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  • 痩せた猿が誘蛾灯の下で

    痩せた猿が誘蛾灯の下の小さな檻の中で陳腐な引用と比喩だらけの言葉を吐いていた、のべつ幕なしに並べ立てていたがそれは一言も俺の興味を引くようなものではなかった、生まれてこのかた名前も聞いたことが無いようなコンビニエンスストアの入口のそばだった、俺はちょっとした食いものとシェービングクリームを買うついでに長い長い夜の散歩に出てこのコンビニを見つけ、そして誘蛾灯の下でハリウッド臭い青色に染まっている痩せた猿を見つけたのだった、あんた、ねえ、あんた、と痩せた猿は俺を見つけるとしきりに俺の興味を引こうとした、あとで、と俺は答えて買物をするために店内に入り少し時間をかけて食いものを選び、いつも使っているシェービングクリームを探したが見つからなかったので適当に同じくらいの値段のものを選んでレジへ行った、他に客も見当たら...痩せた猿が誘蛾灯の下で

  • 手遅れの手前

    落ちぶれた世界の歯軋りが俺を眠れなくさせる、飲み干した水の入った、コップの底に張り付いていた潰れた小虫、排水溝の向こうで今頃、呪詛を吐き続けているだろう、小さいから、弱いから、儚いからで納得ずくで死ねるわけでもないさ、熱い湯を出して頭からかぶり続けた、ナルコレプシーみたいな脳髄、クリアーにならない理由が欲しい、水を飲んだグラスは少しのミスで欠けた、だから流しの中で叩き壊した、手のひらで集めて生ごみに混ぜ込んだ、案の定切れた左手の人差指、血が止まるまで水をかけ続けた、深い傷ではなかったけれどなかなか血は止まらなかった、まるで生命が俺の身体から根こそぎ逃げ出そうとしているみたいだった、彼らを閉じ込めておくために絆創膏を買いに行くことにした、一番近いコンビニまで歩いて5分程度、延命措置にはおあつらえ向きの時間だ...手遅れの手前

  • bad religion

    誰の耳にも止まるよう鎮魂歌は轟音で鳴らされる、崩落した世界の底で見上げる太陽は一番輝いている、絶望や失望と戯れるうちそれが主食かと思うようになった、どこを歩いても腐敗臭ばかりさ、自尊心が内容を上回っている連中が獲物を探している、晴れた空がまるでブラックジョークみたいに見える塩梅だ、ロックンロールは循環コードと染めた髪以外のすべてを失ってしまった、欲望の感じられない、音の通りに発せられているだけの歌唱がチャートのいたるところからドロドロの血液みたいに吹き出している、人を極限まで生き易くするシンプルで滑稽な認識がどんな戯言を並べようが俺のやることとは何の関係もない、安易な選択肢に蟻のように群がることで人間は落ちるところまで落ちてしまった、もはやそれは個人ではない、上空にかかった雲のようなたったひとつの意識だ、...bad religion

  • 音のない雨

    秘罪は内側から羽虫のように自我を食らい尽くすだろう、薄暗がりの路地の中で死後の自分の眼差しを見た週末、雨はかろうじて降らないでいるだけの午後だった、冬の名残でもなく、春の目覚めとも思えない温い気温、内奥の燻りが爆ぜた途端なにもかもが静寂に見えた、誰かがカバーした「雨を見たかい」がホットドッグのキッチンカーから漏れているのが聞こえた、あれはもしかしたらロッド・スチュアートが歌ったものかもしれない、こめかみに銃口の感触、思えばそんな冷たさがいつだって存在理由だった、冷たい鉄の欠片が体内に紛れ込んでいる、一粒残らず刻みつくして取り出したい、それが生きる為なのか死ぬ為なのかは分からない、焦らなくてもいつかは分かる時が来るだろうさ、望むかたちではないかもしれないけれどね、人生も、人間も、宿命も、信念も思うままにかた...音のない雨

  • 失くした頁ほど読み返したくなるものだから

    時計の文字盤の進行と街の気配が奇妙な歪さをもって網膜に刻まれる午後、全身に浅黄色の布を巻きつけた梅毒持ちの浮浪者女が木の柵で囲われた売地の中でこと切れる、鴉たちは低いビルの立ち並ぶ様々な屋上からそれを見下ろしている、もはや生肉を好む時代でもないだろうと…それが食うには値しないものだということをちゃんと理解している、排気ガスと電磁波が交錯するレクイエム、三本足の犬が真直ぐな道に苛立っている、終わりの無い演目をこなすだけのピエロたち、拙い芸を口先で誤魔化している、言ったもん勝ち程度の世の中、国語辞典がゴミ捨て場で黄色く焼けている、武器を欲しがるのは兵士だけじゃない、戦場に出る覚悟がないから正面にも立つことが出来ない、逃亡を誇らしく装うやつら、俺は唇を歪めて次の一行を探す、世界が生まれる瞬間、沸騰する血液の泡が...失くした頁ほど読み返したくなるものだから

  • 寄り道の先の亡霊

    誰かが俺のことを呼んでるのは聞こえていたけど俺はすっかり出来上がってしまっていて返事ひとつもままならなかった、ここで無理矢理立ち上がったところでテーブルと一緒に転んで弁償するグラスがまたひとつ増えるだけだった、まわりの皆も俺がそこに居ることやどんな状態かってこともわかっていたけれどそれは珍しいことじゃないから誰もなにも言わなかった、それは本当は冷たさだったのかもしれないけれどべろべろの俺にはとんでもない優しさに思えて恩返しに酒でも振舞いたかったけれどさっきも言った通りろくに口をきくことも出来やしなかった、出来上がっているのに出来ないことばかりだ、なんだこりゃ、哲学かなんかか?哲学なんて時間の無駄だって言うやつ居るよな、預金残高をデカくすることだけが生きがいみたいに思ってる連中さ、そういう連中ときたらいつで...寄り道の先の亡霊

  • いつでも枕がそこにあるとは限らない

    お前の筋書き通りさ、神様は血を吐いて仰向けに倒れた、悪魔は小洒落た燕尾服で現れて上等のワインを抜いた、甘い香りがそこら中に漂って…忌み嫌われたロックンロールのイントロが流れ出すとどいつもこいつも狂ったように騒ぎ出す、みんな熱狂の幻覚の中で馬鹿になった振りをしたまま死に絶えてみたいのさ、地面に染みを作るのは興奮のあまり漏らしてしまったグルーピーたち、何も心配しなくていい、踊っているうちにすべては乾いてしまうだろうさ、罪を流すにはとにかく時間をかけることだ、やり過ごす間に自己嫌悪で壊れてしまったりしないことだ―みんな教えてくれているだろう、そういうテキストは世の中に腐るほど溢れている、どこを見ても優秀な教師ばかりさ、まったく、反吐が出るほどにね…片隅のモニターでは「ルード・ボーイ」が流れている、俺はその映画を...いつでも枕がそこにあるとは限らない

  • はばたきは、いつか

    あなたは枯れた蔓を集めて、血管をこしらえたわたしは綿毛を集めて心臓を作り、それを繋いだなにも無いこの地にはいつも、優しく撫でるような風が吹いていてそのせいでわたしはいつだって落ち着かなかったたくさんの鳥がいっせいに飛び上がるのを見たの冬にしては暖か過ぎる日のことだったわたしはかれらがなにかの兆しを感じ取ったのだと思って…あとをついて行きたくて仕方がなかったけれどあなたには微塵もそんな思いは無く、だからわたしはそこを立ち去るべきだと決意したの風の中で、ずっと、だれかがつぶやいているような気がしていたそれはきっとあまり褒められた存在では無かったのだだけどわたしには些細なことだったしそのせいでたとえば破滅が待っているのだとしてもわたしはきっとその、くすぐったさのようなものを拒否することなんか決して出来なかっため...はばたきは、いつか

  • 三文芝居の夜

    一日中、降っては止みを繰り返した雨に濡れた街が、僅かな街灯の明かりに照らされて終末のようだ、新しい靴のソールは穴だらけの歩道の水溜りを完全に拒んだ、俺はそれをいい兆候だと感じていたんだ、風が弄るみたいに四方八方から吹き付けていて、そいつが俺とすれ違う時に世界の音を一瞬全部消してしまうせいで、ろくでもないことばかりを思い出しそうになって歯痒い思いをしていたのさ、もちろんそれはもう本物の記憶ではない、その時々の感情によって適当に塗り替えられてしまっている、まだ早い時間なのに車の流れが完全に途切れる時間があって、そのたびに世界はもう終わってしまったのだと勘違いする、それが予知なのか願望なのか、どちらかに決める勇気なんか俺にはないよ、誰もがこうあるべきなんだとでも言いたげに信号が点滅している、あいつが本当にやりた...三文芝居の夜

  • やってやろうか詐欺 / ホロウ・シカエルボク

    やってやろうか詐欺/ホロウ・シカエルボクやってやろうか詐欺/ホロウ・シカエルボク

  • 詩人PV新作

    やってやろうか詐欺/ホロウ・シカエルボクhttps://youtu.be/CFQP4zYndpY詩人PV新作

  • Rend Fou

      それは、どこから始まったのかわからなかった、部屋中に蚕の糸が絡みついているかのように白く、いつもそこにあるはずのものを認識することが出来なかった、いつもとは違うにおいがした、あまり適当な例えを思いつかないが、しいて言うのなら―黄泉のにおい、とでもいうような…身体も上手く動かすことは出来なかった、糸が絡みついているのかもしれない、いったいどういうわけだ、俺は直前までしていたことを思い出そうとした、でもどうしても思い出すことが出来なかった、そんなわけがない、たいしたことはしていなかった、でもここは自室であり、いつもと変わらない日常が淡々と繰り広げられていたに違いなかった、でもなにも思い出せなかった、目にしていたもの、手に取っていたもの、口にしていたもの、動作―なにも、瞬間に世界は塗り替えられた、俺は茫然と...RendFou

  • 永遠に消えてゆく

    永遠に消えてゆく 蒼い夜に沈んだあなたの真意がしんとした空気に濡れるころ空にはいくつかの言葉が亀裂のように浮かぶ渡り鳥は平衡感覚を忘れ目当ての星を見失うそれは人の為にあらずだからこそ祈りは切なるものとなる 祭壇には切り刻まれた神滑らかに捌かれた天使たちがもはや空っぽの目をしてステンドグラスのギロチンでオブジェと化す聖歌は逆回転で流れ蝋燭は一瞬で燃え尽きることでしょう外はいつしか嵐巨大な獣の咆哮のような風機銃掃射のような雨の音身を低くして窓を覗いてはなりませんそれがどんな夢だろうと現実にならないという保証はどこにもないのです 引き裂かれるような世界の中吊り上げられる思い出には傾向がありわたしは血の涙を流しながら指が折れんばかりに両手を組み昔覚えた聖書の言葉を呪詛のように繰り返す誰に祈るのですか聖堂の拒絶パイ...永遠に消えてゆく

  • 密度流

      僅かな振動、それは肉体の中で生まれていた、リズムが求められ、理由は求められなかった、進展が求められ、完成は求められなかった、渇望は凶暴だったが、今夜はそのまま表現されることは望まれなかった、暴風の中でかすれた口笛の旋律を拾うような作業だ、でもそれを成し遂げなければ、今夜いい気分で眠れないことは分かっていた、常にいくつかのパターンが生まれ、たったひとつだけが選ばれた、ひとつ間違えたらそこで終了してしまう、今日はそんな気分だった、肝心なのは今自分に最も適した速度はなんなのかということだった、痛みが生じるほどに耳を澄まし、辺りに散らばるものの正体を掴もうとしていた、二十一時を少し過ぎたところで、上手く使える時間はあと少しだった、音楽とそれ以外の静寂の中で、手探りは黙々と続けられた、僕は君のようにこれを読んで...密度流

  • 甘く無残な鼓動

      脳裏で吹き荒ぶ嵐を、飲み干して制圧したい、闇雲に振り回した拳は、触れてはならないものだけを破壊した、影の中に隠れ、目論む感情のリカバリー、人差し指の傷を舐める、舌にこびりついた血は堪らなく苦かった、ガラスの破片、いっそ肉体に混入して、体組織の一部になればいい、焼却場の炉の中で輝くだろう、闘いの概念、結局は精神の在り方さ、指揮統制、すべては自分の為だけに、禁止区域を抉じ開けて進軍を続けろ、目を逸らしたいものこそが本質だ、肉体を持つ以上綺麗なものではいられない、悲鳴が聞こえる、或いは、昂ぶりの果ての絶叫かもしれない、どちらにせよなにも無いよりはマシというものだ、産まれることにも生きることにも、本来意味などたいして無いものだ、闘いを求める意志だけが、そこに意味を見出していく、俺の精神はいつだって闘いの中に在...甘く無残な鼓動

  • ポエジーの茨

      生活を切り刻み、静寂をサルベージする、洗練された怠惰を身に纏うものたちのそこここで見かける言葉、段階を踏んで、手順よく並べるだけの…そうさ、実はそれは君じゃなくたって構わない、僕は神様の唾みたいに窓に降りかかる雨を見てる、本当のことなんて本当は僕らの高さには無いものなんだ、僕は生まれつき無駄な努力を敢えて選択してきたのさ、君にとって僕が薄汚いものに見えるなら、君は自分の目を丁寧に洗浄してくるべきだ、もしも今すぐにそうしてくると言うのなら少しくらいはここで待っていることも出来るよ、変拍子のヘビー・メタル、アルバムのタイトルは忘れてしまった、あんまり冴えたものではなかった気がする、何か書こうと思うけどすぐに眠くなる、たぶんエアコンのせいさ、でも実際、それでも着こまなくちゃならないくらいなんだから…時なんて...ポエジーの茨

  • 水の行方

      その日、二ヶ月に渡る療養の挙句に会社に見捨てられた私は、まっすぐ家に帰る気にもならず、電車にも乗らずに当てもなくぶらぶらと歩いていた。田舎の高校を卒業して六年間、特別な野心も意欲も無いまま働き続けた仕事だったけれど、なんとなくそのままずっと続いていくんだろうなと考えていた。まさか、よくわからない不調のせいで仕事を失うことになるなんて考えもしなかった。内科は逆流性食道炎かもしれないと言い、精神科は自律神経かもしれないと言った。婦人科では気になるならどこか大きなところで診てもらった方がいいかもしれない、と曖昧な調子だった。本格的に調べてもらおうか、そう考えていた矢先の会社からの連絡だった。あなたは長く勤めてくれたしウチとしても胸の痛む結論なのだが、無理を強いることも出来ないし今以上仕事が溜まりがちになるな...水の行方

  • ラジオが死んだ夜

      ずっと鳴らしていた真空管ラジオがブツッと言ったきり黙り込んだから彼の代わりになるようなものを探しに電気屋に出掛けることにした駅の近くの大きな店ウンザリするほど照明の眩しい… 売場のそばにある自動販売機の缶コーヒーは、必ず欲しくもないのに買って飲んでしまう後味が好きじゃないことだって重々承知のこの頃では御座いますが ビバークのポイントを探す遭難者のようにしばらくラジカセやラジオの陳列を眺めて歩いたけどどいつもこいつもUSBだのSDだの胡椒がウリのフライドポテトみたいなキャプションでずっと鳴らしていられるラジオが欲しいだけなのにクリアーなデジタルなんてなにかいけ好かない結局何も買わずに出てきた 部屋で沈黙しているラジオのことを部屋で沈黙しているラジオのことを 人生で二十七度目に自分をぶち壊そうと考えた時も...ラジオが死んだ夜

  • 腹じゃないものが飢えてる

     表皮を焼くような冬の陽射しの下で蛇玉のようにうろついた焦燥は冷蔵庫の中で鎮魂歌を求める、その下の段で賞味期限を数日過ぎたグラタンが世界を呪いながら変色していく、何も食べたくないと思いながらボ・ディドリー、マガジンの片隅にはポール・ウェラーのニュース、羽虫の死骸でいっぱいの電灯の傘は部屋中に取るに足らない死のコラージュをぶちまける、まるでバラバラになった単語帳みたいだ、ひとつひとつの意味は維持出来てもそれ以上どこにも繋がりはしない、ハムエッグを焼いていたことを忘れたまま数時間が過ぎていた、近頃の換気扇と家庭用コンロの性能には感謝せざるを得ない、これが数十年前ならとっくに消炭になっていたはずさ、もしかしたらそのまま、近所の野次馬に踏み潰されていたかもしれない、いつだって見物してるやつらが一番ふんぞり返ってる...腹じゃないものが飢えてる

  • 永らえる夜の中で

      阿片が微かに香る七月二十五日の秘密の船着き場で一人の男が二人の男に殺され、身ぐるみを剥がれて海に投げ込まれた、雨の前の湿気がそこら中に立ち込めている寝苦しい夜だった、殺された男は異国育ちのいけ好かないヤサ男だったが、女には人気があった、でもそのことと殺されたこととはまったく関係がなかった、殺した男二人はたまたまそのあたりに迷い込んだ旅行者で、一人は大男、一人は小男という、チンピラによくある組み合わせで、ともに小汚い身なりをしていた、その辺で拾ったブロックを幾つか殺した男の身体にきつく縛り付けてから放り投げたのだ、二人はしばらく注意深く海面を眺めていたが、数十分もするともう大丈夫だろうというように頷き合ってどこかへ去って行った、財布はちゃっかり頂いておいた、二人ともしこたま酒を飲んでいたのではっきり覚え...永らえる夜の中で

  • 夜が騙している

      ある日、部屋の灯りをつけないことに決めた、中心部に近い住宅地にあるこのハイツでは、街路の灯りだけで充分過ごせることに気付いたのだ、この街には暗闇が無い、俺はずっと山の近くで育った、そのあたりじゃ陽が落ちてしまうと完全な暗闇と静寂に包まれてしまう、だから、小さな灯りを点けておかないと眠れなかった、暗過ぎるし、静か過ぎるのだ…半年ほどまるで眠れない日々が続いたとき、灯りをすべて消して、あの暗闇の中でずっとなにかを考えていたことを覚えている、でも覚えているのは、なにかを考えていたということだけで、具体的にどんなことを考えていたのかということについてはまるで思い出せない、きっと、そのときだけ飢えていた事柄だったのだろう…考えことをするときは明るい場所でしなければならない、雑誌でそんな記事を読んだことがある、暗...夜が騙している

  • Time Was

      停留所からバスが走り出した瞬間に、ずっと昔見た夢を思い出すような漠然とした感覚が迷子になっていることに気付いた、噛んでいたガムを捨ててあまり混んでいない喫茶店を探す、近頃じゃそんなことさえままならなくなった、餌を食らう牛や豚みたいに横一列になって座る店が増えた、といって、やたらと気取った名前の、注文に時間が掛かるコーヒーなど飲みたくもないし―カップに入った当り前のコーヒーが飲みたいだけなんだ、そういう時はメイン通りから一本、道を外れてみるといい、どういうわけかそんな通りには必ず草臥れた喫茶店が必ずある、ドアを開けるとカウベルの音が聞こえる、懐かしい、俺はジャストな世代じゃないけれどそう感じる、前世からの、あるいは遺伝に組み込まれた記憶なのかもしれない、余裕ブチかましてるソニー・ロリンズのサックスが聞こ...TimeWas

  • 君の新しい詩を

    割れた銅色の薬品の瓶、その中に在ったものが液体だったのか個体だったのかなんてもはや知る由もない、薄墨を適当にばら撒いたような空、季節は駆け足で冬へと近づいた、動かない柱時計が奏でる、いつかの時を告げる音、所詮人間など、記憶に色を付けて生きるだけの砂時計さ、君よ、君は今、どこに居る?いつだって眠っていないような目をしてた、真っ白だった顔色は少しはマシになったかい?そう、話したいことはたくさんある、けれど俺はもう君のアドレスを失くしてしまったんだ、それが故意だったのかどうかなんてもう思い出せない、本当に思い出せないんだ、狂ったように書き続けた、そしてたぶん本当に少し狂ってしまったんだろう、なのにいままでよりもずっと居心地がいい気がする、おかしいねって、花壇のように笑う君が目に浮かぶようだ、貰った銃の玩具にひと...君の新しい詩を

  • The Essential Clash

    TheEssentialClash 眼球を失った蛇たちが寿命を使い果たし住宅地の外れの冗談みたいに小さな公園の砂場に積み上げられていた、冷たく絡まり合った生体のピラミッド、その頂上には神などひとりも居はしなかった、シンパシー・フォー・ザ・デビルがループサウンドのようなアレンジで脳内で再生され続ける午後、ミッシェル・ポルナレフのサングラスをかけた女の脳漿が散弾銃で吹っ飛んでは雨のように降り注いだ、そいつは集められて防腐処理を施されとあるレストランのウィンドウのトマトソースのサンプルになった、サングラスの破片がカリカリに焼けたベーコンみたいになっていて不思議なほどしっくりくることって時にはあるものだと、ギャビン・ライアルの小説を終える頃には夕焼けが近くなっていた、だから鞄に忍ばせておいたさっきの脳漿を取り出し...TheEssentialClash

  • 彷徨いの計器

      床に落ちた鍵には手のひらの切り傷を、コーヒーメーカーは蒸気を吹き上げてる、心臓を病んだ老人の悲鳴のようだ、間接照明のひとつは切れかけている、無音の、ささやかな雷、空気は気象庁が告げたものよりは二、三度は低いように感じる、シフトアップベンチの足元で埃が迷っている、どこかに行ってしまった恋人を街角で探し続ける歌が流れている、窓のそばで女郎蜘蛛が小さな虫を待っている、路面電車の振動、バロウズの寝言、ぼんやりと浮かんでは消えるとりとめもない妄想のせいで、カーテンは虹色の血を流す、レンズの欠けたサングラスとインクの無くなったボールペン、窓の下の小さなテーブルで運命の終わりを待っている、コーヒーメーカ―は仕事を終えて保温以外のすべてを休んでいる、ふたつのマグカップにコーヒーを注ぐ、もう一度注ぎに行く手間が省けるが...彷徨いの計器

  • 壊れた受話器に泣かないで

    壊れた受話器に泣かないで 高速で切り刻まれた、記憶の断片の産卵、街路の水溜りの中で澱んだ紙屑になる、血を感じられない日々の中で神経組織が煙を上げている、いつでもどこか鼻腔が焦げ臭いのはきっとそのせいさ、都市の回転はドラム式の洗濯機のよう、正常に回っているさまを見せつけるためにある…車のホーンが下手糞なシンフォニーを奏でて、安全なはずの横断歩道は渡り切れない者が増える、食料品にどんな値札が付いたって結局は財布を取り出すのさ、それが文明ってやつの正体に違いない、結果的に人々は、マイクロチップを埋め込まれて操られているに等しい、漠然とした共通概念の柔和な支配、無意味な満足感に浸りながらそこかしこで誰もが、すぐに食べられるものばかりで腹を膨らませている、ヒットソングには君が好きで辛いと書いてあればいい、ハイトーン...壊れた受話器に泣かないで

  • 真夜中、路地の終わりで

      歯痒い思いをしたのか、それとも、迫り来る死に抗おうとしているのか、群青色の蛇がバ・ダ・ダン、バ・ダ・ダン、と、鞭のようにしなりながらのたうち回っている、俺は、リズムとしては一貫性の無いそれを、パンク・ロックのドラムのように感じた、でも当然のことながらここにはロットンもジョーも居なかった、イギーだってね…ただぼんやりとした、色褪せて所々擦れたスローガンに、傀儡のように踊らされる連中が徘徊しているだけさ、バ・ダ・ダン、バ・ダ・ダン、お前、いつまでそれを続けるつもりなんだ、まるで歩合制のストリップの踊り子みたいだ―まあ、ストリップのシステムなんて知らないけどさ、本当さ、ストリップなんて俺が生まれたころにはすっかり下火だったんだ、まあ、そんなことはどうでもよくて…俺がこんな真夜中に潰れたバーの並ぶ路地のどん詰...真夜中、路地の終わりで

  • 雨垂れが聞こえ続ける限りは

     死生観のような雨を避けて、廃墟ビルの中で壁に背を預けて座り込んだ、雨音は右心室で染みになり、睡魔に負け始めた俺は次第に薬物中毒者みたいな微睡みの中へと溶け始める、小さな火がそれ以上広がりもせず、だけど確実に少しずつ焼いているような気分だ、靴底が滑り立てていた膝が床に落ちる、湿気た埃は大して舞うこともない…捨て置かれた建築物は半永久的な落盤を想像させる、死に続きがあるのならそれはきっとこんな光景だろうと思わせる、現実はどこかで夢に取って代わられた、雨垂れだけが現実との接点となってじくじくした音を鳴らし続けている、赤子の頃から往生際が悪くて、何度も死にかけたけれどまだこうして生きている、当然覚えちゃいないけれど、きっと生と死の狭間で悪魔と契約でもしたに違いないさ、打ち捨てられた石が泣いている、被服が疫病みた...雨垂れが聞こえ続ける限りは

  • 大仰なビブラートで歌い上げたあとでほんの少し後ろめたい気持ちになる

      愉快な話が夕刊の一面を飾り、行き着くところまで行ってしまった、サイエンティストは次作の時限式ギロチンでこの世からおさらばする、希少価値のある珈琲が豆のまま傷んで、辺り一面狂人の頭部を開いたような切ない臭いが充満している、警官は銃口を覗き込み、ポリスはシリアスに偏り過ぎた歌を叫んでいる、ラジオのボリュームを下げろって、パンクロッカーが歌った歌謡曲が、リノリウムの床で90年代の思い出を掘り起こす、レプリカントは理由を欲しがって地区で一番のレストランのポリバケツをひっくり返している、このご時世、ポリティカルなんてその程度の意味しかないのさ、ミステリーツアーのあとで草臥れたカブトムシの死体、気まぐれに分解してみたけれど確かにゼンマイは見当たらなかった、無自覚と無新景の合わせ技、噛みつこうと思うたびにあらゆるこ...大仰なビブラートで歌い上げたあとでほんの少し後ろめたい気持ちになる

  • とある店で隣の席に居たふたりの会話

       「どうしてた?」「最近は、そうね…虫にたかられてる、ってカンジ。」「それは比喩?それともリアル?」「んー…どっちもかな。」「どういうことよ。」「なんかどうでもいい連中が俺のSNSとかブログとかこまめにチェックして遠巻きであーだこーだ言ってんだよ。ウザくてしょうがない。」「…なんか前にもそんなことなかったっけ、君。」「前の職場でもあったね、何回も。まぁねぇ…詩のスタイルがスタイルだから、そういう誤解を生むのは仕方ないってのはある程度理解してるんだけど。」「大変だねぇ。」「Xの雑談垢は鍵かけたよ。とにかくあいつら俺が自分の話してると思い込んでるんだ。なんの関係もないポストまで上げ連ねてウジウジ、ウダウダ。まったく鬱陶しい。」「かける言葉もない。」「だいたいブログなんて2007年からやってんだからさ、ちょ...とある店で隣の席に居たふたりの会話

  • がらんどうの部屋の抜殻

      結局のところ、残されたのはがらんどうの部屋のみだった。北に空いた窓から、曇りがちな今日の午後の光が遠慮がちに忍び込んでいるだけだった。気づかなかったけれど、午前中には少しの間雨が降ったらしい。窓から見える景色には、そんな痕跡は少しも残ってはいなかったけれど。しばらくの間、予定をすべて忘れてしまったみたいにその部屋の中で呆けていた、時折車や自転車が、ここがまだ現実の世界であることを教えるためだけに通り過ぎていた。窓の外では忙し気に巣を修繕する女郎蜘蛛が居るだけだった。何も考えずにそんなものを眺めていると、自分の身体が奇妙な浮遊感に包まれている気がした。突っ立っていただけだったけれど、もしかしたらいつの間にか頭を下にして浮かんでいるのかもしれなかった。いや、そんな筈はない。二、三度足踏みをして、その不思議...がらんどうの部屋の抜殻

  • ブラッシュアップ症候群

      充血した眼球は茶褐色の世界を眺めていた、時計は高速で逆回転を続けそのくせ何ひとつ巻き戻されてはいなかった、四肢の長過ぎるアビシニアンが毛玉対策を施した餌を欲しがってはガラスのように鳴き続けていた、毛細血管の悲鳴が一斉に聞こえ過ぎて交響楽団のようで、洗い桶に伏せられたマグカップからは新鮮な血液が滴っていた、カーテンは太陽光に焼かれてティッシュペーパーのように燃え落ちる、電気ポットの熱湯をぶちまけて消火すると消炭と歪な布だけが残った、太陽を眺めたくなかったので窓はベニヤ板で隠した、三十度越えの九月が脳味噌を綿菓子にしてしまう、なにひとつ面白くないジャック・ルーシェのピアノ、気が付けば一日中聴き続けてしまった、夢を見るためにどうのこうの御託を並べるやつは嫌いだ、その逆も然りだ、鉞で一角獣の頭蓋骨を叩き割れば...ブラッシュアップ症候群

  • Growth

     室外機のうねりのようなノイズが脳髄をずっと拡販している、まるで呼吸しているみたいなそのリズムで俺は灰色の影法師が踊り続ける幻を見る、真夏の太陽の下に居ても曇天が続いているような…動乱、人生はそいつと向き合ったものだけが先に進むことが出来る、かすれた喉が時々泣いているような音を立てて、靴底が踏み荒らした砂場にはなんの手応えも無い、無駄を排除することが美徳なんだって?冗談じゃない、一生などほとんど無駄なもので出来ているのだ、ものを持たない暮らしなど見晴らしがいいだけで何も生み出すことは出来ない、無駄を恐れるな、無駄の中に飛び込まなければ、何が無駄じゃないのかってこともわかりはしないのさ、もう使われていない公衆便所のトイレットペーパーを引っ張り出して、同じリズムをずっと書きつける、これは最後まで書き切ったら「...Growth

  • 寝不足

      あなたの指先に出来た小さな傷は血が流れるまであなたにそれを気付かせはしないだろうあなたの内奥に苔のようにこびりついた疲労は夜更けのベッドの上で初めて口を開くだろう 聖なるものは狂ったように正しさを説き裁判官は定められた基準によって罪人を矯正する見るからに怪しい薬をメディアが誉めそやし注射に並んだ連中が赤黒く腫れて死ぬ ぼくは今夜の夢を深層意識で操作していっさいの罪の在り方を書き換えてしまうオリジナルの軍隊は既存の価値観を駆逐してしまうそれには結構な時間がきっとかかるけれど 勉強してます、求道してますだれかの素敵な文脈のコピーに夢中になって澄ました顔して無難なものを静かに並べるなんて御免ね、ぼくにはちょっと性に合わないんだ 零時になると聞こえてくるヒス、ヒス、ヒス・ノイズ耳栓なんかじゃ到底塞ぎきれないぜ...寝不足

  • 白んだ月

      烙印が穿たれたあとの血肉は消炭のように砕けた枯れた谷底の川底を舐めながら、ひととき黄色く発光する月を見上げて撃ち落としたいと望んだ薄い靴底は尖った岩を踏む度にそのかたちを伝えいちいち小さな悲鳴を上げさせたまだ秋とも呼べぬような秋の始めどこかに潜んでいる筈の生きものたちは声どころか気配すら感じさせはしなかったここは、もしかしたら輪廻から外れた地なのかもしれないいつから食ってないのか思い出せなかった死にそうなほど飢えていることに気付きもしないままで居たジリ貧獣でも現れればいいが手持ちの武器は疲れ果てた身体だけだったあの日聞こえた泣声は本物だったのだろうか確かめる気も、少し考えてみる気にもなれなかった酷使し続けた膝が悲鳴を上げた大きめの岩を見つけて座り込みいまが乾季で良かったと胸を撫で下ろすだけだった 夢は...白んだ月

  • この夢のどこかに

      蝋細工の、人間の形をした名前の無い紛い物が、夏の温度によって次第に溶け瘦せ衰えていくさまを記録した短いムービーが、失われたシアターでリフレインされていた、それにはBGMどころか音そのものすら記録されてはいなかった、サイレント・ムービーというやつだ、いつ頃作られたものなのか、誰が作ったものなのか、情報としてなにひとつわかるものはなかった、そしてなぜ、この映画館でなければならなかったのか―劇場としての価値はとうに失われていたはずだった、客席の椅子はすべて取り払われ、タイルが割れて下地が剥き出しになったでこぼこの床があるだけだった、スクリーンはかろうじて残ってはいたが、映像を映し出すのに最適な状態とは言えなかった、スピーカーは生きているようだったが、このムービーには何の意味も成さなかった、時折乱れる画面はそ...この夢のどこかに

  • Transit Time

      錆色の夕陽が世界を、血の雨の跡のように見せる頃、ゴム底に画鋲がひとつ刺さったスニーカーを履いて、ぼくは巨大な工場が立ち並ぶ海の近くの道を歩いていた―なぜ画鋲を抜かないのかって?それはゴム底を貫いて足の裏を傷つけるには少し長さが足りなかったし、アスファルトを踏みしめるとき、奇妙なグリップが感じられてそれが新鮮に感じられたから…まあ端的に言えば、結構気に入っていたから、という答えになる、旅をしていた、駅を見つけられれば電車に乗り、気まぐれに降り、気まぐれに歩いて―どこかに行きたいわけではなかった、ただただぼくは、移動し続けていたいという衝動をどうにも抑えられなくなってしまったのだ、ダラダラと続けていた安いアルバイトを辞めて、恋人に別れを告げて、大事なものだけを持って旅に出た、もう一度この街に帰るつもりなの...TransitTime

  • ああ、次の波がもしも爪先にやって来たら

      海の彼方で揺らめいていた狐火がいつの間にか消えていたので、千枚通しで手のひらの真ん中を思い切り貫いた、その刹那、激しい火柱が世界を二つに分け、それからそれまでと同じ暗闇と静寂が訪れた、そう、狐火は消えてしまったのだ、ずっと眺めていたのにいつの間に消えたのかまったく分からなかった、だって星のない夜、月は黒雲に隠されている、大型で強い台風がゆっくりと移動している、この季節になるとお決まりのように天気予報が繰り返すニュース、もしかしたら誰も歳など取ってはおらず、同じ季節を繰り返してるだけなのかもしれないなんて、そんなまやかしを信じてみたくなったりもするさ、けれど、人生の中で何人かは居なくなったし、やはり時間は確実に経過しているのだ、人生は一回きりの横スクロールゲームさ、好みじゃなかろうが飽きてしまおうが画面...ああ、次の波がもしも爪先にやって来たら

  • ハード・レインを待ってる

      錆び色に暮れかけた綻びた路上に抱かれて、お前は静かに雨を待っていたんだ、記憶や宿命、そんなものに纏わるすべてを穴だらけにして排水溝に飲み込んでもらうために…一日はうだるような暑さだった、世界中が陽炎に揺らいでいるみたいだった、人々は汗に苛立ちながら…それでも役割をこなしたり求めたりして右往左往していたんだ、一昔前よりは幾らかカジュアルになったドレスコードに絡め取られながら…長く緩慢な悲鳴のような酷暑、朝の食卓のお祈りさえもほんの少しアップビートになっていた、肌と内臓を焼き尽くされ…ありえないほどの長い時間、ただ水を飲み干していた、世界が暑くなっているわけじゃないのかもしれない、ただ人間がそれに弱くなっただけなのかもしれない、自分が指先ひとつ動かすことなく快適な温度を手に入れる、そんな暮らしに慣れ過ぎた...ハード・レインを待ってる

  • 銃弾はひとつだけでいい

      白蝋病の脳下垂体が午睡の最中に揺蕩う夢は、可視光線の乱舞の中の血の華、難消化性デキストリンが渇いた腸を掻き回す、グリアジンの気紛れな呪詛、五臓六腑で踊り出す、偽造通貨が廃棄物処理場で網膜に焼き付ける断末魔は、電化機器の白濁から滲む蜂蜜色の油みたいで―ベズレーに残された御伽噺のような空、コルトレーンの戦慄の中で膿む、客車の制限された長距離列車の中で結合双生児は互いの望み通りに、そうさ、ドレスデンベッドにはまだ空きが無かった、看護師達はステンレスの洗面器を手に乱闘を始める、リノリウムの廊下はまるで人体の見本市だ、甲虫の群れは曲り角で休息を決め込んで青銅色の煙草を吹かしている、金属音めいた発声で喋る老婆は時折咽込みながら同じ言葉を繰り返す、袋小路の百鬼夜行、百足の背のようにのたうちながら―精魂尽きた鼠達は屋...銃弾はひとつだけでいい

  • ノイズの中でなら上手く眠れる

      求めているのは本当は音楽ではなく、無軌道な音の集まりなのかもしれない、それは一般的には、ノイズと呼ばれるようなものかもしれない、でもそれには制約が無いし、衝動について語る手段としては、最適なものだと言えるだろう、物事にはすべて役割というものがある、境界を超えようと試みるものは、本来役割とは関係のないようなものに目を向けてみなければならない、慣れ親しんだ形状、ジャンルのはっきりしているもの、流通を目的とした仕様…ずっと同じものの中に浸かっていると、音という基準に気付かず音楽ばかりを求めてしまう―言葉が始まった時の単語、音楽が始まった時の旋律、衝撃などでなくてもかまわないのだ、同じものを見つめ続けて澱み始めた目を再び見開かせてくれるものなら…そういう意味では俺がこのように書きあげようと試みている新しい文章...ノイズの中でなら上手く眠れる

  • 夜は明けるのだという寓話

      死んだ草が風になるのを待っている道の秩序をソールで滅茶苦茶に荒らしながら歩いた深い湿気のもやが身体中にまとわりつく携帯プレイヤーのバッテリーは音を上げ音楽は記憶の中だけでコードを探し続けていた いつか夢の中で見た湖が思い出のように偽装されていて脳髄の片隅でそれを探し続けているような日々あてのない足音の残響はどこへ向かうのだろう願わくばそれがわたしの生活の余白でないことを綻びた爪を噛みちぎったら舌先から血が流れた 電気機器が立てるような小さなノイズはきっとわたしの生命活動の音だろう表示されないカウンターが心許ない明日をなんとか確実なものにしようと汗をかいているのだ廃棄されたスクーターのボディを包む結露のように静かに、懸命に あなたは生きた子猫の舌を抜いたわたしはそれをオリーブオイルで炒めた許されざる調理...夜は明けるのだという寓話

  • 勝手にやらせろ

     寝惚けたお前の目が見開かれるくらいに猛烈なやつをぶっ放そうか俺はフラストレーションの岩石になってるどこかにはけ口を求めてるのさ 指先の些細な痺れが気になる足のつま先の痛みはいつの間にか引いたアレルギーはいまだ根を下ろしていて薬を飲まなければ落ち着いて眠れない 誰が始めたんだ虫が好かない夜だ執拗な湿気の中雪の中で佇んでいた廃墟のことを思い出してる 捨てられたものみたいに生きたい続きとも終わりとも思えぬ釈然としない美しさ俺たちはそんなものに勝てることはない 俺の憎悪は目標がはっきりしないおそらくはそれはいつだって自分自身なのさアイワナベーキルミーパンクの始祖はそう歌ってた中指を立てたりはしないがぶっ殺したい気分は確かに同じなのさ 寝惚けたお前の目が見開かれるくらいに猛烈なやつをぶっ放そうか向上心は決してポジ...勝手にやらせろ

  • 咆哮の特性

      街では亡者たちがうろついてる目的を忘れた間抜けたちの群れだどんなに掃除をしても街路は汚れ続けるどんなに愛が溢れても醜い憎悪に変わる焼き立てのパンにピーナッツバター幸せの理由なんてその程度しかないあっという間に埃まみれになる床に掃除機をかけながらラジオで流れる交響曲に唾を吐きかけてる女は鏡の前から離れない悪い酒を飲んだみたいにうっとりとしている何かを塗るたびに喘ぎ声を出してそいつが耳障りで仕方がないんだ 紋切り型の正義しか守れないそんなやつらが万引き少年の利き手を手首から切り落とす夕方石畳にパッと赤黒い花が咲いてそのまま放置された少年の泣声は明方まで続くだろう悪が悪を裁いたところでなにが生まれるんだ世界大戦のあとで変化した事柄について思い出せないのかい皆俯き加減に、聞こえない程度に毒づいてオンラインゲー...咆哮の特性

  • 永遠には生きられないけど

      地面に伏した死体は若い女のようだった。なぜそうなったのか、もう判断もつかないほどに腐敗しきっていて、鮮やかな配色だっただろう衣服ももう、全身から溢れ出した体液に塗れて汚物のような色味に変わっていた。以前、レストランの厨房で働いていた時、鼠の死体を処理した午後のことを思い出した。まだしっかりと形を残していたそれは、自分の手の中で砂のように崩れて薄汚れた毛の塊になった。あの時俺の中でいくつかの生が、鼠の死に持っていかれたのだ。人は死を前にした時、無意識に共に逝こうとするのだろうか?古い記憶だった、今更思い出す必要も特にないような―けれどあの、冷蔵庫の裏で眠っていた鼠が語った死は、後に死んだ父親の死よりもずっと、俺の心中に死というものを克明に植え付けていたのだ。だからきっと、忘れてはいなかったのだろう。あの...永遠には生きられないけど

  • ダムド・ライフ・シカエルボク

      自家中毒のなれの果て、日常の澱の中で、粘着いた息を吐きながらのたうち回る断末魔の蛇のような精神世界、床に食い込んで剥がれた爪に赤い軌跡が続いている、服毒に似た衝動、あらゆる歪みの中で、真直ぐな線こそが逆に忌わしく見える、叫びは内臓に食らいつき、命は常に喀血のような鮮烈さと代償を求める、俺は傀儡になったのだ、詩情という化物の…ギロギロと眼は次の犠牲を探し、呼吸は浅く、といって心は奇妙なほど静かに、道化ほどに言葉を撒き散らす俺を黙って見つめている―自ら選んだ行だろうと―ああ、その通りだ、俺は初めから分裂していた、年端も行かぬころからこの胸の内に、内なるものの目玉を、視線を感じて生きていた、透明な存在、なんていうのが90年代からの流行かね?そんなことは知ったことじゃないが…感情はいつでもそいつの背中に隠れて...ダムド・ライフ・シカエルボク

  • 誰かが遠くで笑ってる

      路上に散らばった散弾銃の薬莢を拾いながら朝早くから昼過ぎまでずっと歩いていたんだ、それが本物かどうかなんてことはどうだってよかった、サバイバル・ゲームに使われるチープなものだって全然かまわなかった、ただそれが薬莢っていう概念のもとに存在しているものであるのなら紙細工とかでもかまいやしなかったさ、どうしてそんなことをしていたのかって?理由なんて説明出来るほどのものはなにもないんだけどね、そうだ、ただ、あの日は朝からとても退屈していて、それを道端に少しずつ散らばっているのを見つけたそいつを拾い集めて歩くことが、その日俺が手に入れることが出来る最高の娯楽のような気がしたからさ、事実、そんな予感に間違いはなかったよ、そんなことを一生懸命やっている間、俺はどんなことも考える必要はなかった、それだけがプログラムさ...誰かが遠くで笑ってる

  • 照準鏡の軋む声を

      閉じかけた本の中に、切れ切れのラジオの電波に、街路にこだまする無数の生業の中に、隠れている、隠れている、引き攣った神経の残響に、レールを軋ませる列車の速度計に―伝令は駆け巡る、宛先も無いのに、沢山の警告と叱咤、一時保管所の中で煙を上げている、お前は真実という名の下着を探して街中の試着室を引っ掻き回す、俺はアブサンの酔いの中であの世の冗句を思い出そうとしている、いつかきっと、遥か昔に、誰かに直に教えてもらった筈だった、でも挨拶の言葉以外何も思い出せない、酔い過ぎたのかもしれない、あるいは、もっと酔わなければいけないのかもしれない、俺という個人の境界を踏み越える、どんな手段で?形振り構わぬ姿勢であるほど門番は笑ってくれる、きっとそういうものだ、ソファに座っていたのか、それとも冷たい床の上か―記憶が記憶でな...照準鏡の軋む声を

  • 詩情よ、その街路を

     粗悪な要素は瞬く間に蔓延する、そうなったらもうどうしようもない、知らない振りをして、絶対に巻き込まれないように細心の注意を払わなければならない、流されるものはつるんで騒ぎたがる、デシベルの値と真実が比例するとでも考えているみたいに、不治の病みたいなものだ、それで死ぬことは無いけれど、二度と正常な状態に戻ることは出来ない、どうしてそのようなものばかりが感染するのか?答えは簡単だ、単純明快、思考を必要としない、一番簡単な印象に飛びついて結論づける、考えるタイムラグが無い分あっという間に決定する、ひたすらに脳味噌を求めて徘徊するゾンビのようにね、ああ、ジムジャームッシュ、あんたはとても正しいことを言ってるよ、俺は絶対にあの映画を否定したりしない、明け方間近、薄暗い部屋の中で胡坐をかいて、ボヤのように白々とし始...詩情よ、その街路を

  • しらふで死にな(毎日は降り注ぐ)

      まとわりつく蛆のような概念を振り払って重湯のような朝食を啜ると世界は絨毯爆撃みたいに騒々しく煌めいていてウンザリした俺は洗面台を殴り殺す、拳に滲んだ血はホールトマトの缶詰を連想させたので昼飯はパスタにすることに決めた、けれどグリアジンのアレルギーだから決めてみただけだけど、要するに大して意味の無い話ってことさ、起き抜けにポイントなんか取りに行ったってしょうがねえだろ、10年近い眠りを受け止め続けてマットレスの寝心地はまるでグラスファイバーだ、ろくな夢を見ない原因はたぶんそんな物質的な原因のせいなのさ、唾でも吐こうかと思ったがまだ部屋の中だった、もしもこの世界に聖地なんてものがあるとするならばそれはここだ、もちろん、俺が契約している間はということだけど…近頃10年なんて気が付いたら終わっちまってる、喉に...しらふで死にな(毎日は降り注ぐ)

  • だからもう一度、初演の舞台の中に

      凝固した毛細血管のような形状の幻が網膜の中で踊る午後、飛散した詩篇の一番重要な欠片で人差指の腹を切る、往生際の悪い具合で滲む血の赤は、どういうわけだか若い頃に会うことが無くなった誰かのことを思い出させた、手のひらで傷を拭うのはやめて、それはいつだって傷をより広げてしまう、冷たい水に浸して、そこだけが緩やかに死んでいくのを待っているのが本当なのに、裂傷は一番古い記憶とリンクする、奥底にしまいこんだまま、中に何が入っているのかも忘れてしまった小箱、そんなものの中に入っているガラクタのようないくつかのコード…噎せ返るような初夏の午後、飛びつかれた羽虫みたいにじっとして、ただただ時間が汗に変換されるのを待っている、どうでもいいことに違いない、指先の傷だの、しまいこんだ記憶だの…だけど人生のほとんどはどうでもい...だからもう一度、初演の舞台の中に

  • 狙いをつけるのは銃弾の役目じゃない

     硝子細工の汚れが気になって仕方が無いが触れると壊してしまいそうな気がして手を出せないままでいる、世界は今日もそんな類の平穏で満ちていた、十五年は前の歌ばかりうたいながらシンクに転がっていた皿を片付けるとようやく今日やるべきことのほとんどが終了した、だからワードを叩き起こしてシリアスの真似事をしているというわけさ…なに、もっと低俗なごっこ遊びに夢中になっている奴らだってごまんといるさ、選択肢はいつだって用意しておいた方がいい、もしもなにもかもを素直に信じ込んで取り返しのつかない傀儡になるのが嫌ならね…遮光カーテンを動かさないせいでまるで把握出来ないのだが、まだ天は煮え切らない薄雲で満ちているだろうか、それとも予報の通りに少しは光が増しているだろうか?確かめることも出来たけれどしなかった、どうせあと一時間も...狙いをつけるのは銃弾の役目じゃない

  • ダウンフォース

      空中にばら撒かれた葉脈のような物体が痙攣のように蠢いている、そんな幻を見つめているうちにいつの間にか数時間が経過していた…数時間が―右手の人差指の爪で目の脇を掻いたら細かい傷がついた、血すら滲んでいた、だから爪を切る事に決めた、爪切りの音というのはどうしてあんなに間が抜けているのだろうか?いくら考え込んでも答えが出るような話ではなかった、爪を切る音になにかしらの違和感を覚える方がどうかしているのだ、そんなものにどんな意味も求める必要はないというのに…疑い始めるとなにもかもがおかしく感じてしまう、現象そのものの綻びを求めるようになる、自覚がないままに血眼になって、変異の地平をうろついてしまう、時々なんて厄介な性分だろうと思う、けれどそんな逡巡の中で、幾つかは誇るべきものも手に入れてきたというのも事実では...ダウンフォース

  • それだけが

      羽虫が渦を巻く屋根裏の寝床で産まれた産声はか細く皆がこの子は駄目だと思ったけれど乗り越えた四つになるまでは臥せってばかりだったけど 学校には馴染めなかった教師とも級友とも合わずそのわけもわからぬまま一人で居られる場所を探した使われていない教室とか閉鎖された屋上へ上がる階段の踊り場とか学校に足を踏み入れるとそこから一日動かないことだってあった ある日、彫刻刀で校庭で見つけた鼠の死骸を丁寧に解体した皮膚を、筋肉を切り裂く感触に不思議なほど昂ぶりを感じたでもそれだけだった何度も許されることではないとわかっていたから 鼠をそれからどうしたのかよく覚えていない そんな季節が終わり街に放り出された人に会う必要のないバイトを選んでどんな実感もないままに暮らしたこれが人生というものなのか時々はそんなことも考えたけれど...それだけが

  • 記憶は決して温まることは無い

      湖に浸したあなたの肢がいつかの母親と同じ色になるとき水鳥は穏やかな声で鎮魂歌を歌う水面のさざめきは最期の指先 朝日の差し込む、もう動かない台所その食卓に並べられた写真はもうどれが誰かもわからないくらいに色褪せて生きもののようにざらついた砂に埋もれようとしていたわたしはそれ以前の墓標のようにそんな風景をいつまでも眺めていたのです 森の中にはいつでもヴェールのように薄い霧が立ち込めてあなたはまといつくそれに身震いをするでしょう濡れた空気の中では幾度わたしが叫ぼうともその声があなたまで届くことはないでしょうわたしは熊のようにあたりを屠りながらいつか霧が晴れることを信じて待つでしょう 子守唄が正しく思い出せないのは、いつだって眠ることが楽しかったころに聞かされたものだからあのときのような目覚めはもう無いのだと...記憶は決して温まることは無い

  • 様々な窓に明かりが灯され、生活は展開されていく。

      心魂に付着した闇色の血液が何時のものなのか思い出せない、長針と短針と秒針の間で削がれていく記憶、瓦礫に埋もれた不完全な頭蓋骨は途方も無い親近感の中で賑やかに煌めいていた―夕刻、イメージは常に無意味に、破滅的な意志だけを雄弁に語る、どこかの台所から漂う夕食の準備は、義務的な幸福を食卓に並べ立てる、偽物の笑顔ばかりが踊る候補者たちのポスターのように…何もしないで居る、窓は老人の口のようにだらしなく開かれている、幾つのものを掬い出せたか、血肉に埋没する懸念と後悔、使い道の無い建造物のように背後に佇んでいる、無数の、小さな蝶のように現在が辺りを飛び交っている、運命の瞬きのように視界がちらついて居る、まるで経文を思い出せない坊主だ、白紙の文書に勝てる思想は皆無かもしれない、穏やかに見える川の流れほど、底を撫でる...様々な窓に明かりが灯され、生活は展開されていく。

  • mechanical ventilator(人工呼吸器)

      世界は崩れ落ちたりなどしない、その中で右往左往する無数の個が、語ることもままならず腐り落ちていくだけだ、眠ることのない二四時、薄暗がりの部屋の中空にそんな言葉が捨て置かれていた、後頭部を包み込む枕の感触は俺をこの世にどうにかして留めておいてやろうという慈悲に満ちていた、今夜は夢を拒否するだろう、そんな予感がしていたがだからといって一度横になった身体を再び起こしてなにかを始めようという気にはなれなかった、昼間にはすっかり春になったかと思えるような暖かさがあったけれど、時計が日付変更線に近付くにつれて、熱を忘れたかのように辺りは冷えていた―こんな夜は何度もあった、今よりももっと闇雲で懸命だった青臭い時代には…クロニクルは天井で繰り広げられた、でもそんなものには何の意味もなかった、記憶など所詮他人事と同じよ...mechanicalventilator(人工呼吸器)

  • 刺激のあるものが食いたいって誰もが思うけど

      何処に行こうが何をしようが自分に出来る以外のことは出来はしない落ち窪んだ目をかっ開いてその瞬間の最善の選択を 日曜日、朝六時路地裏でカサカサになった雀の死骸を見下ろしていたすぐそばを歩く一匹の蟻もまるで興味の無い様子だったまるで地面に描かれた絵のようだった、雀奇妙なほど暖かい春の朝だった コンビニで手に入れた切り刻まれた手紙復元してみたら殺害予告だったどうしてそんなものを捨てなければならなかったのか?「殺」という字を間違えていたせいかもしれないそれはある意味で衝動というものの象徴的な表現だったのかもしれない 二年ほど精神病院に入院していたことがある友人Tは先週救急搬送されて戻ってきた時には右手を失っていたなんでも水炊きをしている最中に突然それを鍋の中に突っ込んで一時間放置したらしい「痛みも熱もまるで感...刺激のあるものが食いたいって誰もが思うけど

  • Wake Up Dead Man

      通り過ぎたのは生温い風だった、不規則で断続的な眠りの中で疲弊した網膜は、在りもしない滑稽な幻覚を見ていた、十六時…関節のあちこちで氷河期のような軋みが聞こえ、まるで鉄の鎖で拘束されているかのような重さと気怠さが身体にはあった、きっと、その縛りを隙間なく絞めつけたのは、俺自身に起因する何かだったのだろう―空は雪の日のような曇り方をしていた、普通に考えれば、ここいらの地方で三月に雪が降ることなど考えられないだろう、けれど、俺はまだ四月に雪が降ったことがあるのを覚えていた、もう二十年以上前の話だ、だけど、この世界に絶対はない、人が何かを信じることには力が在ると言われる、だけどそう、そんな思いで例えば異常気象を阻止出来ると考えているなら、そいつはきっといかがわしい宗教の信者かただの妄想狂に違いない…どうしてこ...WakeUpDeadMan

  • 挑むのなら本気で

      シャンパンが染み込んだカーペットが君の面影でぼくは枯葉色のバスタオルの中で串刺しにされる夢を見る世界はいつだって午前二時で救急車は死体を運ぶのに忙しい風の噂が耳に届くころにはお悔やみの言葉を用意しておくべきかもしれないよ スターバックスのそばで目つきのおかしい男が立ち尽くしていたそいつは少なくともぼくがそこを歩く間微動だにしなかった客席の窓に背を向けて立ってコーヒーにはまるで興味がないみたいだった手ぶらだった車道を見つめていた見つめるものだけが決まっているみたいだったぼくは黙って通り過ぎたが彼がこころを奪われているものがぼくがいつも言葉にしているものなんじゃないかってそういう気がして仕方なかった 街角は今日も掃除が行き届いていて晴れた日の深呼吸みたいな佇まい体型の崩れた男たちや女たちが自尊心だけを頼り...挑むのなら本気で

  • In the next life

      夜の在り方は本当に様々で術無き者たちは剥がれた鱗のように路上に散らばっている、誰かが有名な曲のメロディーを口ずさんでいたけれど音感はいまひとつでそれがなんというタイトルだったか思い出すまでには至らなかった、空気は山中のトンネル内に漂うそれのように冷たく湿気ていてまとわりつくようだった、夜を本当の自由だと言うものが居る、本当の絶望だと言う者も居る、どちらかなんて決められるわけがない、それを感じるのはひとりひとりの心中に息づく理由なのだから…自動販売機を見つけたけれど飲みたいものは売り切れていた、もうずっと、少なくともここ二週間はずっとそうなのだ、販売元の理由なのか、設置している側の事情なのか、特に何の説明もないままに売切れという赤い表示が浮かび続けている、故障なのだろうか?そんな筈はない、とにかく長い間...Inthenextlife

  • 炎は繁殖期の蛇のようにのたうっている

      天井の亀裂につけられた名前は俺と同じだった、衝動的な絶望が蝗の群れのように襲い掛かって来る、大丈夫…少なくともそれには鋭い歯はついてはいないさ、午後、化粧板を張り合わせた室内ドアのような、午後…俺は良くも悪くも、そんな午後には慣れっこになっていた―良くも悪くも―ハエトリグモが用事を思い出そうとしているみたいにうろうろとしていたが、俺の気配に気づくと踏み潰されないように次第に距離を取って、いつの間にか家具の後ろへと姿を消していた、極めて人間的な行為だ、と俺は思った、臆病な人間は背中へ背中へと回るものさ…何かが延髄に刺さったような感触があったけれど、アナログの壁掛け時計が一分進んだだけだった、デジタル時計が詳細に映し出す時刻は好きになれない、一分一秒、おまけに気温や湿度まで…時計にそんなものを教えてもらう...炎は繁殖期の蛇のようにのたうっている

  • なにかを考えるとき、もう時計に目をやることはないだろう

      聞いた話によるとそこはもう数十年も前から打ち捨てられた廃屋ということだった、縁がすっかり落ちてしまった扉はしばらくぶりに開かれた重みに耐えきれず落ちてしまった、おかげで危うく怪我をしてしまうところだった、失われた街の一角で動けなくなろうものなら、誰にも見つけてもらえるわけもなく、あっという間に街に飲み込まれてしまうだろう、がらんとした聖堂には高い窓から日が差し込み、ヘヴィ・メタルのジャケットのような大仰な静謐を演出していた、耳をすませば今でも真面目くさった聖歌が聞こえてきそうだった、と言っても、たくさん並んでいる椅子はどれも、とても座りたいと思えるような状態ではなかったけれど…すべてが火山灰でも食らったみたいに色褪せ、ザラザラしていた、牧師が聖書を乗せる台では頭の潰れた雀が死んでいて、さながら黒魔術の...なにかを考えるとき、もう時計に目をやることはないだろう

  • ブラッド・メイクス・ボイス / ホロウ・シカエルボク

      お前は詩を読んだことがあるか、あるいは書いたことがあるか?自分を自分たらしてめているものについて、衝動的に言葉をぶちまけたことがあるだろうか、身体の中心から、お前自身を引き摺り出そうと試みたことが…言葉を綴る時、言葉で知ろうとしているのではない、そこから喚起されるイメージが無意識下で形を成していく、その、知覚しえない成就を夢見て、詩人どもは言葉を吐き出し続ける、理論やスタイルではない、本物の詩人たちのことだよ、真っ当な理由によって言葉に立ち向かうやつらの話さ、何故書くのか?詩人など時代遅れだ、何もかもGoogleやWikipediaで知ることが出来るこの現代社会で、情報として整理されない羅列はもはやなんの意味も成さない、詩人など時代遅れだ、もしかしたら、書く、というその行為すらさえも…液晶画面に表示さ...ブラッド・メイクス・ボイス/ホロウ・シカエルボク

  • ある日、なにもかも塵のように

      身体はいつしかカサカサに乾き、指先から紐が解けるように崩れ落ちていった、それは一瞬のことだった、それが死というものだなんて思えないくらい簡単な、あっけない結末だった、そのせいかどうかは知らないが、俺の意識はぽつんとその場所に取り残された、致し方ないことだと言えた、死を理解出来ない、体感出来ない人間はこの世に霊魂を残してしまう、そんな話を昔聞いたことがあった、そして、いまの俺がまさにそれだった、なんの前兆もなかった、痛みも、苦しみも…ただ誰かの、例えるなら神様の気まぐれでそんなことになったというようなお終いだった、俺は俺の死を見ていた、つまり、事前に身体を抜け出していたのだ、それが、よく言われる本当に苦しい時は意識が飛ぶといったような防衛本能のたぐいだったのかはよくわからない、だいたい、霊体が肉体を完全...ある日、なにもかも塵のように

  • 壊れてからがとても長い

      カタコンベの中でしりあいを探す夢を見てた夕方のうたた寝、目覚めの為に入れたインスタントコーヒーはどこか素気なくて、俺は、さらに首を伸ばすのかそれとも殻の中に戻るのかと悩んでいるカタツムリのような気分で、ソファーの上で空気のノイズに耳を澄ましていた、夕刻は一日の死だという気がする、それはきっと夕陽が、柔らかな炎のようにあたりを染めるせいだろう、手元にあったアドレス帳を開いてみる、そこには誰のアドレスも書かれてはいない、先週の散歩の途中で気まぐれに買ったものだ、でもきっと、誰かにアドレスを尋ねるつもりなんてまるでなかったんだろう、近頃は書きとる必要すらないし…時々そんな風に、理由も用途もないままにテーブルに放り出されるだけのものが増える、たぶん俺は、どこかに無駄を作りたいのだ、人生に合理性を求めるやつは馬...壊れてからがとても長い

  • verification

      凍った湖面が反射する太陽のような兆し、隙間だらけの部屋の中で俺は、雪崩のように落ちていく古い数々の感情を見ていた、時間の仕切りというものが皆無で、そこは過去でもあり、現在でも未来でもあった、真理とはいつだって幻みたいだ、それはどんな思考も、行動も、限界も存在しない瞬間にこそ訪れる一瞬の閃きだ、それにどんな名前を付けて、どんな引出に投げ込もうと勝手だけれど、時が来たら捨てなければならないということだけは忘れてはいけない、それは誰かの写真のように、いつだって同じ顔でこちらを見返してはくれない、自分の、あるいは状況の変化が、そいつの、色味や形状、あるいは意味合いを変えていく、より深い意味を持つこともあるし、まるで意味の無いものに化けることもある、そしてそれはどんな場合においても珍しいことじゃない、手に入れた...verification

  • ニュー・イヤーズ・バット・オールド・イヤーズ

    ニュー・イヤーズ・バット・オールド・イヤーズ 何も始まったりしない何も終わったりしない俺たちがその時々で都合のいいものを拾っているだけなのさ 凍てついた街路野良猫の悲しみがセンターラインの上で真っ二つに裂ける深夜未確認飛行物体は誰にも気づかれることなく時計台の向こうへと消えていく、おお、エイリアンもう君の存在はホットじゃない 笑い方なんてとうに忘れた素直な涙の流し方も打算を利口だと信じ込んで人々は明日も満員の電車に乗り込む 流星群の夜にしかもう誰も空を見上げたりしないファンタジーさえもインスタントに扱われる世界タップして手に入る現実の軽さしかもう若者たちは受け止められない 何も始まったりしない何も終わったりしない時間がかかっていたことが簡単に済むようになって人々は考えることを忘れてしまった車道で死んだ猫の...ニュー・イヤーズ・バット・オールド・イヤーズ

  • 幽霊は死なない

      泥にまみれた古い金貨を拾い上げて水溜りで洗った鈍い輝きは人々がはるか昔から同じ夢を見ているのだと歌う そいつをポケットに入れて自然公園のベンチに腰を下ろし出鱈目な口笛を吹いていたポエジーはとめどなく零れ落ち掬い上げる暇さえなかったコートの袖はほつれていて強い冬の風で踊り続ける糸くずはしょっちゅう気持ちの悪い虫のように見えた 商業利用されるジョンレノンの終わり 数日前この地方には珍しいほど降り注いだ雪のあとが歩道橋やビルの合間で蓑虫のように死のうとしていた世界は常に塗り替えられるろくに変われないのは人間たちばかりさ 川岸すれすれをずっと走っているボートなにかを探しているのだろうかそれともボートで居ることに飽きたのかだとしたら随分未練がましい行為だ冷たい横風を受けながら橋を渡ると太陽の光は壊れた万華鏡を覗...幽霊は死なない

  • 自由形のパレード

      サーカスが過ぎ去った後で、俺の網膜に刻まれた鮮やかな灯りの記憶、操り人形の、唯一糸のいうことをきかない、閉じて固まった指先の―指し示す空虚、薄れてゆく黄昏の中に目まぐるしいばかりの、消化出来ない過去が絡み合っていた、俺はイヤホンのコードを解きながら、アトランティスの壁に眠る落書きの夢を見ていたんだ、きっとそうさ…夜は陰鬱な詩ばかりを連れて来る、俺はそいつらをブランケットのように身に纏って移り行く現実を見ている、確かなものだけがリアルなら、こんな時間のすべては夢だとでも?デジタル時計は時を刻まない、だから嘘をついているような気がする、生身の身体はいつだって、僅かな振動や変化によって現実を飲み込んでいく、時計が時刻を知るためだけのものなら…時刻を知るためだけのものなら、誰もそいつを凝視したりなんかしないだ...自由形のパレード

  • どうか咲いていて

     その日、ボロアパートの一室に帰って来ると、玄関のドアを開けてすぐに、花が一輪投げ捨ててあるのを見つけた。俺は一人暮らしで、花などには興味がない。従ってこれがなんという花なのかもわからない。花を持って訪ねて来るような親しい相手も居ない。というか、俺を訪ねて来る人間などひとりも居ないと言った方が話は早い。凄く派手な花びらを持った花で、花束にするよりは一輪挿しで飾る方が映えそうな花だ。さて、と、俺は少しの間花を見下ろしながら考えた。これをどうしたものだろう?このままここで枯れさせるのもどうにも気分が悪い。枯れるまでの間、ほんの少し世話をしてみてもいいかもしれない。だが、俺の部屋には花瓶がない…ちょっと前そんな歌が流行ったなと思いながら、玄関のすぐそばにある台所スペースで花瓶の代わりになるようなものを探し、昨日...どうか咲いていて

  • 秋のホーム

      秋の三連休が明けた月曜日、その日の仕事を片付けて帰りの電車に乗ろうとしたら駅は酷い人込み。ああ、またかと思った。人身事故のため遅れております、とやっぱりの表示。駄目もとでホームに降りてみると撤去作業の真っ最中。物好きな人たちがスマートフォンで楽し気に撮影している。この街の人たちはなにもかもに慣れっこになってしまう。そうでなければここで生きる資格はないとでも言わんばかりに。かくいう私も、もうそんな雰囲気に抗おうという気持ちもすでになくなった。クタクタで、早く帰りたいのに。どんな事情があるにせよこんな日に電車に飛び込まなくたっていいじゃない。野次馬たちと、必要以上に距離を取っている人たちのおかげで椅子は空いていた。腰を掛けて、人身事故で遅くなる、と夫にメール。わかった、と短い返事。私たちはお互いにアプリや...秋のホーム

  • 終戦記念日

     わたしは古めかしい歩兵銃を抱えて焼け野原に立っていた。敵と味方の死骸がアザラシのようにそこらに転がって膨らんでおり、鼻腔の奥や喉に針金を突っ込まれて掻き回されているかのような猛烈な臭いが漂っていた。夜のようだった。けれどもしかしたらなんらかの理由で太陽が隠されてそんな様相を作り出しているのかもしれない―たとえば爆炎なんかで。どちらにしてもそこに居るわたしには正確な判断は出来なかった。この上なく疲弊して、怒りと哀しみが混濁した奇妙なカタルシスのある感情が胸中で暴れるのを感じながらただ立ち尽くしているだけだった。どれだけそうしていたのだろうか。ふとなにかしら、小さな音を聞いたような気がして数度、辺りを見回すと、視界の端に微かに動くものが映った。わたしは恐怖に囚われ、そのせいで慌ててそこに向かって銃を撃った。...終戦記念日

  • チョットヴィシャス

       チョットヴィシャス 幼い中身に釣り合わぬプライドご都合主義のリアルでっち上げて半径五十センチ以内の総統自己満足で貫き通すライフ ライツ・ナウおまえはチヨットヴィシャス勝てない喧嘩は大人の対応ライツ・ナウおまえはチョットヴィシャス無理を通して引っ込めた道理 倫理もモラルも道徳もマナーもそんなことなにも知ったこっちゃない言うことが通ればそれでいい誰の迷惑もお構いなし ライツ・ナウおまえはチョットヴィシャス駄々こね続けて墓場までライツ・ナウおまえはチョットヴィシャス努力と理性は棚の上 ええとね、「ヴィシャス」っていうのは「危ない」とか、「ヤバい」みたいなことで、かの、パンクの始祖、「セックス・ピストルズ」の二代目のベーシスト、「シド・ヴィシャス」のネタ元でもあります、で、サビに使用してる「ライツ・ナウ」っ...チョットヴィシャス

  • はじめから手遅れ

      ぼくにしてみればそれはとても上手く行っているように思えたし、彼女にしてもそう考えていると感じていた。でも、こうして突然ぼくの前から消えたということはきっと、ぼくの方になにか問題があったのだ。そこに疑うべき部分はなかった。他人との関係性に関して、ぼくには非常に希薄というか、まるで興味を持たないといってもいいくらいの感覚があり、そのせいであまり誰かと深く関係を持つということがなかった。それでも何人の人間かはぼくという存在にどういうわけかひどく興味を持ってくれて、友達になったり恋人になったりした。彼女は特に果てしない藪を丁寧に擦り抜けるみたいにぼくの深い部分にまで接近してきたので、お互いに深い信頼関係の下、夫婦になったはずだった。ぼくらの生活は、ぼくの叔父が持っている古い日本家屋で始まった。叔父は少し障害が...はじめから手遅れ

  • 反動

      無音の川の側に立っている、辺りは夜のように暗い、だが、夜なのかというとそうではない…なにか異常な理由があって、夜のような闇が演出されているという感じだ、根拠になるようなものはなにもない、ただ、そこに漂う空気の中に、人ならぬものの意図が感じられる、そんな風に言えばなんとなく想像も出来るだろうか…身を屈めて、流れの中にゆっくりと手を差し入れてみる、水の流れは速い…温度はなく、ただ、さらさらとした液体の感触が手のひらにその勢いを伝えるのみだ、立ち上がり、デニムパンツの腰の辺りで手を拭い、耳を澄ましてみる、川には音がない、それは最初にも言った、だが、それ以外の音はある、風が吹き、落葉がそれに煽られて裏返ったり、踊りながら少しばかり移動したりしている、そんな様子が聞き取れるくらいだ、生きものが―例えば野良犬なん...反動

  • 剥き出しの鉄を打ち鳴らす

    剥き出しの鉄を打ち鳴らす ツクツクボウシが啼きそびれたみすぼらしい晩夏からそのままスライドした秋の曇天は、思考回路が壊れた若い母親が道端に投げ捨てる紙おむつの色合いで、ホームセンターのワゴンから掴み取ったスニーカーの靴底は、昭和後期のままのアスファルトの路面で容赦なく擦り切れる、幼いころの擦過傷の記憶、貼り付けたまま数週間が経過した絆創膏が皮膚に植え付けていった悪臭は、まるで前借した急逝の臭い、父親の携帯電話はいつだって役に立たなくて、極潰しの息子たちは街金のATMで人生を塗り潰す、ろくでもない職にしか就けなくて白目は澱むばかり、仕方なく胃袋に注ぎ込むインスタントラーメンの涙のような塩味で真夜中は満員だ、小さな音で流れるラジオはいつだって肉親の葬式に似ていて、枕に飲み込まれる狂気は自分自身に瓜二つの奇妙な...剥き出しの鉄を打ち鳴らす

  • 完全な闇が取り払われるとき

      その日わたしはどうしても部屋のライトをつける気にならず、小さなテーブルの上の灰皿に蠟燭を置いて火をともしていた、そうして、ソファーにもたれて南米のリズムのようにゆったりと揺れる火を眺めていた、脚を組んで、背もたれに片方の肘を立てて…そんなふうにしているとそのうちに、子供の頃にそんな座り方をして母親によく叱られていたことを突然思い出した、人間は自分自身を忘れないものだ、たとえ表向きはすっかり違う人間になってしまっていたとしても…それからは記憶喪失患者のリハビリのように、長いこと思い出しもしなかったことを断片的に思い出しては、ちょっと眉をしかめたり舌を鳴らしたりしていた、昔話を楽しく語ることが出来るひとをわたしは信じない、寄せ集められた記憶はまるで虫食いだらけの黒魔術の呪文のようなものに思える、わたしは過...完全な闇が取り払われるとき

  • 欲望のもとにすべては引き裂かれる

    欲望のもとにすべては引き裂かれる 本当の破壊衝動はいつだって自分自身のはらわたに届く衝撃を待ち続けているものだ、それが芸術の本質だと言ったらお前はどんな顔をするだろうか、そこにどんな答えがあろうと俺の認識が歪むことはないだろう、なぜならそれは俺が人生のほとんどを継ぎ込んで得たものだからだ、人が生き急ぐのは照準の存在に気付けないからだ、気持ちをなだめ、目を見開けば多少の時間はかかっても必ず見えてくるものなのに…気付けないからスピードを上げてしまう、ゴールなど何処にも無いのに、急げば簡単に手に入るものだと考えてしまう、愚の骨頂だ、見苦しいもんだぜ、人生は街の喧嘩じゃない、威勢が良ければなんとかなるというようなものではないんだぜ…破壊衝動において一番の問題はなにか?それは手当たり次第に壊しにかかってしまうことさ...欲望のもとにすべては引き裂かれる

  • 深紅の繭が孕む熱が

    深紅の繭が孕む熱が 断続的に途切れる眠りの中で意識は夢の中で迷子になった、天井が、壁が、床が、ねじの回転によって歪められていく、鍋の中で粘着いていくカラメルソースのような渦の中で、内臓になにかが捻じ込まれるような感覚を覚えている、夢と現実の違いなどなかった、初めからきっと…俺はそのへんの連中よりはずっとそのことを知っていたし、だからこそその境界に強く惹かれた、そのこと自体は正しいとも間違いとも思わない、ただひとつだけはっきりと言えることは、いまのこの歪みは、その選択によってもたらされているのだという事実だった、観念的な息苦しさによって俺は喘いだ、もちろん、それが夢の中であるということは分かっていた、でも、これはきっと、魂の摩耗にはそうとうな効果があるだろうということも理解していた、だからじっと目を見開いて...深紅の繭が孕む熱が

  • ノイズまみれで抗え

     内奥の、混沌の回廊の中でフォー・ビートで蠢く魂はもはや臓腑だった、身体的な意味でのそれとは違う心臓を持ち、不規則な鼓動を鼓膜の辺りに打ち上げ続けた、だから俺はそれを書き留めなければならなかった、なにかしらの意味を偽造しなければそいつと付き合っていくことは難しかった、だからそんな繰り返しが俺自身の歴史となった…こんな話をして誰が理解してくれるだろうか?時折はそう考えることもある、しかし、往々にして、俺は理解してもらうことを望んではいない、俺は極端なまでに俺自身でしかない生き物であり、他の誰かに理解出来るような代物ではない、なにより生きる過程において、理解だの認識だのといった能力、あるいは結果はさほど必要なものではない―あるといくつかの事柄は簡潔に進めることが出来るかもしれない、でもそれは絶対的に必要なもの...ノイズまみれで抗え

  • ジェネレーション・テロリスト

      あの女が高速脇の電波塔のそばで折れるほどに自らの首を切り裂いたのは、フェデリコ・フェリーニが運命の脚本を閉じた日だった、抗鬱剤を浴びるほど飲んだ上での行為だったと聞いた、くだらない真似をしたものだ、その話を耳にしてから数週間は、忌々しい気分で過ごしたものだ、この世で一番長く生を得るのは亡霊に違いない、長い年月が経過しても、あの女は時々俺の人生の隙間に滑り込むように記憶の中で目を開く、モダン・ジャズ・カルテットのレコードしか流れない酒場の隅や、若かったころのデュラン・デュランの巨大なポスターが色褪せているビルの廃墟の前で…俺たちはくだらないコソ泥だった、二人で、くだらない芝居をしてカモを罠にはめた、そうやって小銭をせしめては、世間を馬鹿にしている過剰な十代だった、このままじゃあたしたち大人になれなくなる...ジェネレーション・テロリスト

  • 風の中の網膜の疼きを

      もう目覚めた気がするから、余計なものは捨てちまって構わないんじゃないか?集積場に投げ込んで、火がついて燃えていくさまを燃え尽きるまで眺めて、あとはなにもなかったみたいに生きることだってアリじゃないか…?ねえ、なにを持って人は終わりを知る、もしかしたらそれは、人生の終わりかもしれない、だけど―終わり方は様々だ、ねえ、そうだろう?生きたまま終わってしまっているやつなんて珍しくない、むしろそうしたやつらが面子のために必死になって生きるから、社会は、維持されている…そしてそれは俺には、まったく関係のないことだ、俺が欲しいのはいつだってオリジナリティーだ、自分が自分であるためのインプットとアウトプットだ、既存のアイデンティティに乗っかって、得意そうな顔をして生きるなんて到底出来そうもない、俺が欲しいのはいつだっ...風の中の網膜の疼きを

  • 莫大なメニュー

     奇形の、巨大な水晶の中で、自分同士の殺戮劇を見てる夜、それぞれの雄叫びと断末魔は奇妙なほどに歪んでいて、けれど要因がどこにあるのかということは理解していた、だから地縛霊のように部屋の隅に沈殿していたんだ、夜の埃とともに…夜は忘れられた野性の時間、存在を疑うほどの月光の中で、深い傷口からまた血が溢れる、この世にある、あらゆる刀の類はすべて両刃の剣さ、それはおそらく責任のようなものさ、誰かを殺そうとするときは自分が死ぬ覚悟だってしておくものだ、暗がりの光る眼、どんな場所でも構わないじゃないか、それが生きていく力になるのなら、たとえどんなに汚れた我が身でも―無菌室でしか生きられないやつら、それはテリトリーが限られてるってことさ、手慣れた範囲だけで、その他のどんなことも知ることは無く、暢気に暮らして死んでいく、...莫大なメニュー

  • 振り返ればそれは真直ぐな道

     放熱の先にあるものは静寂ではなく、更なる放熱だった、そのことを知った時俺の心中には、喜びと悲しみが同時に訪れた、おそらくそれが生きてる限り延々と続いていくものなのだと瞬間的に悟ったからだった、昂ぶりと怯えの両方で震えさえした、続くのだ、続いていくのだ、それに手を付け続ける限りは…ならば続けるしかないと思った、それをすることによって何かを得るとか、そういうことではないのだ、行為とはそれ自体に意味が生じるものだ、その中に居る自分が何を感じているのか、それが最も重要なことだ、それがわからないやつは浅ましくなる、存在への刺激、その欲望だけが理由にならなければすべてを履き違えてしまう…その点については俺はこの上なく幸運だった、自分が何を求めているのか本能的に知っていた、もちろん手段はあれこれと変化したけれど、それ...振り返ればそれは真直ぐな道

  • 静かな時計が刻む時間はいつだって死んでいる気がする

     静かな時計が刻む時間はいつだって死んでいる気がする、死体の時の中で焦点のない日々を生きて空を見上げるころにはいつだって太陽は姿を消してしまっている、ヴァンパイヤのような一日の始まり、でも夜通し起きていられるわけでもない、百万の欲望が僅かな時間に脳裏を駆け巡る、そして一番細やかなものだけが叶えられるのだ、時はすべてを確信しているみたいに歩みを止めることがない、あるいはそれは、ただ流れているだけのものだからなのかもしれない、静かに、することを選ぶ時間はあまりにも短い、いつかの同じような夜を思い出す、そしてすぐに忘れてしまう、名前の付けられない記憶だけが、二十四時間営業のレストランの生ごみのように乱雑に積み上げられては捨てられていく、記憶は消耗品だ、消費した時間でなにが出来たのか考えてみる、でもそんな時間がふ...静かな時計が刻む時間はいつだって死んでいる気がする

  • ランド・オブ・ザ・デッド(黄泉の国)

      深紅の、極細の線が無数に、ありとあらゆる方向に投げ出された髪の毛のように散らばりながら作り上げた景色だった、びっしりと重ねられたその隙間を縫うように、白く、心許ない、かろうじて人のかたちであるかもしれないといった、これまた無数の影が、縁日の金魚のように落ち着きなくうろうろと蠢いていた、空気は打ちっぱなしのコンクリ建築の地下室のようにどっしりとした湿気で満ちていた、俺はおそらく初めてそこに来た誰もがそうするように、唖然として立ち尽くしていた、細く素早い風が一瞬吹いては消えるような音がずっと頭上で繰り返されていた、そうした、五感で感じるすべてのもの以外のなにかが、景色のどこかに、或いはすべてに、明確な殺意のようなものを含んで潜んでいるような気がした、そのせいでずっと落ち着かない気分だった、ほんの少しでも気...ランド・オブ・ザ・デッド(黄泉の国)

  • 長い漏電

      地面に落ちた配電盤は鈍器で何度も殴られたかのように、陥没の挙句にあちこちが断ち切られていた、俺はそれを見下ろしていた、もう何時間も…夏だったが湖に近いその場所は薄ら寒く、薄っすらと霧に包まれていた、配電盤の蓋を開けようとしたけれど歪みが酷過ぎて不可能だった、家屋ひとつ無い小さな草むらにどうしてこんなものが捨てられているのかわからなかった、最初はただ奇妙な感じがした、それだけだった、けれど俺は、数分が経過するころにはそいつから目が離せなくなっていた、魅入られたと言ってもいいかもしれない、俺の中の何かがそいつに反応している、それはもしかしたら共鳴かもしれない、でも俺は突き詰めようとはしなかった、答えを出そうとは思わなかった、少なくとも今は…もう少しその状況を楽しんでいたかった、でも数十分後にはそれは危険な...長い漏電

  • Free

      心理の奥だけで生成される言葉がある。 それはおよそ会話の中で表現されることのない領域であり、わざわざ潜らなければ掬い上げることなどまず不可能なものである、深海魚のようなものだと思ってもらえばいい。しかも、捕まえようとすると砂に潜ったりする、砂に汚れる海底を懸命に捜索して、結果手にしても最初に見たものとはまるで違うものだったりする―二、三度そんなことを繰り返すとなにを探していたのかさえ曖昧になってしまう。息だって続かなくなる。人工的な補助があろうとなかろうと。詩作という行為をわたしなりに嚙み砕いて話すとそういうことになる。そういう行為を何十回何百回と、思考が必要ないレベルで繰り返して練り上げられるものが詩である。文字の上だけで伝えようなどと思ってはいけない。それはもっともやってはいけないことだ。メロディ...Free

  • リアリティ・バイツ

    リアリティ・バイツ 亡霊どもの集まる夜を待って、冷えたジンの酔いと性格の良くない音楽、クルーエル・ワールドに迷い込んだ、美しい世迷言と意味の無い羅列のパレード、心臓が不規則に血液を飲み込んでは吐き出す、人生の意味なんて言い始めたら詰まるところそんなものでしかない、音楽は終わった夜にこそ永遠になるものだ、だってそれは不自由な肉体を超えたいと願うものなのだから…どこかに抜け穴があるだろうか、近頃の夜は少し、息苦しさが過ぎるのだ、自業自得と言ってしまえばそれまでだが、正しい方向へ向かうだけなら人間など蟻と同じものだ、そうだろう?バランスを欠いた呼吸が乾いた空気にあてられてしばらくの間ひどく咽こんだ、製作段階で不備が発見されなかった迷路のようだ、あらゆる角を曲がってみたが壁以外の景色が見つからなかった―それを愚か...リアリティ・バイツ

  • 時が溶ける

      暗く湿った歩道街灯の灯りに照らされて所在無げな影が時折長く伸びるゴム底の足音は小さく重さを感じさせない 薄暗い公園の前でほんの少し立ち止まる何かが気になったのかそれとも歩き疲れたのかそれはすでにここではないどこかへ足を踏み入れてしまっているみたいに見える 時々聞こえるため息のような大きな呼吸はかすれていて喉になにかがつまっているのかと思わせるそんな息の後に必ずなにごとか呟いているがそれが少なくとも意味を含んでいるようには思えない 蛾が興味を示したかのように脚のあたりを8の字を書くように飛びあっけなく飛び去った 瞳はまるで生まれたての赤子のようで目玉の代わりにビー玉をはめ込んだみたいな黒目と白目の領域のない奇妙な瞳だった見えているのか居ないのかわからなかったが足取りを見る限り不便はないようだった ビート...時が溶ける

  • 欲望のピープサイト

       どこかにそれがあるんだよ、きみが欲しくてたまらないときには決まってきれいに隠れてしまうそいつ、油断大敵見つけようなんて間違っても考えちゃいけない探せば探すほどどこにあるのかわからなくなるそうしてついには投げ出してしまう気持ちが昂ってるときには誰しも近寄りがたいってもんだよね 肩の力を抜いて、深呼吸するんだどうしてそれが欲しかったのかというところから考えてみようもしかしたらものすごく似てるなにかがあるのかもしれないきみが欲しがっているのは本当はそっちかもしれないきみは一度そいつのことを忘れるくらい気を抜いて自由な気持ちで周囲を流れているものを見つめなければいけない 大切なものは懸命に追いかけなくてはいけない、それはそう、もちろんそうけれど熱を込めすぎたら冷めちまったときどうしていいかわからなくなるぜい...欲望のピープサイト

  • Let's roll

      あの、もと運動部特有の、「皆で同じ方を向いて同じように頑張る」みたいな考え方あるじゃない、いや考え方っていうかもうただのクセみたいな感じなんだと思うんだけど、もう思考の領域じゃないようなさ、ああいうのあるじゃない、チームグセとでも言うか、ともかく俺、ああいうの、大ッ嫌いなんだよね、そもそもなんでお前ら主体でもの言うんだよって思うじゃない、そんで、考え方の相違とか、そういうものを絶対に容認しないでしょ、ああいう人たちって…いつまで部活気分で居るんだよとか思っちゃうよね、一生運動場でローラー引いてろよって思うんだけどさ、なんかこう、視野が狭いというかさ、「木を見て森を見ず」みたいなところあるじゃない、そんでさ、「木だけ見とけば問題ない」みたいな落とし方するでしょ、ほぼ全員、無意識だろうけど、もう、言い方あ...Let'sroll

  • まいるぜ

      古いロッキン・オン、適当に取り出してペラペラめくってみればミック・ジャガ―がヴードゥー・ラウンジツアーをしてたのはいまの俺くらいの歳だった、まいるぜもちろん比べる相手も時代も違うってわかっちゃいるけど俺さまいまでもゴミ漁りみたいな真似して小銭を稼いでるそう言えばパティ・スミスが初めて日本でコンサートしたのもそれくらいの歳だった不思議なことに俺どっちも観てるんだなあのころは旗振りしてたから、顔は汚かったけど金だけは持ってた人生で一番羽振りがいい時期と重なってたってわけさ凄く幸運だったというべきだろうねあんなタイミングあれっきりだったもの 人生ってなんだろうってのは生きてる限り永遠のテーマだけれど時々もうどうでもいいかななんて考えるときもある一時期ほんとにヤバくてさ、数年前の話だけど死にたい死にたいって我...まいるぜ

  • 燃えているか、リトルタウン

      静寂を恐れているみたいに世間は騒ぎ続けているみんな自分のことを考えたくないのさ小虫のようにまとわりつく真実のかけらのことを  街灯に拘束されたスピーカーからはイージー・リスニングにアレンジされたパワー・トゥー・ザ・ピープルが流れてる自動販売機で誰かが飲物を買う地下駐輪場の入口で誰かの恋愛相談にずっと答えている太った女あのスマホが誰とも繋がっていないのでは訝っているのは俺だけじゃないかもしれない  みんななにを探して歩いているんだ代り映えのしない小さな街の中消費される日々の中で制限された思考をぶら下げてほとんど同じものしか入らないマイバッグを持って根拠のない希望の歌をカナル型で注ぎ続けている大切なのは自分を信じることではなく肯定することそんな定義を難なく受け入れられる脳味噌の中ではどんなパーツが欠けてい...燃えているか、リトルタウン

  • 幕ぎれ

    ぼくらは迷い子のようにただ、佇んでゴダールの映画みたいに長い長い言葉を視線だけで話した熱のない炎で炙られるような時だけが過ぎてゆきやがて思いは痺れてしまったああ風のように一瞬にはなれずああ月のようにゆっくりと操られいつかそのぬくもりも骨のかけらのように押し寄せる明日の中に埋没してしまうのだそれが願いだったから二度とは叶うことがないぼくらは破れた旗のように嵐のような記憶に煽られて互いの心に擦過傷を作り続ける震えながら幕ぎれ

  • 答えは風の中

     ふかふかのベッドに仰向けに寝転んだまま昼過ぎまでなにもせず、時折脳裏を過る残酷な妄想がひとつくらい本当になればいいのにと罪深い遊びに浸り、それに飽きて起き上がる頃にはもう日は傾き始めていた、大きな欠伸をして、丁寧に顔を洗う、明日の予定がなければまだ寝ていられた―おそらくは二、三日くらいは、余裕で―いつだってそう、永遠すらつかめそうな気分の時にはなにかに横やりを入れられる、そしてそれは、必ず良識ぶった顔をしている、ヘアバンドで髪を上げて、肌の様子を確かめる、そんなことをするくらいなら早く起きればいい、ごもっとも、でも体重を気にしている人がみんな食事制限をするわけではない、そうでしょ?惰眠を貪るくらい好きにやらせて欲しい、太った人は時に周囲を不快にさせたりするけれど(特にこんな暑過ぎる日が続く夏には)、長く...答えは風の中

  • blooming underground

      蒼褪めた雪が、赤茶けた地面に降り積もる、俺は、穿たれた穴だらけの腕を肩からぶら下げて、夏のような、冬のような世界を彷徨っている、まどろみが居座った脳髄は、もう、長いこと、濁った、湖のようで…もしかしたらそこでなにかが生きているのかもしれないといった、泡が、ときおり水面で破裂する、その、細やかさの割に、音は、とても大きい、世界は、薄っぺらの紙みたいなもので、俺の存在はいつだって、確かだったことなどない―歪んで、ノイズだらけで、妙に、澄んでいる…澄み渡っている、狂気がただ狂っているだけだなんて思ってはいないだろうか?突き抜けた狂気は純粋と同じものだ、そうは思わないか、俺の魂には、いつだってデフォルトというものがなかった、ぐにゃぐにゃと、うねうねと、蛇の形をしたスライムのように、あちこちに、流れ込んだり紛れ...bloomingunderground

  • 誰がバンビを殺したか

      運営元が二十年前に行方をくらまして放置されていた巨大迷路の跡地、その駐車場だった場所で、アスファルトを突き破るように伸びた雑草のジャングルの中に手を繋いで死んでいた二人の少女の死体―始め、警察はどんな手がかりも得ることは出来なかった、それは山の中腹にひっそりとある廃墟で、目撃者はおろか周辺に住人はひとりも居ないありさまだった、けれど探せば何か見つかるはずだと彼らは考えていた、楽観視していたと言ってもいい、その主な原因としては、二人の少女はたった今死んだばかりというように生気すら漂わせていたからだ、しかし、現場から彼女ら以外の人間の痕跡を見つけることは出来なかった、外傷はいっさいなく、死因は特定出来なかった、死体は解剖されることになった、二人揃って病死とは考え難いが、感染症のような可能性もなくはなかった...誰がバンビを殺したか

  • パス・スルー

     いつからか指先に付着していた錆色の凝固した血液は、なめてみると土にしか思えなかった、まだ数分しか経過していないのか、それとももう幾時間か経っているのか、いまはまるで判断することが出来なかった、空気は雨の後のように湿気を孕みながら上昇を続けていた、明るかったけれど、それがまだ早い時間のせいなのかそれとも室内の照明のせいなのか、やはりそれもまだ判断することが出来なかった、そもそもそれらの現実的な感覚は再びこの身体の中に戻って来るのだろうか?そんなことにすら確信が持てなかった、つまりその時点で、生きているとも死んでいるとも言えた、だけど、どこの誰がそんな確信を得ながら生きているだろう?誰だって同じだ、意識的なものも、無意識的なものも―仰向けになったまま、とりあえず右腕を高く上げてみようと思った、肩関節のあたり...パス・スルー

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