「骨董商Kの放浪」(13)
3月の初旬の或る日の午後、三代目の次の講義に向けて予習をしていた僕は、気がつくと、うたたねをしていた。その心地よい眠りを、携帯の着信音が妨げる。見ると才介からだ。僕は少々ムッとしながら「何だよ」と出ると、才介は大きな声で「寝てたのか?おい、K!寝てる場合じゃねえぞ。朗報だ!」と興奮している。訊くと、福井の最初の旧家から仕入れてきた掛軸の一本が高く売れたらしい。「どういうこと?」の問いに「だから、残りもんに福があったってこと!」と依然興奮気味。よく訊くと、師匠が、知り合いに頼んで美術俱楽部の市(いち)に出品したところ、10点のなかの1点が中国の古画だったようで、これが何と600万で落札されたとの…
2022/06/24 19:17