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月の爪痕 http://kurenai75.blog11.fc2.com/

「月の爪痕」は紅(くれない)が書いたオリジナルBL小説を掲載しているブログです。

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2022/05/07

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  • Calling Section4-14

    Calling Section4-14

    山を降りるまで薫は無言だったが、その間、2度立ち止まった。 1度目は事件現場の崖を最後に見渡せる坂の上で、2度目は寺に入る前に立ち寄った神社の鳥居を望める分かれ道で。 そして山を降り、待たせていたタクシーを呼びよせたところで、薫が口を開く。「相馬さん、ひとつお願いがあるのですが・・・ご対応いただけますか」「嫌だ」 即答した相馬を、薫が信じられないものを見るような目で見た。 その視線を受けて、相馬は...

  • Calling Section4-13

    Calling Section4-13

    「やっぱりそう思うよな」 と、相馬は言い、さり気なく薫の腕を取って崖際から距離を取らせた。 薫の察知能力があれば、うっかり落下するなどという事故は起きないのかもしれない。が、事件発生当初に一旦刈られたのであろう雑草は事件から一月以上経過した現在、再び崖際が不明瞭になる程度に育っている。 相馬からすればどこから崖になっていて危険なのか分からないため、見ていてヒヤヒヤするのだ。 「しかし坂下のやつはそ...

  • Calling Section4-12

    Calling Section4-12

    薫は引き続き相馬の案内を待つことなく、釣鐘堂を越え、その奥にある小さな通用門を通り、寺の裏手の山道を抜け ―― 女子高生が身を投げた現場で足を止めた。 そして振り返る。「それで、一ノ宮さんはなんと?ここまでの現場では、特に事件についての話はされていませんでしたよね」「ああ。結論としては警察の見解を指示する方向だったな。全て自殺だろう、と」 と、相馬は言いながら薫の隣、一連の事件の最後の現場となった崖...

  • Calling Section4-11

    Calling Section4-11

    翌日の午後、相馬は薫を伴い、昨日最後に訪れた寺院に再訪していた。 朝一番で行くことを提案したのだが、薫が、「恐らく行動をチェックされるはずですので・・・相馬さん、何かしら用事がありますよね。午前中、先にそちらを片付けていただいて、済んだら連絡をください。待ち合わせ場所はその時にお伝えします」 と言うので、昨夕むつ警察署で聞いた諸々を東京の班員に伝えて情報収集を頼んだり、関係者に直接話を聞きに行っ...

  • Calling Section4-10

    Calling Section4-10

    最後の寺の現場を見て回った後、相馬はホテルに戻る一之宮玲子とそれに同行するという坂下たちと別れた。「どこに行く?」 相馬がこの後は別行動をすると言うのを聞いた坂下に訊ねられ、相馬は、「服部さんたちとむつ警察署。捜査資料や物証を一通り見てくる。お前らも来るか?」 と、訊き返す。 警察庁長官サイドから一之宮玲子に失礼のないように、と釘を刺されているであろうことは想像に難くなく、佐谷戸からも“上から何...

  • Calling Section4-9

    Calling Section4-9

    女生徒たちが亡くなったのは、むつ市内にある6つの寺院、そして彼女たちが通っている青森県立むつ第1高校校舎でのことだった。 寺院敷地内でそれぞれ1人ずつ、高校敷地内で2人の女生徒が投身している。 校長や教師から話を聞いた後、2人の生徒 ―― 5番目に亡くなった町田寿子、7番目に亡くなった森梨沙 ―― が倒れていた現場と、飛び降りた校舎屋上に青森県警の服部たちが案内してくれたが、事件発生両日ともに、その前後に不審...

  • Calling Section4-8

    Calling Section4-8

    今回の事件は、青森むつ市 ―― 下北半島のまさかりの根本あたりで起きた。 青森までは新幹線が通っているが、そこからむつ市までは車か電車、またはバスで行くことになる。 どちらにしても、青森からは2時間以上かかる。 地方では当然なのだが、主な公共交通機関は日に数本、片手に余る本数しか走っていないため、青森からは車の手配をしていた。 陰陽師・一之宮玲子(と、高性能な人感センサー付きの薫にも何人来ているのか...

  • Calling Section4-7

    Calling Section4-7

    翌日の昼少し前、相馬は東京駅にいた。 青森へ向かう新幹線最後尾、車両中程の指定席に腰を下ろしてメールをチェックしながら売店で購入したボトルコーヒーを一口、口に含んだ直後、そのまま吹き出しそうになる。 必死で飲み込んだもののコーヒーの一部が気管に入り込み、激しく咳き込む。 何とかまともな呼吸が出来るようになってから、隣に腰を下ろした男 ―― 神無月薫をまじまじと見つめた。「あ、あんた、何でここにいるん...

  • Calling Section4-6

    Calling Section4-6

    「お初にお目にかかります。一之宮玲子と申します」 明日から捜査のため青森へ出発する予定になっていたその日、警視庁へ来ていた陰陽師・一之宮玲子は捜査に同行する相馬へも挨拶をしに来ていた。 高名な政治家や企業トップを顧客に抱え、未来に関する忠告を与えて破格の料金をとるというのは一体どんな女性なのかと内心身構えるような気持ちでいた相馬だったが、予想に反して ―― と言っていいものかどうか、一之宮玲子は至って...

  • Calling Section4-5

    Calling Section4-5

    「・・・えーっと、“何か、どこかがおかしい”っていうのは例えば、どういう点がおかしいんだろう?」 と、相馬は訊いてみる。 薫は振り返り、最初とは逆回りでソファを回って元の場所に腰を下ろし、取り上げたワイングラスから白ワインを少し飲んだ。 そして相馬を真っ直ぐに見て、「おかしいところが分かっているのなら、こんな曖昧な言い方はしなくて済むんですけどね」 と、答えた。「・・・うん、そうだよな。まぁ、そりゃ...

  • Calling Section4-4

    Calling Section4-4

    翌日の夕方、相馬は猫塚アランがCEOを務める警備保障会社「Michis Security Service」本社ビルにいた。 入口を抜け、受付で名乗ろうとしたところで名前を呼ばれる。 見ると、そこにはハッとするような濃い青の瞳の女性が立っていた。 一見しただけで仕立ての良さが分かるシンプルな黒いスーツ、それとは対象的に立体的なレースが幾重にも重なり合った華やかな白いブラウスを身に着け、金色の髪を複雑な形に結い上げている。 ...

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    Calling Section4-3

    相馬と薫の関係は今や仕事とプライヴェート、それぞれに亘る感情が複雑に絡み合っており、捜査に直接関係のない場で薫に関してどういう反応を示せば良いのか測りかねていた相馬は、特に返事をしなかった。 だが宮田の一連の推測は、大筋で間違っていないだろうと思った。 相馬が担当であることと薫が警察の仕事を受けていることの因果関係はともかく、薫という人間が自身の力を崇め奉られて喜ぶ人間でないことは確かだ。 それ...

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    Calling Section4-2

    佐谷戸の不吉な予言により重苦しい気分を抱いたまま警視庁捜査一課管理官・宮田の執務室に入室した相馬は、宮田の話を聞いた後たっぷり数分間、無言で立ち尽くしていた。 どのくらいの時間が経過しただろうか ―― よく分からなくなった頃、いつまでも向かい合って沈黙を分け合っているわけにはいかないと考えたのであろう宮田が口を開く。「“冗談じゃありません”とか、今回は言わないのか」 しかしそれでも、相馬は黙っていた。...

  • Calling Section4-1

    Calling Section4-1

    「ほんっとぉぉおーーーーに、格好いいんですよ。惚れ惚れしちゃいましたよ、いいなぁー、羨ましいなぁー、あれが自分のだったら、俺、もう毎日撫で回して、愛でまくります。いや、いっそ住みますね、間違いない!」 ここ2ヶ月ほど、大きな事件はないものの細々とした事件が立て続けに起こり、文字通り関東各所を駆け回っていた相馬班である。 その日は久々に班員が一堂に会することが出来、約束の時間より少し遅れて部屋に入っ...

  • Calling Section3-27

    Calling Section3-27

    「そもそもさ。俺があんたを怖がったり怯えたりする意味って、あるのか?」 と、相馬は訊いた。 意味が分からないという風に、薫は微かに眉根を寄せる。「以前、猫塚レオンに説明されたんだよ、“薫は会う人の思考を手当たり次第に読んでいるわけではない”、自分の命に関わる可能性があることを無防備に、日常的にやってるわけが無いですよね?”、“そのことをしっかり理解してもらわないと困る”ってな。あんたも一貫して、“分から...

  • Calling Section3-26

    Calling Section3-26

    ごうごうという血流の音以外を鼓膜が聞き取れるようになった頃、柱に押さえ込まれていた薫の身体がずるずると床に向かって落ち始める。 相馬は慌てて薫の足を掴んでいた手を外し、その身体を支えてまっすぐ立たせようとした。 が、薫の両足はまだその体重を支えられるほど復活しておらず、柱に沿うようにずるずると床に座り込んでいってしまい、相馬もそれを止められない。 そもそも相馬自身、ようやくまともに立てるようにな...

  • Calling Section3-25

    Calling Section3-25

    永田町を通り過ぎた辺りで相馬が口にした質問に、薫は小さく笑った。「相馬さん」 と、薫は視線を前に据えたまま、歌うような言い方で相馬の名を呼ぶ。「熟年夫婦じゃないんですから。“あれ”とか“それ”とか言うだけでテレビのリモコンが差し出されたり、お茶が入ったりはしませんよ?」「とぼけるのは止せ。時間の無駄だ」 と、相馬も前を見たままぴしゃりと言う。「あんた、最初から何もかも全て、計算ずくだったんだろう。あ...

  • Calling Section3-24

    Calling Section3-24

    各種メディアホームページが一斉ジャックされた騒動から1週間後、相馬は捜査一課管理官・宮田に呼び出されていた。「先程、サイバーセキュリティ対策本部の槙原本部長から、連絡があった ―― 例の報道・マスコミ各社のホームページジャックの件、すでに捜査が行き詰まっているそうだ」 宮田の前に立った相馬は一言、そうですか。と言っただけで、口を噤む。「犯人の痕跡を辿るためにあれこれ手は尽くしているが、現状、完全にお...

  • Calling Section3-23

    Calling Section3-23

    その後2ヶ月程、薫からの連絡は途絶えた。 事件は大小あれこれ起きていて、そのうちの何件かは薫への依頼もされた。 しかし何度依頼メールを送っても、まるでMAILER DEMONからの返信のように一瞬で短い断りのメールが帰ってくるのみで、薫が仕事を引き受けることはなかった。 三ツ木昇の殺害から始まった事件は、相馬が予測していた通りの流れで幕引きとなっていた。 庵野公平が三ツ木昇のマンションにタイマー付きのアロマ...

  • Calling Section3-22

    Calling Section3-22

    相馬が廊下に出たとき、薫の姿はもちろん、レオンやアランの姿も既になかった。 エレベーター・ホールに走ったが、薫たちを乗せたのであろうエレベーターの箱は今まさに下降し始めたところで、相馬は舌打ちと共に下向き矢印のパネルを叩く。 数十秒後にやって来た別のエレベーターに乗り込んだ相馬は一瞬躊躇ってから ―― 地下駐車場に降りるべきか、1階の駐車場出入り口前で出てくるのを待つべきか ―― タイムラグ的には駐車場...

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