひとりぐらい賢いやつがおらんとあかん。わしが中学校までやってもらえたのも兄貴のお陰や」とも言った。気をとり直したのかオトンが言った。「ほんで、春やん、今日はなにしに来たんや?」「ああ、そやそや。喜志の宮さんのお札と祝い箸を配りにきたんあった」「もう、そんな時期か・・・」「はやいなあ。来年は戦争も災いもない良いとしでありますようにやなあ」そう言ってお札と祝い箸をテーブルの上に置き、「ごっつぉは...歴史33大正――人情大相撲⑥
2022/12/30 09:03