「骨董商Kの放浪」(16)
N婦人の一件があったあと、僕はしばらく家に引き籠っていた。婦人との出来事もあったが、あの李朝(りちょう)白磁を見極められなかったショックもあったわけで。あんなに、東博や民藝館や、大阪まで行って数多くの李朝白磁を見てきたはずなのに。「やっぱり、やきものは、手に取って見ないと駄目だ」僕は、骨董の難しさを痛感していたのである。 僕は頭を整理するために、先ず、時おり立ち寄る京橋の朝鮮陶磁専門店に電話をかけ訊いてみた。店主は、「あれか。美術俱楽部に出ていた瓶ね。あれは、悩ましいものだけど、やっぱり難しいだろうね。膚(はだ)の質感と手取りの重さがね」との感想。僕はそれを聴いて、支店長のあの瓶をもう一度見た…
2022/07/25 18:41