骨董商Kの放浪(22)
僕はその夜まっすぐに帰る気力を失い、時折り夜空に浮かぶ満月を見上げながら、あてもなくふらふらとし、そして最後に犬山得二の家に辿り着いた。犬山は机で書きものをしている最中であったが、僕の遅い訪問に特段驚きもせず、無造作に伸ばした髪をかき上げながら僕を部屋に招き入れると、無言で卓の上に盃を置き、そこにゆっくりと酒を注ぎ込んだ。僕はそれを、定まったことのように自然と口に運ぶ。外から小刻みに聞こえてくる秋の虫の声に耳が慣れてくるにつれ、僕は次第に平静を取り戻していき、ようやく今日の出来事を語った。 いつものように、目をしばたたかせながら、その一部始終を聞き終えた犬山は、自分の酒を一気に飲み干す。「おま…
2022/09/30 20:18